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虎狼の章
第50話 闇に舞う赤い花びら
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舞冬は割天風の執務室の天井裏に侵入していた。
隠密で動くのは身軽で素早い舞冬にとっては得意中の得意だった。しかし、得意武器の方天戟だけは大き過ぎて隠密行動には向かない為腰に挿した短刀だけを持って行動する。
割天風と言えど、気配を殺す事に長けた舞冬の気配は感じ取ることは出来ないはずだ。
舞冬は息を潜め天井の板の隙間から割天風の様子を窺った。
外は日が沈んで間もなく、部屋にはランプの灯が灯ってゆらゆらと割天風の影を揺らしていた。
割天風は何やら資料を見ているようだが内容までは見る事が出来ない。
「なかなか思うようにはいかんのぉ。久壽居が抜けた今使えるのは瞬花とまりかくらいじゃのぉ」
割天風の部屋には今他に人はいない。
独り言。
舞冬は首を傾げた。
今の言葉はどういう意味だろう。
すると部屋に誰かが入って来た。
腰に2本の刀を佩いた女。畦地まりかだ。
舞冬はまりかの動向も注意深く見た。
しかし、まりかは部屋に入ると割天風の前で立ち止まり動かなくなってしまった。
舞冬は息を呑んだ。
「総帥……」
まりかが静かに言った。
割天風は何も言わず手に持っていた資料を机の上に置いた。
「何人だ」
「1人」
舞冬はまさかと思った。
その時まりかが急に天井裏に隠れていて見えないはずの舞冬の方を見た。
目が蒼く光っている。
────神眼!?────
まりかは微笑んでいる。
舞冬は舌打ちをしてすぐに天井裏から脱出し割天風の執務室から離れた。
「殺すなよ、まりか」
「殺しちゃうかもです」
まりかは笑顔で部屋を出た。
辺りは日も沈んだ暗闇である。
舞冬は走った。
怖くなった。
割天風の言葉の意味は解らない。しかし良くない事だという事は何故だか感じた。
そして何より畦地まりかに盗み聴きしていた事がバレた。
舞冬はとにかく走った。近くの木立に逃げ込んだ。とりあえずここで騒ぎが起こるかどうか様子を見よう。
舞冬は呼吸を整える為深呼吸をした。
「舞冬。逃げ切ったつもりなのー?」
舞冬の首元には刃が突き付けられていた。
いつの間に背後を取られたのだろうか。
舞冬は背筋が凍った。
「畦地まりか……!!」
「はーあーい?」
まりかはいつも通り舐めた返事を返して来た。
「私を……殺すの?」
背後にいるまりかに問い掛けた。
「そうしたいんだけど、総帥が殺すなってさぁ。私あなた嫌いだから殺してもいいんだけどさ」
まりかは舞冬の首に刀を押し付けてきた。
「総帥は何を企んでるの!?」
「本当にあなたって馬鹿よね! 教えるわけないじゃない。詮索しなければ平和に暮らせたのにね。どいつもこいつも」
「斑鳩さんのこと!?」
「あら。そこまで気付いてるんだ。やっぱり、殺しちゃうかな!!」
舞冬の首に突き付けられた刀が動く瞬間、舞冬は身を屈め、まりかの脇腹に肘を入れて吹き飛ばした。
「うっ!?」
舞冬はすぐに反転し逃げ去った。
「待ちなさい!!! 臆病者!!! 私に手を出して……!! 絶対殺す!!!」
舞冬は一心不乱に走った。
逃げているうちに森の奥へ奥へと入って行った。
後ろからはまりかが追って来ている。
逃げなければ……殺される。
足場が悪い森の中を必死に走り抜ける。
追い掛けてくるまりかは笑っていた。
狂っている。
目の前が拓けた。
海が見える。
東の岩壁。
とうとう追い詰められた。
「そうねぇ。1つだけ、あなたが助かる方法を教えてあげるわ」
行く手を阻む海を見て次の手を考えていた舞冬の背後からまりかがにこにこしながら近付いてきた。
「舞冬。私の奴隷になりなさい」
「は?」
「私に忠誠を誓うなら命だけは助けてあげる。どうする? 死ぬ? 跪く?」
「私があなたの足の指の間でも舐めればいいの?」
「そこまで指定はしてないけど、まぁそんなところね」
