序列学園

あくがりたる

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学園戦争の章《承》

第102話~迂回~

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 前方から数人が走って来るのが見えた。
 それは医務室にいたはずの御影みかげ蔦浜つたはま、キナ、そしてもう1人は、御影と共にまりかの手術をした医療班の小牧こまきという男だ。
 斑鳩いかるがは馬を止めた。4人も斑鳩に気が付いたようで声を掛けてきた。

「あ!  斑鳩さん!  御影先生の部屋へ行ったんじゃなかったんですか!?」

 御影の手を引いて先頭を走ってきたキナが息も切らさずに言った。他の3人は勿論息を切らしていた。

「この先で影清かげきよさんに会った。どうやらこちら側に引き込めそうにない。情けない話だが今の俺ではあの人には勝てない。だから”閃玉せんぎょく”で上手く目を眩ませて一旦巻いてきた。お前達こそ、何かあったのか?」

「医務室が栄枝さかえだ先生と医療班の奴らに襲われたんです。いきなり御影先生に手を出してきたから話す間もありませんでした」

 蔦浜が言った。

「それは違うわ。蔦浜君」

 蔦浜の説明に御影が異議を挟んだ。蔦浜もキナも御影の顔を見た。小牧だけは静かに腕を組んで黙っていた。

「栄枝先生は私を攻撃する振りをして、懐にメモを入れてくれたのよ」

 そう言うと、御影は自分の懐から1枚の小さな紙を取り出した。

「それは?」

 斑鳩が聞いた。
 御影は全員を一通り見回すと、その紙に目を落とし読み始めた。

「『御影、お前の事だから、生徒達に手を貸しているのかもしれない。もしそうなら、いや、そうでなくとも反逆者と疑われている生徒達を連れてこの学園から去れ。俺はお前に失望したわけではない。この学園に残っていたら危険だ。残念だが俺は学園の陰謀に加担している。お前が知ったら怒るだろうな。だがこの計画はやめるわけにはいかない。総帥への大恩に報いる為には総帥の計画を成功させるしかない。生徒達の為にも、一刻も早くこの学園から去れ。既に瞬花しゅんかは動いている』」

 御影は読み終わるとその紙を小牧に渡した。小牧はポケットからライターを取り出し火を点けて燃やしてしまった。
 その様子を斑鳩、蔦浜、キナの3人はただその様子を見ていた。

「栄枝先生は?」

「あぁ、私が蹴り飛ばしちゃったけど、生きてますよ。医療班の人達も」

 斑鳩が聞くとキナが申し訳なさそうに答えた。

「栄枝先生は私達を逃がそうとしてくれたわ。さっきも本気で捕まえようとはしなかった。ほかの医療班にも悟られないようにさり気なくね。そうでしょ?  小牧君」

「そうです。御影先生と最も親しい俺に、御影先生を守るようにと仰られました。本当は、この学園から連れ出せと言われています」

 小牧の発言に一同驚いた顔をした。

「なるほどな。確かに、生き残る為にはこの学園を出る事が確実」

「逃げないわよ。私は」

 斑鳩の言葉を最後まで聞かず、御影は断言した。皆御影の言葉を予想していたのかあまり驚きはしなかった。

「あなた達生徒は逃げないんでしょ?  だったら私も逃げない。生徒達を残して1人悠々と逃げられるものですか。私は学園の陰謀は何一つ知らない。役には立たないかもしれないけど、協力させて」

「あなたが匿ってくれたおかげで俺達は今こうして全員生きて戦えているんですよ。分かりました。ではこれから何があろうと全員で戦い、生き残りましょう!  小牧さんはどうしますか?」

 斑鳩が御影の隣りに立っている小牧に聞いた。

「勿論、俺も協力します」

「決まりですね」

 小牧の加入に皆笑顔を見せ頷いた。

「よし、それじゃあとりあえず、出来るだけ森の中を進みながら御影先生の部屋へ向かおう。斉宮いつきたかむら畦地あぜちが心配ですからね。澄川も美濃口みのぐちさんを説得出来たのか……」

