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響月の章
第11話 響音と月希3
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32人。響音は瞬時に船から飛び降りてきた賊の人数を数えた。
賊は皆剣や槍を持っている。
月希は腰の黄龍心機を抜き放った。それだけで月希の周りに押し寄せていた賊5人が血を吹き出し倒れた。
どうやら月希には人を斬ることに躊躇いはないようだ。
「月希、あんたは下がってていいよ。あたしが全員やるから」
「何言ってるんですか? 響音さん。私がやりますよ」
「じゃあ、2人で仲良くやりましょうか」
響音は剣すら抜かず、賊の中に飛び込んだ。
賊は剣を振りかざし、槍を突き出し響音を殺そうとしてくる。響音は剣を交わし、槍を足で踏みつけ、後ろから振り下ろされた剣を素手で止め、奪い、回転。賊の首が5つ飛んだ。
奪った剣を、槍を持って突っ込んでくる賊に投げつけた。剣は賊の顔に綺麗にささり後ろに倒れた。
月希の方を見ると黄龍心機を振り1人、2人と難なく斬り倒していた。黄龍心機の刀身には見事な黄龍が刻まれていて、月希の剣術と相まって息を呑む美しさだった。
あっという間に2人で15人の賊を倒してしまった。
初めて人を斬ったにも関わらず、月希は躊躇う様子を見せなかった。これも何かの才能なのだろうか。
残っている賊は17人。それと青幻だ。
「いい動きをしますね。流石は武術学園の生徒さんです。瞬く間に無傷で私の部下を15人も倒すなんて。さ、何やってるんですか? 続けなさい」
響音と月希の強さに圧倒されて立ち尽くしていた賊徒は青幻の言葉でまた雄叫びをあげ襲い掛かってきた。
いまだに剣すら抜いていない響音は襲ってきた賊の槍を奪い頭上で振り回し囲んでいた6人を突き殺した。
闘いながら月希の様子を確認していた響音はいつの間にか船から降りて月希に近付く青幻を視認した。
月希はそれに気付き、目の前の賊の首を跳ねると青幻に斬りかかった。
しかし黄龍心機は空を斬った音だけを奏でた。
響音も一瞬何が起きたのか分からなかった。自分の目で追い切れない動きをしたとでも言うのか。青幻は月希の背後に立ち黄龍心機を握ったままの右腕を月希の頭の後ろで決めていた。
「うあっ!!」
関節を決められ悶える月希。
響音はその光景にすぐに助けに行こうと駆け寄ろうとした。
「動かないでください。この子の腕を折りますよ」
響音は舌打ちをし、その場で止まった。
響音の背後の賊が響音を羽交い締めにした。
「くそっ、離せ!!」
「もうあなた達の動きは見切りました。これ以上は私の部下が無駄に死ぬだけです」
青幻は片手だけで月希の右腕を決めたまま響音に向かって話していた。
月希は右手の黄龍心機をまだ握り締めていた。下手に動くと腕が折れる。そのくらいの事は学園の生徒なら分かる。
月希は苦悶の表情を浮かべている。
「確かにあなた達は強いです。しかし、私より遥かに弱い。それじゃあ意味がない。もう少し使えると思ったんですがね、残念です」
「弱いだと!? あたしはまだお前と闘ってすらいないじゃない!? 闘う前から弱いとか決めつけないでほしいわね!!」
「なるほど、弱い犬ほどよく吠えるとはこの事ですね。いいでしょう。響音さん、あなたがその状況から月希さんを助け出せたらあなたがたは強いと認め、学園へ行きましょう。もし、月希さんを助けることが出来なければ学園へは行きません。どちらがいいか選ばせてあげます」
「はっ!?」
響音はその選択肢を聞いて唖然とした。
月希を助け出せば青幻を学園へ行かせることを許すことになる。月希を助けなければ学園へ行くのを阻止できる。
学園へ青幻を行かせてはならない。それは響音にもよく分かった。だが響音にとっては学園よりも月希の方が大事に決まっていた。月希を助けて学園へ行くのを阻止する。それが最善策である。その為には月希を助け出すと同時に青幻を殺すしかない。
「どうしますか? 響音さん」
青幻は月希の右腕を掴む手に力を加えた。
「痛いっ!!」