「とんだ変態さんなのね、まりかさん。可愛い顔して気持ち悪いわ」
舞冬は両手を広げ首を振った。
「そう……あなたに変態と言われるなんて夢にも思わなかったわ。じゃああなたはただでは殺さずにすんごく苦しめていたぶってあげる。私、変態だから」
まりかは言い終わらぬうちに舞冬に斬りかかった。
舞冬は腰の短刀を抜き刀を受けた。
まりかの1本の刀を弾いてもまた別のもう1本が襲って来る。
舞冬は素早い身のこなしでまりかの二刀流を受けていく。
「まさかとは思うけど、剣で私を倒せると思ってないわよね? ってか、響音のクズに102回も負けてる時点で私に勝てるわけないじゃないの」
舞冬の後ろ回し蹴りがまりかの左肩に当たった。まりかは少しバランスを崩したがすぐに体制を立て直した。
「響音さんを馬鹿にしないでよ!」
舞冬はまりかの2本の刀を上手く弾きつつまりかの腹に蹴りを入れた。
まりかは僅かによろめいただけだった。
「あーー!! もーーー!! 痛い!! ムカつく!!」
まりかが苛立って叫んだ。
舞冬が斬込む。
しかしまりかの身体に舞冬の刃は届かない。
────方天戟さえあれば────
「方天戟さえあれば?」
舞冬は心の中で思った事を言い当てられ動揺した。
まりかの眼は不気味な紋様を浮かべ蒼く光っている。
「方天戟さえあれば私に勝てたかも? って?」
まりかは舞冬の身体に蹴りを入れた。
舞冬がよろめいた。
「無理に……決まってんでしょおおおがぁぁぁあ!!!」
バランスを崩した舞冬にまりかが怒声を上げながら2本の刀を振った。
舞冬の身体からは鮮血。宵闇に不気味に舞った。
僅かに後ろに跳んで躱した筈だった。しかしその行動が自ら地面のない場所へと跳んだ事を舞冬は自分の舞い散る赤い花びらのような血を見ながら悟った。
「あなたは血を吹き上げる姿がお似合いね。舞冬」
舞冬の視界はまりかの笑顔を捉えそして真っ暗な空へ……。
「しくじっちゃったな……」
呟いた舞冬は誰も探しに来ないであろう真っ暗な海に落ち、そして沈んでいった。
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舞冬は割天風の執務室の天井裏に侵入していた。
隠密で動くのは身軽で素早い舞冬にとっては得意中の得意だった。しかし、得意武器の方天戟だけは大き過ぎて隠密行動には向かない為腰に挿した短刀だけを持って行動する。
割天風と言えど、気配を殺す事に長けた舞冬の気配は感じ取ることは出来ないはずだ。
舞冬は息を潜め天井の板の隙間から割天風の様子を窺った。
外は日が沈んで間もなく、部屋にはランプの灯が灯ってゆらゆらと割天風の影を揺らしていた。
割天風は何やら資料を見ているようだが内容までは見る事が出来ない。
「なかなか思うようにはいかんのぉ。久壽居が抜けた今使えるのは瞬花とまりかくらいじゃのぉ」
割天風の部屋には今他に人はいない。
独り言。
舞冬は首を傾げた。
今の言葉はどういう意味だろう。
すると部屋に誰かが入って来た。
腰に2本の刀を佩いた女。畦地まりかだ。
舞冬はまりかの動向も注意深く見た。
しかし、まりかは部屋に入ると割天風の前で立ち止まり動かなくなってしまった。
舞冬は息を呑んだ。
「総帥……」
まりかが静かに言った。
割天風は何も言わず手に持っていた資料を机の上に置いた。
「何人だ」
「1人」
舞冬はまさかと思った。
その時まりかが急に天井裏に隠れていて見えないはずの舞冬の方を見た。
目が蒼く光っている。
────神眼!?────
まりかは微笑んでいる。
舞冬は舌打ちをしてすぐに天井裏から脱出し割天風の執務室から離れた。
「殺すなよ、まりか」
「殺しちゃうかもです」
まりかは笑顔で部屋を出た。
辺りは日も沈んだ暗闇である。
舞冬は走った。
怖くなった。
割天風の言葉の意味は解らない。しかし良くない事だという事は何故だか感じた。
そして何より畦地まりかに盗み聴きしていた事がバレた。
舞冬はとにかく走った。近くの木立に逃げ込んだ。とりあえずここで騒ぎが起こるかどうか様子を見よう。