 斑鳩は御影の部屋がある方を見てそう呟くと、馬に乗っていない4人の歩く速さに合わせてゆっくりと森の中へ歩き出した。




 氣を感じた。強い氣だ。その氣はかつて感じた事のある嫌なものだった。
 影清。あの男が近くにいる。
 カンナは響華きょうかを止めた。

「カンナちゃんは気付いてるかしら?  この先に、影清さんがいるわよ」

 カンナの後ろに乗っているまりかが眼を蒼く光らせながら言った。

「はい。倒せるものなら倒してしまいたいですけど」

「無理よ」

 カンナの言葉に間髪入れずまりかは否定した。
 隣りに馬を止めている光希もまりかの方を見た。

「私が万全なら勝てる可能性はあったわ。カンナちゃんと2人ならね。でも右手も右脚もこの有様じゃ絶対に無理。みんな死ぬわ」

 まりかは包帯が巻かれている右手と右脚をカンナと光希に見せた。

「こちら側に引き込む事も難しいですよね」

「無理ね。私達を喜んで殺そうとするわよ」

 またまりかはカンナが言い終わるとすぐに否定した。

「こちら側のメンバーで影清さんに勝てる人は鏡子きょうこさんだけ。あとはまぁ、こちら側なのか分からないけど、もしかしたら、伽灼かやが可能性があるかなぁ~って感じ」

 まりかの話にカンナも光希も下を向いた。

「鏡子さんに影清さんを倒してもらう。これが最善策。でも、敵が影清さんだけならまだいいわ。問題は師範達と神髪瞬花かみがみしゅんかよ」

神々廻かがまえ師範は美濃口さんと私で倒しました」

「あら、やるじゃない!  ……と、言いたいところだけど、師範が神々廻師範のように簡単に倒せるとは思わない方がいいわよ?  カンナちゃん」

 まりかは笑顔で忠告をした。

「どういう事ですか?」

 カンナは首を傾げた。

「神々廻師範は弓術専門の師範。弓以外の武術には対応してないわ。弓術という武術はどうしても接近戦では他の武術には敵わない。でもね、他の武術の師範達はそうはいかない。カンナちゃんは重黒木じゅうくろき師範に勝てる?  私は剣特両師範には勝てないわ。例えこの身体が万全でもね。師範は教え子如きには負けない。だから、師範なのよ」

 まりかは笑顔でこの学園の師範達の恐ろしさを語った。

「じゃあ、どうすれば……」

 光希が溜息をついた。

「決まってるじゃない、光希」

 暗い顔をしている光希に、カンナは凛として言った。

「みんなで力を合わせて戦うのよ!」

 カンナの頼もしい顔を見て、光希の堅い表情が和らいだ。

「さすがカンナちゃん!!  かっこいい!!  可愛い!!」

 まりかはカンナを背後から抱き締めた。

「ちょっと!?  畦地さん!?  どこ触ってるんですか!?」

「ふふ!  さ、それより、どうする?  影清さんはこっちに向かって歩いて来てるわよ~」

 まりかの神眼しんがんとカンナの氣の探知能力があれば影清に会わずにやり過す事は容易である。

「迂回します。影清さんには会わないように、医務室に向かいましょう」

 カンナの即決にまりかも光希も頷き脇道に馬を進めた。


 影清の動きに注意しながら森の中の迂回路を進んで行くと、カンナとまりかはお互い顔を見合わせた。
 斑鳩の氣だ。
 そのすぐ近くに御影や蔦浜、キナも一緒にいる。もう1人はあまり馴染みのない氣だが、まりかが神眼で見ていたのでその人物が医療班の小牧だと分かった。
 その場所は、カンナ達の場所から数百メートル先の森の中だ。
 すぐに駆けて斑鳩達の前へ躍り出た。

「斑鳩さん!  良かった、無事で……」

 カンナは叫んだ。

「澄川!?  お前、こんな所で何を!?  美濃口さんの説得は……」

 斑鳩達は驚いて目を見開いていた。
 カンナは今の状況を全て説明した。

  ~~~~

「なるほどな。弓特が全員味方に付いてくれたのは心強い。良くやった。澄川」

 斑鳩の言葉にカンナは赤面し口元を緩めた。

「あれ~?  カンナちゃん照れてるのぉ~?  か~わい~!」

 まりかがカンナの背中を人差し指でつつきながら茶化したのでカンナはむっとしてまりかを見た。

「さすがカンナちゃんだな!  これで俺達は勝利へ一歩近付いたな!」

 蔦浜が笑顔で親指を立てた。
 蔦浜の隣りのキナはいつもより蔦浜との距離が近いように感じた。それにとても大人しい。

「それじゃあ私達は弓特寮へ向かうとしましょうか。そこで皆合流したら作戦会議よ」

 御影が言った。

「そうですね。その前に、畦地さん。美濃口さん達がどこにいるか分かりますか?私達は斑鳩さんとも合流出来たから美濃口さん達にその事を知らせないと。私の氣の感知で探したんですが、近くにいないようで……」

「おぉ?  ついにカンナちゃんは私を頼ってくれたわね~?  嬉しいから頑張っちゃうよー!」

 まりかはとても嬉しそうに言いながら蒼い眼で辺りを見回した。

「ふむふむ、鏡子さん達はここから1キロくらい離れた場所を移動しているわ。剣特寮と体特寮の間辺り」

「それじゃあ斑鳩さん。私と畦地さんと光希で鏡子さん達を呼んでくるので、先に弓特寮へ向かってください」

 カンナが言うと斑鳩は心配そうな顔で聞いた。

「大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。私と畦地さんの探知能力があれば、敵に見付からずに移動する事なんて簡単な事です。光希、サポートをお願いね」

「分かった。頑張る」

 カンナの言葉を聞いて斑鳩は首を縦に振った。
 そして、すぐに斑鳩は御影と蔦浜、キナを連れて弓特寮の方へ向かった。

「私達も急ぎましょう。早く合流して休息をとらないと身体がもたない」

「そうだね、カンナちゃん。私も疲れちゃったよ。ちゃっちゃと鏡子さん達連れ戻して弓特寮へ行こう」

 カンナと光希は頷いた。光希にもかなりの疲労が窺える。
 早くこの戦いを終わらせたい。そしてまた楽しかった学園生活を取り戻したい。
 今のカンナにはその想いだけがあった。
 そしてまた、響華に鞭を打った。
 
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