月希の悲鳴が響音の耳に突き刺さる。もう月希のそんな声も、苦痛に歪む表情も耐えられない。
響音の頭は爆発寸前だった。
「月希を助ける!!」
荒い呼吸の中から震えるような声を絞り出した。
「響音さん!! そんな事したらこいつら学園に行っちゃう!!」
「大丈夫、あたしに任せて。これでも学園序列5位よ」
響音にとって1人の男に羽交い締め締めされた状態から抜け出すのは容易いことだった。問題は青幻から月希を離せるか。
やるしかない。響音は自分を羽交い締めしている賊をそのままの体勢で腰を軸にして右側に投げた。流石に賊も踏ん張るがまさか女がこんな力を出すとは思っていなかったのだろう。バランスを崩しよろめいたところへ腰の柳葉刀を抜き賊の身体に突き刺した。
そのまま青幻のもとへ走り柳葉刀を青幻の首目掛けて振るう。
届く。そう思った時、鈍い音がした。
柳葉刀を持った響音の右手は青幻に掴まれ、握り潰されていたのだ。
今まで感じたことのなかった激痛が走り、今まで出したことのなかった声で叫んでいた。
骨が手の肉を突き破り飛び出している。大量の出血で真っ赤になっている右手は柳葉刀を握ったままの状態で内側に潰されてしまったので手から離すことも出来ない。
ごろごろと地べたを転げ回る美女。
月希はその光景を目の当たりにし堪らず叫んでいた。
「いやぁぁぁあ!! 響音さん!!?」
周りの賊徒はへらへらと笑っていた。青幻からは何も聴こえない。きっと地べたを転げ回る自分を冷たく見下しているのだろう。
「学園序列5位ね。それは学園の中だけで語った方が良かったですね。外の世界は広いんですよ。5位でこの程度だとその上の方々もたかが知れますね」
青幻は関心をなくしたような声で言った。
月希は響音の名を呼び続けている。
響音は自分の右手を見た。月希に綺麗だと褒められた手は骨が突き出し血まみれで見る影もない。爪も真っ赤だった。
「は、はは、あたしの……手……が……」
響音はあまりの痛みに意識が朦朧としてきていた。
月希は涙を流しながら響音の名を呼び続けている。
「響音さん! 響音さん! 響音さん! 響音さん!」
「さて、響音さん、あなたは月希さんを助けられませんでしたね。なので我々は学園へは行きません。期待を裏切られてしまいました。」
青幻が何か言っている─────
よく判らない。
「何の収穫もないという事は避けたいので、月希さんの命と黄龍心機を貰っていくことにします」
月希の命を貰っていく……それだけ聞き取れた。次の瞬間に響音は青幻に飛び掛っていた。柳葉刀を握ったままの右腕を振り回して斬り殺してやろうと思った。
だが響音の柳葉刀は青幻には当たらなかった。何故か響音の後方の地面に刺さっていた。手は潰れて絶対に離れないはずの柳葉刀が。
怒りで取り乱していた響音はようやく自分の右腕が肩から下が存在していないことに気が付いた。大量に吹き出る血。咄嗟にもう片方の腕の通った着物の袖の布を歯で食いちぎり、右腕の傷口に巻き締付けた。
すぐに布は真っ赤に染まっていった。
月希は響音の腕が斬られたのを見て絶叫し無理やり青幻から逃れようと身体を捻った。しかし、バキっと音がし月希の右腕は折れてしまった。
ずっと握っていたはずの黄龍心機はいつの間にか手の中になかった。
月希は右腕の痛みを堪えながら響音に駆け寄る。
「響音さん、しっかりして、私、私です? 分かります? 月希です!」
響音は片膝を付いたまま虚ろな目で月希を見た。
「月希あんた……右腕」
「何言ってるんですか!? 響音さんの方が酷い……」
「ごめんね、月希……あんたが好きだったあたしの手がさ、1本なくなっちゃった。あんたが綺麗にしてくれた爪も」
響音は涙を流しながら謝罪した。
「そんなのいいですよ!! 喋らないでください!!」
いつの間に奪っていたのだろうか。青幻は黄龍心機を持って近づいて来る。右腕を斬ったのもあれだろう。
「響音さん、私のせいで、私が捕まったせいでこんな」
「月希……逃げなさい。響華に乗って学園に行くのよ……早く」
「響音さんを置いて行けるわけないでしょ!? 何言ってるんですか!?」
月希は涙を流し続けていた。
