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第4.5章 異世界転移の謎2

探し求めた娘は

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 まるで光の中にいるようだった。
 先程まで病室に居た筈なのに、気が付いたらそこに居た。
 周りは上下左右白く輝いているような不思議な空間。地面や天井の概念すらないのか、とにかく果てしなく白い。
 ただ分かるのは、自分がそこにいるという事だけ。

「宵……宵は何処なの……」

 瀬崎都子せざきみやこは、ここが何処なのかよりも、自分の娘が何処にいるのかという事で頭がいっぱいだった。娘が病室のベッドの上から忽然と姿を消してから2日が経とうとしている。

「宵!  宵!  何処に居るの?」

 ひたすらに白い光の中で都子はとにかく宵の名を呼んだ。
 都子の声はその空間に響かずにスっと消えていく。

「宵!  返事して!」

 それでも都子は娘の名を呼び続け、そして何処かも分からない光の空間を歩き続けた。

 すると、遠くに人影が見えた。

「誰?  宵なの?」

 眩しい逆光のせいでその人影が何者なのか判別がつかない。
 だが、都子は宵だと思った。そう信じたかった。

「宵なんでしょ?  待ってて!  すぐにそっちに行くわ」

 都子は人影へと走った。

 徐々に近付く人影。
 やがてあと数メートルというところまで近付くと、ようやくその人影の正体が認識出来た。

 紛れもなく我が娘、宵だ。
 リクルートスーツに身を包み、手には鞄を持って都子に微笑みを向ける。それはいつも就活を頑張っていた見慣れた姿だった。

「宵!  探したのよ!  何処に行ってたの?  皆に心配かけて……」

 微笑みを浮かべる宵に、都子は言葉を投げ掛けた。

「お母さん。ごめんなさい」

「もういいわ。宵が無事に戻って来てくれたらそれだけで」

 しかし、宵はふるふると首を横に振った。

「私ね、やりたい事が出来たの」

「え?  やりたい事?」

「そう!  私、軍師になる!」

「なに?  軍師……??  え??」

「でもね、軍師にはお母さん達のいる世界ではなれないの。だから私、もう1つの世界で生きる事にするよ」

「え??  もう1つの世界??  何を言ってるの??  宵??」

「今までありがとう!  お母さん!  お父さんにも宜しくね!  バイバイ」

 宵はくるりとその場で回転すると、リクルートスーツは一瞬のうちに漢服のような着物へ変わり、手に持っていた鞄は羽扇うせんに変わり、頭には綸巾かんきんが現れた。
 そしてそのまま都子に背を向けて光の奥の方へと走って行った。

「待って!  行かないで!  宵!  宵!」

 都子は宵を追い掛けた。
 しかし、いくら走っても宵に追いつく事は出来ない。手を伸ばしても娘の背中には届かない。
 やがて宵は光の中へと消えてしまった。

「駄目よ……宵……そんな……」


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