舞冬は呼吸を整える為深呼吸をした。
「舞冬。逃げ切ったつもりなのー?」
舞冬の首元には刃が突き付けられていた。
いつの間に背後を取られたのだろうか。
舞冬は背筋が凍った。
「畦地まりか……!!」
「はーあーい?」
まりかはいつも通り舐めた返事を返して来た。
「私を……殺すの?」
背後にいるまりかに問い掛けた。
「そうしたいんだけど、総帥が殺すなってさぁ。私あなた嫌いだから殺してもいいんだけどさ」
まりかは舞冬の首に刀を押し付けてきた。
「総帥は何を企んでるの!?」
「本当にあなたって馬鹿よね! 教えるわけないじゃない。詮索しなければ平和に暮らせたのにね。どいつもこいつも」
「斑鳩さんのこと!?」
「あら。そこまで気付いてるんだ。やっぱり、殺しちゃうかな!!」
舞冬の首に突き付けられた刀が動く瞬間、舞冬は身を屈め、まりかの脇腹に肘を入れて吹き飛ばした。
「うっ!?」
舞冬はすぐに反転し逃げ去った。
「待ちなさい!!! 臆病者!!! 私に手を出して……!! 絶対殺す!!!」
舞冬は一心不乱に走った。
逃げているうちに森の奥へ奥へと入って行った。
後ろからはまりかが追って来ている。
逃げなければ……殺される。
足場が悪い森の中を必死に走り抜ける。
追い掛けてくるまりかは笑っていた。
狂っている。
目の前が拓けた。
海が見える。
東の岩壁。
とうとう追い詰められた。
「そうねぇ。1つだけ、あなたが助かる方法を教えてあげるわ」
行く手を阻む海を見て次の手を考えていた舞冬の背後からまりかがにこにこしながら近付いてきた。
「舞冬。私の奴隷になりなさい」
「は?」
「私に忠誠を誓うなら命だけは助けてあげる。どうする? 死ぬ? 跪く?」
「私があなたの足の指の間でも舐めればいいの?」
「そこまで指定はしてないけど、まぁそんなところね」
「とんだ変態さんなのね、まりかさん。可愛い顔して気持ち悪いわ」
舞冬は両手を広げ首を振った。
「そう……あなたに変態と言われるなんて夢にも思わなかったわ。じゃああなたはただでは殺さずにすんごく苦しめていたぶってあげる。私、変態だから」
まりかは言い終わらぬうちに舞冬に斬りかかった。
舞冬は腰の短刀を抜き刀を受けた。
まりかの1本の刀を弾いてもまた別のもう1本が襲って来る。
舞冬は素早い身のこなしでまりかの二刀流を受けていく。
「まさかとは思うけど、剣で私を倒せると思ってないわよね? ってか、響音のクズに102回も負けてる時点で私に勝てるわけないじゃないの」
舞冬の後ろ回し蹴りがまりかの左肩に当たった。まりかは少しバランスを崩したがすぐに体制を立て直した。
「響音さんを馬鹿にしないでよ!」
舞冬はまりかの2本の刀を上手く弾きつつまりかの腹に蹴りを入れた。
まりかは僅かによろめいただけだった。
「あーー!! もーーー!! 痛い!! ムカつく!!」
まりかが苛立って叫んだ。
舞冬が斬込む。
しかしまりかの身体に舞冬の刃は届かない。
────方天戟さえあれば────
「方天戟さえあれば?」
舞冬は心の中で思った事を言い当てられ動揺した。
まりかの眼は不気味な紋様を浮かべ蒼く光っている。
「方天戟さえあれば私に勝てたかも? って?」
まりかは舞冬の身体に蹴りを入れた。
舞冬がよろめいた。
「無理に……決まってんでしょおおおがぁぁぁあ!!!」
バランスを崩した舞冬にまりかが怒声を上げながら2本の刀を振った。
舞冬の身体からは鮮血。宵闇に不気味に舞った。
僅かに後ろに跳んで躱した筈だった。しかしその行動が自ら地面のない場所へと跳んだ事を舞冬は自分の舞い散る赤い花びらのような血を見ながら悟った。
「あなたは血を吹き上げる姿がお似合いね。舞冬」
舞冬の視界はまりかの笑顔を捉えそして真っ暗な空へ……。
「しくじっちゃったな……」
呟いた舞冬は誰も探しに来ないであろう真っ暗な海に落ち、そして沈んでいった。
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