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憎悪の始まりの章
第6話 帰還
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翌朝、村には活気が戻っていた。
カンナとつかさが熊退治から戻った頃には盗賊団の決着がついており、燈と詩歩が村人達を各自の家に戻しているところだった。
熊退治成功の報告も村長に済ませ、村での問題ごとは全て解決したのだった。
カンナとつかさは学園の生徒専用の宿に泊まり、朝を迎えたのだった。
村から出発しようとした時、エナメル革の真っ赤なド派手なロングコートを着た小柄な女の子、火箸燈が詩歩と共に出て来た。
「澄川カンナ……だっけ? まさかあんなでかい熊を素手で退治しちゃうなんて、流石だよ! あたしより序列が上なだけはあるね!」
「あ……ありがとう」
カンナと燈の会話を聞いていた詩歩が燈に耳元で何か囁いていた。
燈はその囁きを聞き終わる前に頭を掻きながら言った。
「多綺? あー、あいつはあたしもムカついてんだよね! あいつの言う事を何でいちいち聞かなきゃならないんだよ? あいつはいずれぶっ殺す!!」
「ちょ、ちょっと! なんて事言うのよ!? 私はそんな事言ってないでしょ!? あーもー最悪」
詩歩は耳打ちした燈に裏切られて不貞腐れてしまった。
カンナは燈の言葉を聞いてくすりと笑った。
「あ? 何笑ってんだよ?」
燈がイラッとしながらカンナの顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。何でもないの。私達はそろそろ行くね。また学園で会いましょう」
既に乗馬していたつかさの後ろにまたがりカンナは笑顔で手を振った。
「おう! じゃあな! 多綺をぶっ殺す前に序列的にまずつかさをぶっ殺して次がお前だからなぁ、カンナー!」
燈は楽しそうに山道へ駆けていく二人を見送ってくれた。しかし、詩歩は未だにそっぽを向いていた。そんな様子を見てカンナとつかさは笑ながら学園への帰路へついた。
学園に到着するとつかさはカンナに響音の事を聞いた。
「響音さんと何があったの? 正直に言うとね、カンナはその、序列の件で学園の生徒達から冷たい目で見られているの」
「知ってる」
「それ以上に響音さんに何か言われたりされたりしているの?」
カンナは微笑んだ。
「うん、されてる。私に専用の馬を支給されないようにしたり、任務の共を探しにくくしたり、今回は偽の情報で私を学園から追い出そうとしたり」
「え!? そうだったの? 今回の任務もあの人が!?」
「昨日祝さんの話を聞いて全て理解したよ。熊退治の任務は本当は火箸さんと祝さんで充分だったはず。それなのに盗賊団が大人数で手一杯だからとか嘘ついてわざわざ私を借り出し、任務の共を探せなくして1人で熊退治に行かせ、あの3頭の熊達に殺させようとしたのよ。きっと念には念を入れて熊の数も偽った」
つかさは青ざめていた。
「そんな……じゃあ私がカンナと一緒に行かなかったら響音さんの思う壷だったってわけ? それが本当なら許せない! そこまでするなんて! 私今から響音さんのところに行ってくる」
カンナはつかさの腕を掴んだ。
「待って。でもね、私は大丈夫! つかさが私に希望を与えてくれたから。この絶望の学園生活に光がある事を教えてくれたから。私もう負けないって決めたの。リリアさんや火箸さんだっているし、私この学園で1人じゃなかったの。だから大丈夫」
「大丈夫って……カンナ」
「決着は、自分で付ける」
つかさはカンナの覚悟を決めた顔を見て息を飲んだ。
突然、鋭い氣を感じた。
この氣は間違えるはずがない。
響音だ。
「全部聞いたわよ? カンナ。随分と私を酷く言ってくれたわね?」