「あたしはね、あんたに死んで欲しくないの……ねぇ、月希。あたしはねあんたを妹だと思っているのよ、もう敬語はやめなさい」
「うん、うん、私もずっとお姉ちゃんだと思ってるよ?」
いつの間にか、青幻は月希の後ろに立っていた。
「青幻さん……月希は助けて。代わりにあたしが死ぬわ」
「嫌だよ!! やめてよ!! 何言ってんの!!」
月希は動く左腕を響音の肩に回し抱き締めた。
暖かかった。
妹。響音は今までそう思ってきたがそれを言い出せないでいた。
妹。こんな時にようやく伝えられた。自分が死ぬ前に、伝えることが出来た。
妹にはこれから楽しい人生がある。自分が死ねばそれで解決する。
「駄目です。あなたが助けられなかったのがいけないんです。月希さんが死ぬんですよ。世の中思い通りにいくと思ってるんですか? 響音さん」
「え?」
響音は何を言われたのか理解出来なかった。
肌と肌が触れ合っていた感触が引き剥がされていく。
妹が引きずられて行く。
妹は涙を流してはいたが何故か笑顔だった。
妹の笑顔が遠ざかっていく。
響音は追いかけようとしたが、身体が上手く動かず前に崩れた。
妹が引きずられて行く。
何故そんな悲しい笑顔をしているのだ。
妹を返して欲しい。
響音は残っている左腕を伸ばした。
届かない。
妹を返せ。
声が出ない。
涙は止まらないのに。
妹が引きずられて行く。
妹が持ち上げられた。
妹は笑っている。
「お姉ちゃん、ありがとう」
黄龍心機は持ち主であるはずの妹の身体を斬り裂いた。
一太刀。
それだけで妹の血は噴水のように吹き出し響音に降り注ぐ。
「弱い事は罪です。そんな人間は私の国家の兵隊にはなれません」
何を言っているのだろう。弱い。罪。響音の頭には目の前で倒れている可愛い妹の変わり果てた姿しか見えない。
「行きますよ。学園は残念でしたが、それ以上にいい物が手に入りました。この名刀。こんな小娘が持っていたのではまさに宝の持ち腐れ。あとその良い方の馬も連れてきなさい」
笑い声が聴こえた。
何がおかしいのだろう。
何故自分は殺されないのだろう。
殺してくれ。
私も殺してくれ。
遠ざかっていく青幻達。
月希。私の妹。
何故最期にありがとうと言ったの?
手を伸ばしても、妹には触れられなかった。
賊は皆剣や槍を持っている。
月希は腰の黄龍心機を抜き放った。それだけで月希の周りに押し寄せていた賊5人が血を吹き出し倒れた。
どうやら月希には人を斬ることに躊躇いはないようだ。
「月希、あんたは下がってていいよ。あたしが全員やるから」
「何言ってるんですか? 響音さん。私がやりますよ」
「じゃあ、2人で仲良くやりましょうか」
響音は剣すら抜かず、賊の中に飛び込んだ。
賊は剣を振りかざし、槍を突き出し響音を殺そうとしてくる。響音は剣を交わし、槍を足で踏みつけ、後ろから振り下ろされた剣を素手で止め、奪い、回転。賊の首が5つ飛んだ。
奪った剣を、槍を持って突っ込んでくる賊に投げつけた。剣は賊の顔に綺麗にささり後ろに倒れた。
月希の方を見ると黄龍心機を振り1人、2人と難なく斬り倒していた。黄龍心機の刀身には見事な黄龍が刻まれていて、月希の剣術と相まって息を呑む美しさだった。
あっという間に2人で15人の賊を倒してしまった。
初めて人を斬ったにも関わらず、月希は躊躇う様子を見せなかった。これも何かの才能なのだろうか。
残っている賊は17人。それと青幻だ。
「いい動きをしますね。流石は武術学園の生徒さんです。瞬く間に無傷で私の部下を15人も倒すなんて。さ、何やってるんですか? 続けなさい」
響音と月希の強さに圧倒されて立ち尽くしていた賊徒は青幻の言葉でまた雄叫びをあげ襲い掛かってきた。
いまだに剣すら抜いていない響音は襲ってきた賊の槍を奪い頭上で振り回し囲んでいた6人を突き殺した。
闘いながら月希の様子を確認していた響音はいつの間にか船から降りて月希に近付く青幻を視認した。
月希はそれに気付き、目の前の賊の首を跳ねると青幻に斬りかかった。
しかし黄龍心機は空を斬った音だけを奏でた。
響音も一瞬何が起きたのか分からなかった。自分の目で追い切れない動きをしたとでも言うのか。青幻は月希の背後に立ち黄龍心機を握ったままの右腕を月希の頭の後ろで決めていた。
