宵の兵法~兵法オタク女子大生が中華風異世界で軍師として働きます~

あくがりたる

文字の大きさ
上 下
67 / 173
第4章 真の軍師

桜史、清春華に託す

しおりを挟む
「マッデン……だよな?」

ジキムートの言葉に一同がうなずく。


「くっ……」

レキは抱えていた物を離し、なんとか立とうとしていた。

「くくっ、ノーティス。おぬしが言う事は本当だったみたいだの。このレキだったか? わしでもなかなか見たことが無い、美しい女がいると」

舌なめずり一つ。

その直後に突然、地面から沸き上がった水の群れがレキを絡めとっていく。

「グゥっ!?」

水に周りをまかれ、レキがうなる。

周りは水。

逃げ場がなく、ゆっくりと狭まる包囲網をにらみつける事しかできないでいた。


「ほぅほぅなんぞ、その奇麗な褐色の肌は。 貴族共は全員が色白いからのぉ。こういう趣向は稀じゃ。いや、初めてじゃぁっ! ヒヒッ。どうして今までココに来んだったか、全くっ。神もいじらしい事をしてくださるっ!」

「……シュっ!」

その時だった。

〝ムードブレイカー(自己中)″ジキムートが走った。

壁を蹴ってつたい、一気に住民たちを横目に後ろに回ろうとする。

「……」

その姿をマッデンが睨んだ――瞬間。


バキンっ!


「何っ!?」

壁にあった壁面が一気に、突如氷に代わる。

「だがこれなら!」

未だ遠い住民の裏。

ジキムートは剣を壁に刺し、その氷を逃げきっ……。

パキパキパキッ!

剣がへし折れたっ!

一瞬にして氷が剣に浸食し、芯まで凍らせたのだ。

ジキムートは住民の中へと落ちてしまうっ!


「はっ!?」

いきなりの現実。

ゴディンの力ならば通用した事が、通じない。

その事実にジキムートは声すら出せないでいる。

ドタンっ!

そして、地面の感覚。

「クッ!?」


「全員気を抜くなっ! 行くぞっ」

叫び、漆黒のローラが駆けて……っ!

「……」

彼女が動こうとすると目の前に、20……30、いや40っ!

氷の刃が突然、出現した。

「なっ!?」

詠唱なしに、とんでもない量のマナが溢れる。

それはまるで壁のような、視界を埋め尽くす程の氷の刃。

狭い空洞に逃げ道はない。

(クソっ!? 呪いを使うしかないのか……。だが……っ)

ちらりとノーティスを見たローラ。


(コイツを信じるなんてシャクだが、この呪いは今使う訳にはいかないっ! この作戦、どんな犠牲を払ってでも遂行してみせるっ! お嬢様っ。お嬢様ーっ!)

彼女は賭けに出た。

愛する者の名を、心の中で叫びながら……。

「グアァァッ!?」

「そは水を食うモノなり。吸えよ食えよ肥え太れ……っ」

ノーティスは呪文を詠唱し始める。

「〝ディセクレト(神話、そして咎人)〟……か、〝アーク・エンクレイヴライト(聖域現出)〟っ。消えよこの、神の盟約を破る愚か者がっ! 目に入れるにも汚らわしいわっ」

水の聖域の現出。

その瞬間また、この世界が水で覆われてしまうっ!

そしてノーティスもローラと同じく、数多の氷を放たれてしまうが――。

「グッ!?」

雨あられと降り注ぐ攻撃を、水の魔法障壁でなんとか防いだノーティス。

そして銀髪を翻し、すぐに氷の魔法で反撃にでようとしたが……。

「……」


フッ。


マッデンに魔法構成を睨まれただけであっさりと、ノーティスが張った魔法の障壁もろとも、ノーティスの魔法全てを消滅させられてしまったっ!

「なにっ……ディスペルされたっ!?」

単一の魔法しか使えないのだ。

属性に絶対的に秀でた人間の支配。それが行き届いてしまう。

「第3階級の私の魔法が――。駆け引きも無しにこんなっ!? 馬鹿なっ!?」

魔法階級が上から3番目に属する彼女の魔法ですら、例外では無いという事。

マッデンの前では、水のマナを『扱う事』すらかなわない。

相手を魔法世界から駆逐する。これこそが本当の聖域の意義で、攻撃的な使い方である。


「くそっ!?」

瞬間ノーティスが大きく飛んで、マッデンから逃れようとするが……っ!

「ふむぅ……」

マッデンが笑いそして――。

ノーティスの目の前に氷の刃40、50……100っ!