右腕のない女はいつの間にか背後に立っていた。
「響音さん、あなた今の話、本当なんですか?」
つかさとカンナは馬を降り響音を見詰めた。
「カンナ、お前さぁ、任務の相方が見つからない時どんな気分だった? 絶望したでしょう? お前に友達がいない事は知っていたからお人好しのリリアを抑え、そして同じ体特の奴らも抑えておけば絶対に共は見つからないと思っていたのに……つかさ、お前と仲が良かったなんて大誤算だったわよ」
「響音さんあなた、なんて酷いことするのよ! いくら何でもやり過ぎよ!」
カンナは唇を噛み締めて必死に気持ちを抑えていた。
「ついでに教えてあげると、あの熊さんの氣が感知しきれなかったのはカンナ、お前のミスではないわ。私が特別に氣を消す方法を使ってみたの。お前に確実に死んでもらう為にね」
つかさの顔は赤黒くなっていた。
「このゲスがぁ! あんた人間じゃないわよ!! どうしてそんなこと出来るの!? カンナに何の恨みがあるって言うのよ!!」
響音に掴み掛かろうとしたつかさをカンナは後から羽交い絞めに押さえ付けた。
「やめてつかさ。仕合以外の傷つけ合いは退学になっちゃう」
「そんなこと! この女をこの学園に残しとくわけには」
「仕合を、申し込みます」
つかさは目を丸くしてカンナの方を見た。
「カンナ……この女は序列8位なんだよ? 11位のあなたじゃ」
カンナはつかさの言葉を最後まで聞かなかった。
「学園序列8位、多綺響音さん。学園序列11位澄川カンナはあなたに序列仕合を申し込みます」
「駄目よカンナ! それなら私が申し込むわ」
響音はにやりと笑った。
「はははは!! ついに仕合を申し込んだわね! ようやくこれで、澄川カンナ、お前を正当に殺すことが出来るわ!」
狂ったような響音の笑い声はしばらくの間カンナとつかさの耳に残った。
翌日、澄川カンナと多綺響音の序列仕合は数日後執り行われることが決定し、学園中を騒がせる事となるのだった。
そして、ここから澄川カンナの闘いの日々が幕を開ける。
~憎悪の始まりの章~ 完
カンナとつかさが熊退治から戻った頃には盗賊団の決着がついており、燈と詩歩が村人達を各自の家に戻しているところだった。
熊退治成功の報告も村長に済ませ、村での問題ごとは全て解決したのだった。
カンナとつかさは学園の生徒専用の宿に泊まり、朝を迎えたのだった。
村から出発しようとした時、エナメル革の真っ赤なド派手なロングコートを着た小柄な女の子、火箸燈が詩歩と共に出て来た。
「澄川カンナ……だっけ? まさかあんなでかい熊を素手で退治しちゃうなんて、流石だよ! あたしより序列が上なだけはあるね!」
「あ……ありがとう」
カンナと燈の会話を聞いていた詩歩が燈に耳元で何か囁いていた。
燈はその囁きを聞き終わる前に頭を掻きながら言った。
「多綺? あー、あいつはあたしもムカついてんだよね! あいつの言う事を何でいちいち聞かなきゃならないんだよ? あいつはいずれぶっ殺す!!」
「ちょ、ちょっと! なんて事言うのよ!? 私はそんな事言ってないでしょ!? あーもー最悪」
詩歩は耳打ちした燈に裏切られて不貞腐れてしまった。
カンナは燈の言葉を聞いてくすりと笑った。
「あ? 何笑ってんだよ?」
燈がイラッとしながらカンナの顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい。何でもないの。私達はそろそろ行くね。また学園で会いましょう」
既に乗馬していたつかさの後ろにまたがりカンナは笑顔で手を振った。
「おう! じゃあな! 多綺をぶっ殺す前に序列的にまずつかさをぶっ殺して次がお前だからなぁ、カンナー!」
燈は楽しそうに山道へ駆けていく二人を見送ってくれた。しかし、詩歩は未だにそっぽを向いていた。そんな様子を見てカンナとつかさは笑ながら学園への帰路へついた。