「うあっ!!」
関節を決められ悶える月希。
響音はその光景にすぐに助けに行こうと駆け寄ろうとした。
「動かないでください。この子の腕を折りますよ」
響音は舌打ちをし、その場で止まった。
響音の背後の賊が響音を羽交い締めにした。
「くそっ、離せ!!」
「もうあなた達の動きは見切りました。これ以上は私の部下が無駄に死ぬだけです」
青幻は片手だけで月希の右腕を決めたまま響音に向かって話していた。
月希は右手の黄龍心機をまだ握り締めていた。下手に動くと腕が折れる。そのくらいの事は学園の生徒なら分かる。
月希は苦悶の表情を浮かべている。
「確かにあなた達は強いです。しかし、私より遥かに弱い。それじゃあ意味がない。もう少し使えると思ったんですがね、残念です」
「弱いだと!? あたしはまだお前と闘ってすらいないじゃない!? 闘う前から弱いとか決めつけないでほしいわね!!」
「なるほど、弱い犬ほどよく吠えるとはこの事ですね。いいでしょう。響音さん、あなたがその状況から月希さんを助け出せたらあなたがたは強いと認め、学園へ行きましょう。もし、月希さんを助けることが出来なければ学園へは行きません。どちらがいいか選ばせてあげます」
「はっ!?」
響音はその選択肢を聞いて唖然とした。
月希を助け出せば青幻を学園へ行かせることを許すことになる。月希を助けなければ学園へ行くのを阻止できる。
学園へ青幻を行かせてはならない。それは響音にもよく分かった。だが響音にとっては学園よりも月希の方が大事に決まっていた。月希を助けて学園へ行くのを阻止する。それが最善策である。その為には月希を助け出すと同時に青幻を殺すしかない。
「どうしますか? 響音さん」
青幻は月希の右腕を掴む手に力を加えた。
「痛いっ!!」
月希の悲鳴が響音の耳に突き刺さる。もう月希のそんな声も、苦痛に歪む表情も耐えられない。
響音の頭は爆発寸前だった。
「月希を助ける!!」
荒い呼吸の中から震えるような声を絞り出した。
「響音さん!! そんな事したらこいつら学園に行っちゃう!!」
「大丈夫、あたしに任せて。これでも学園序列5位よ」
響音にとって1人の男に羽交い締め締めされた状態から抜け出すのは容易いことだった。問題は青幻から月希を離せるか。
やるしかない。響音は自分を羽交い締めしている賊をそのままの体勢で腰を軸にして右側に投げた。流石に賊も踏ん張るがまさか女がこんな力を出すとは思っていなかったのだろう。バランスを崩しよろめいたところへ腰の柳葉刀を抜き賊の身体に突き刺した。
そのまま青幻のもとへ走り柳葉刀を青幻の首目掛けて振るう。
届く。そう思った時、鈍い音がした。
柳葉刀を持った響音の右手は青幻に掴まれ、握り潰されていたのだ。
今まで感じたことのなかった激痛が走り、今まで出したことのなかった声で叫んでいた。
骨が手の肉を突き破り飛び出している。大量の出血で真っ赤になっている右手は柳葉刀を握ったままの状態で内側に潰されてしまったので手から離すことも出来ない。
ごろごろと地べたを転げ回る美女。
月希はその光景を目の当たりにし堪らず叫んでいた。
「いやぁぁぁあ!! 響音さん!!?」
周りの賊徒はへらへらと笑っていた。青幻からは何も聴こえない。きっと地べたを転げ回る自分を冷たく見下しているのだろう。
「学園序列5位ね。それは学園の中だけで語った方が良かったですね。外の世界は広いんですよ。5位でこの程度だとその上の方々もたかが知れますね」
青幻は関心をなくしたような声で言った。
月希は響音の名を呼び続けている。
響音は自分の右手を見た。月希に綺麗だと褒められた手は骨が突き出し血まみれで見る影もない。爪も真っ赤だった。
「は、はは、あたしの……手……が……」
響音はあまりの痛みに意識が朦朧としてきていた。
月希は涙を流しながら響音の名を呼び続けている。
「響音さん! 響音さん! 響音さん! 響音さん!」
「さて、響音さん、あなたは月希さんを助けられませんでしたね。なので我々は学園へは行きません。期待を裏切られてしまいました。」
青幻が何か言っている─────
よく判らない。