増える氷の刃が、ノーティスを睨みつけている。

「はぁ……はぁ」

その場からは動けなくなってしまう彼女。


「ククッ……。さてさてぇ。楽しむか」

「くぅっ!?」

マッデンは、水の牢獄にレキを閉じ込めてしまった。

あっという間に傭兵の精鋭を圧倒し、レキを自分のもとに寄せるマッデン。

水を自由に、意図したとおり、見事に動かして見せる。


「水を……。この水の量を維持して操れるなんてっ!? しかも強度も高いっ! クッ。これが本物の神の右腕っ!? ゴディンなんて比じゃない力じゃないかっ」

水に呑まれながら、レキがうめく。

この世界では水と言わずどのようなマナでも、1回単発の使い切りだ。

マナを維持し、操り続ける行為。

それは圧倒的に高位な魔法練度と、何と言っても魔力容量が必要だった。

「ほぉ、やはり近くで見るとメンコイなぁ、ぶふっ。これ程小麦に焼かれても、しっかりと美しいキメと張りっ。下民よ~。良いぞっ! わしに捧げるには十分よっ! 褒めて遣わすっ!」

高らかに笑いを上げるマッデン。


「くっ、離せっ、この豚がっ!」

ばしゃっ! ばしゃしゃっ!

体幹の強いレキの、激しい抵抗を封じ込めれるだけの水の水量と強度。

これを維持し続けるマッデンは今、MPを秒単位で失っているハズ。

だが全くもって魔力に窮する気配がない。

「何を言う? 安心せよ女。我は人間の中にありて、最も神に近しき者っ! 水神様直々にお認めになった存在よ~。胸を張れっ! 我に愛される事は、神に愛されたと同義だっ! 誇り高い一族の、さらには頂点者の子を産めるのであるっ。歓喜せよ」

「かっ神に愛されたと同じだとっ!? 貴様はただの人に過ぎないっ! 高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手。神よこの男に罰をっ!」

「歓喜……せよっ」

グギュウっ!

マッデンが笑うと、水が締まりをきつくする。

「ぐぁぁっ!?」

レキを取り巻く水圧が一気に跳ね上がり、ヨダレを垂らしてレキがうめく。


「ほれ。神をあがめよ。子が……我が神に等しき男の種が、欲しいじゃろ?」

「ヒッ!?」

マッデンが言葉をつむぐと水が――。

レキを取り巻く水が、彼女の装備を外していく。

「ここで一つ、楽しんでおこうかのぉ? たんと水に冒され、奇麗になると良い」

あっという間に水圧で鎧を外し、胸の部分をさらけ出させられたレキ。

薄紅色の突起があらわにされてしまう。

そしてそのまま腰元のズボンまでもが、水に剥がされていく。


「くっ、やめろっ!」

「ほぉ、胸が小ぶりか。まぁ仕方ない。これならノーティスのほうが良かったがのう。――そうじゃそうじゃ、あとで水でも入れて、膨らませるのも良いじゃろうて。うんうん、その小さいのも一応たっぷり遊んでから、好みに入れ替えるか。それでは……」

「クソがっ! 僕はお前の人形じゃないんだよっ!」

レキが唇をかむ。

だがマッデンには実際、そう言った着せ替え行為ができるのだろう。

マナに選ばれるとは、そう言う事だった。


「汚い言葉を使うなっ、メスが。娼婦みたいな言葉は断じてならんぞ小娘っ! ふぅ全く。じゃが……まぁ、威勢が良いのも初めだけじゃろうて。これを受ければ考えも変わるじゃろう。いっひっひっ」

ブタのような顔が歪み、水が数本ウネウネと指のような物を這いださせた。

「……」

何か、途方もなく嫌な予感に身震いするレキ。

「今から水で子宮の中までキレイにしてやるぞ。汚れも消えるし、薄汚い病気も消える。良い事じゃぁ。それにコレをすると、娘どもが静かになる。どんな貴族のじゃじゃ馬も、わしの命令には絶対服従じゃったわぃっ! 体の芯まで水に犯される感覚に、恍惚を覚える者さえおったんじゃあっ!」

「この豚が……っ!?」

レキのコメカミがヒクつく。

大勢の住民の前、レキは群れる水の触手に蹂躙されようとしている。

大勢に好機の目で見られ、そして考えたことも無い、人体実験のような人体洗浄法で辱められようとしているのだ。


「くぅううっ!?」

そして、パンツに水が入ろうとした時レキは――笑った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ! 実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。 春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...