学園に到着するとつかさはカンナに響音の事を聞いた。
「響音さんと何があったの? 正直に言うとね、カンナはその、序列の件で学園の生徒達から冷たい目で見られているの」
「知ってる」
「それ以上に響音さんに何か言われたりされたりしているの?」
カンナは微笑んだ。
「うん、されてる。私に専用の馬を支給されないようにしたり、任務の共を探しにくくしたり、今回は偽の情報で私を学園から追い出そうとしたり」
「え!? そうだったの? 今回の任務もあの人が!?」
「昨日祝さんの話を聞いて全て理解したよ。熊退治の任務は本当は火箸さんと祝さんで充分だったはず。それなのに盗賊団が大人数で手一杯だからとか嘘ついてわざわざ私を借り出し、任務の共を探せなくして1人で熊退治に行かせ、あの3頭の熊達に殺させようとしたのよ。きっと念には念を入れて熊の数も偽った」
つかさは青ざめていた。
「そんな……じゃあ私がカンナと一緒に行かなかったら響音さんの思う壷だったってわけ? それが本当なら許せない! そこまでするなんて! 私今から響音さんのところに行ってくる」
カンナはつかさの腕を掴んだ。
「待って。でもね、私は大丈夫! つかさが私に希望を与えてくれたから。この絶望の学園生活に光がある事を教えてくれたから。私もう負けないって決めたの。リリアさんや火箸さんだっているし、私この学園で1人じゃなかったの。だから大丈夫」
「大丈夫って……カンナ」
「決着は、自分で付ける」
つかさはカンナの覚悟を決めた顔を見て息を飲んだ。
突然、鋭い氣を感じた。
この氣は間違えるはずがない。
響音だ。
「全部聞いたわよ? カンナ。随分と私を酷く言ってくれたわね?」
右腕のない女はいつの間にか背後に立っていた。
「響音さん、あなた今の話、本当なんですか?」
つかさとカンナは馬を降り響音を見詰めた。
「カンナ、お前さぁ、任務の相方が見つからない時どんな気分だった? 絶望したでしょう? お前に友達がいない事は知っていたからお人好しのリリアを抑え、そして同じ体特の奴らも抑えておけば絶対に共は見つからないと思っていたのに……つかさ、お前と仲が良かったなんて大誤算だったわよ」
「響音さんあなた、なんて酷いことするのよ! いくら何でもやり過ぎよ!」
カンナは唇を噛み締めて必死に気持ちを抑えていた。
「ついでに教えてあげると、あの熊さんの氣が感知しきれなかったのはカンナ、お前のミスではないわ。私が特別に氣を消す方法を使ってみたの。お前に確実に死んでもらう為にね」
つかさの顔は赤黒くなっていた。
「このゲスがぁ! あんた人間じゃないわよ!! どうしてそんなこと出来るの!? カンナに何の恨みがあるって言うのよ!!」
響音に掴み掛かろうとしたつかさをカンナは後から羽交い絞めに押さえ付けた。
「やめてつかさ。仕合以外の傷つけ合いは退学になっちゃう」
「そんなこと! この女をこの学園に残しとくわけには」
「仕合を、申し込みます」
つかさは目を丸くしてカンナの方を見た。
「カンナ……この女は序列8位なんだよ? 11位のあなたじゃ」
カンナはつかさの言葉を最後まで聞かなかった。
「学園序列8位、多綺響音さん。学園序列11位澄川カンナはあなたに序列仕合を申し込みます」
「駄目よカンナ! それなら私が申し込むわ」
響音はにやりと笑った。
「はははは!! ついに仕合を申し込んだわね! ようやくこれで、澄川カンナ、お前を正当に殺すことが出来るわ!」
狂ったような響音の笑い声はしばらくの間カンナとつかさの耳に残った。
翌日、澄川カンナと多綺響音の序列仕合は数日後執り行われることが決定し、学園中を騒がせる事となるのだった。
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