数分後、主人公が変わるとしたら?

ときのけん

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6話 『まだ12人』

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「とりあえず、善は急げだから」

「分かってる」

 俺はスマホのキーボードを打ち、蓮にメッセージを送信する。

『用が出来たから秋土と出かける。いつ戻るか分からないけど鍵はちゃんと閉めてくれ』

「……行くか」

「あたしがついてるから大丈夫だとは思うけど、無茶はするなよー」

 話し合った結果、未来人との接触は俺と秋土の二人で行くことになった。未来人が攻撃してきた時のリスクを警戒すれば俺はいかない方が良いのだが、秋土が霊を使って他の参加者の居場所を探知したように、俺の居場所も誰かにバレているかもしれない。そうなった場合、秋土が離れると俺は完全に無防備だ。離れるくらいなら、一緒にいる方が安全。

 スマホをポケットに入れ、俺は右足を靴の中に潜らせる────────

「……待って」

「ん?」

 振り返ると……秋土が斜め上の方向を見ていた。呆然としながらも何かを聞いているかのような表情は…………次第に青くなっていく気がした。

「……うん、うん……あー、おけ。こーれちょっとやばくなってきたかもねぇ」

「な、なんだよ。やばいじゃ何も分からないぞ!」

 秋土は折りたたんであった紙の内の一枚をもう一度取り出し、焦りを取り繕うような笑みを浮かべて俺の前に突き出した。

「こいつ。まだ題名が分かってないこいつが……あり得ないスピードでこっちに急接近してるらしい」

「な……!?」

 場所は、樹愁町の外れの森の奥。題名の一部しか判明していない、要注意人物の一人だったそいつが…………『榊渉』が────────

「……俺達を殺しに……!?」

























 ー ー ー ー ー ー ー 













 ───────数日前。


「うーん。困りました」

 榊渉を着た直後、その生命体は頭を悩ませていた。

「理解できません」

 榊渉の脳を解析し、彼の私生活や人間関係などを通じて人間の文化を知る。これを実行しようとしたのだが──────彼の記憶は生命体が持っていた事前知識との違いがあまりにも大きかったのだ。

「おかしいですね。現在の地球では戦争は行われてはいないはず。同じ種族で争う事自体私達には理解しがたいというのに、まだ若い個体が暴力行為に慣れているとはこの星が心配になります」

 生命体は改めて気付く。身体中の痣や、切り傷の数々を。

「なるほど。なるほど。理解してきました。渉、あなたはとても興味深いです」

 自分のものとなった顔をまさぐりながら、生命体は呟いた。

「おや」

 榊渉のものと思われるカバンを発見した。
 だが……それが独りでに動き始めたのだ。

「これは鞄、です。生命体ではないはずです」

 それは正しい。カバンが急に生き物になったのではなく……その中にある物が動き出したのだ。

『ぷはー!驚きました!』

「え」

『まさか宇宙人が不時着してくるなんて!誰が予想できるのでしょうか!』

「理解ができません」

 生命体は鞄の中から出てきた焦げ茶色の本に向かって歩み始める。
 彼の惑星にも本に該当する物はあったが、紙媒体なのに音声を発するものは無かった。

「これはいったいどういう仕組みなのでしょうか。興味深いです」

 生命体が焦げ茶色の本に触れようとした時────────もう一冊の本が、榊渉の後頭部を突いた。







『─────と、いう訳なのですが……参加しますか?』

「悩んでいます。この星の生命体は出来れば殺害したくありませんので」

『なるほど?』

 二冊の本が生命体の前で踊るように浮かんでいる。

「しかし、この星の指導者になれるのなら、ぜひなりたいです。私はこの星の現状をとても憂いています」

『指導者……はちょっと違うような気もしますが……。何か知りたい事があれば伝えられる範囲内でお答えしますよ』

「なら、早速質問してもいいでしょうか」

『どうぞ?』

 生命体は目を瞑り、悲しむような声色で言った。その答えが肯定であれば生命体は心を痛めるだろうと自覚していた。
 そして、榊渉に対する理解がより一層遠のくと……そう思った。

「現在私が身体を借りている地球人の榊渉も、この戦いの参加者・・・・・・・・だったのですか」

『───────ふふふ、はははは!』

 本はけたたましくページを擦らせ、笑うように震えた。

「肯定と受け取ってよろしいですね」

『えぇ、もちろん』

「私は彼にとても申し訳ない事をしてしまいましたね」

 生命体は覚悟を決めた。死ぬ覚悟ではなく、殺す覚悟を。

「参加します。渉の命を奪ってしまった責任が私にはあります」

『その責任のためにまた命を奪うなんて面白い考えですね!』

「それが責任というものでしょう」

 そして、本の片方の題名が空欄だった方に……文字が刻まれる。

『宇宙人』、と。

 そして、生命体は榊渉に降り立った方の本の題名を、凝視する。

「これがどのような題名だったのかは私には理解し難いですが、後は任せておいてください。これからは私が榊渉を全うします」

 鞄を拾い、生命体はボロボロの学ランのボタンを閉めた。

『参加者が全員揃ったら改めて開始通告をしますので、それまでしばしお待ちを』

「分かりました」

 本が閉じ、カバンの中に入り込んだのを確認すると、生命体は空を見上げた。青い空と、白い雲。それを見る事を阻む木々。

「この感覚は、高揚感と呼ぶのでしょうか。これは私が感じているモノでしょうか。それとも、この脳の物でしょうか」

 それを抑え込むように、生命体はしゃがみ込んだ。

「そうだ、仲間に連絡を入れなければ。戦いが始まってもしばらくは動かずに待っていましょう。お互いに殺し合ってくれるのならそれが最善です。何か、急を要する事態になった場合に備えて力も蓄えておきましょう」

 深い森の中。生命体は延々と独り言を呟き続ける。





 そして時間が経ち────────そう、ちょうど霧間行人と秋土一鳴が未来人と接触しようと決めた時ぐらいに。


 彼は榊渉の記憶の解析を続けていた。争奪戦が始まっても、特にやることが無かったからだ。誰かが訪れる事も無く、自分の身体の持ち主に対する理解を深めていた。
 そして、気付いた。

「この人間は、もしや。渉、君にとっての『恋人』にあたる人物なのではないだろうか」

 生命体は記憶の中のその少女の顔、身長、名前……全てを理解し、そして思い立った。

「おぉ、渉。君は彼女に心配させているのでは。私も故郷の仲間に心配されました。それはとても良くないです。なので」

 いつのまにか、榊渉の身体中の傷はすっかり塞がっていた。

「会いに行きましょう」

 両膝をグッと折り曲げ、貯めを作る。

 そして────────飛んだ。木々を潜り抜け、その中学生は宙に舞う。空を切り…………真っすぐと街へと向かう。


 参加者は、まだ12人。
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