「何の収穫もないという事は避けたいので、月希さんの命と黄龍心機を貰っていくことにします」
月希の命を貰っていく……それだけ聞き取れた。次の瞬間に響音は青幻に飛び掛っていた。柳葉刀を握ったままの右腕を振り回して斬り殺してやろうと思った。
だが響音の柳葉刀は青幻には当たらなかった。何故か響音の後方の地面に刺さっていた。手は潰れて絶対に離れないはずの柳葉刀が。
怒りで取り乱していた響音はようやく自分の右腕が肩から下が存在していないことに気が付いた。大量に吹き出る血。咄嗟にもう片方の腕の通った着物の袖の布を歯で食いちぎり、右腕の傷口に巻き締付けた。
すぐに布は真っ赤に染まっていった。
月希は響音の腕が斬られたのを見て絶叫し無理やり青幻から逃れようと身体を捻った。しかし、バキっと音がし月希の右腕は折れてしまった。
ずっと握っていたはずの黄龍心機はいつの間にか手の中になかった。
月希は右腕の痛みを堪えながら響音に駆け寄る。
「響音さん、しっかりして、私、私です? 分かります? 月希です!」
響音は片膝を付いたまま虚ろな目で月希を見た。
「月希あんた……右腕」
「何言ってるんですか!? 響音さんの方が酷い……」
「ごめんね、月希……あんたが好きだったあたしの手がさ、1本なくなっちゃった。あんたが綺麗にしてくれた爪も」
響音は涙を流しながら謝罪した。
「そんなのいいですよ!! 喋らないでください!!」
いつの間に奪っていたのだろうか。青幻は黄龍心機を持って近づいて来る。右腕を斬ったのもあれだろう。
「響音さん、私のせいで、私が捕まったせいでこんな」
「月希……逃げなさい。響華に乗って学園に行くのよ……早く」
「響音さんを置いて行けるわけないでしょ!? 何言ってるんですか!?」
月希は涙を流し続けていた。
「あたしはね、あんたに死んで欲しくないの……ねぇ、月希。あたしはねあんたを妹だと思っているのよ、もう敬語はやめなさい」
「うん、うん、私もずっとお姉ちゃんだと思ってるよ?」
いつの間にか、青幻は月希の後ろに立っていた。
「青幻さん……月希は助けて。代わりにあたしが死ぬわ」
「嫌だよ!! やめてよ!! 何言ってんの!!」
月希は動く左腕を響音の肩に回し抱き締めた。
暖かかった。
妹。響音は今までそう思ってきたがそれを言い出せないでいた。
妹。こんな時にようやく伝えられた。自分が死ぬ前に、伝えることが出来た。
妹にはこれから楽しい人生がある。自分が死ねばそれで解決する。
「駄目です。あなたが助けられなかったのがいけないんです。月希さんが死ぬんですよ。世の中思い通りにいくと思ってるんですか? 響音さん」
「え?」
響音は何を言われたのか理解出来なかった。
肌と肌が触れ合っていた感触が引き剥がされていく。
妹が引きずられて行く。
妹は涙を流してはいたが何故か笑顔だった。
妹の笑顔が遠ざかっていく。
響音は追いかけようとしたが、身体が上手く動かず前に崩れた。
妹が引きずられて行く。
何故そんな悲しい笑顔をしているのだ。
妹を返して欲しい。
響音は残っている左腕を伸ばした。
届かない。
妹を返せ。
声が出ない。
涙は止まらないのに。
妹が引きずられて行く。
妹が持ち上げられた。
妹は笑っている。
「お姉ちゃん、ありがとう」
黄龍心機は持ち主であるはずの妹の身体を斬り裂いた。
一太刀。
それだけで妹の血は噴水のように吹き出し響音に降り注ぐ。
「弱い事は罪です。そんな人間は私の国家の兵隊にはなれません」
何を言っているのだろう。弱い。罪。響音の頭には目の前で倒れている可愛い妹の変わり果てた姿しか見えない。
「行きますよ。学園は残念でしたが、それ以上にいい物が手に入りました。この名刀。こんな小娘が持っていたのではまさに宝の持ち腐れ。あとその良い方の馬も連れてきなさい」
笑い声が聴こえた。
何がおかしいのだろう。
何故自分は殺されないのだろう。
殺してくれ。
私も殺してくれ。
遠ざかっていく青幻達。
月希。私の妹。
何故最期にありがとうと言ったの?
手を伸ばしても、妹には触れられなかった。
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