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序章 兵法オタク瀬崎宵の就活
2つの夢と不思議な竹簡
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「私ね、やりたい事があるんだ」
1人の部屋で遺影に語り掛ける宵。もちろん、返事はない。
「もっと兵法を勉強したい。そして、おじいちゃんみたいに大学でたくさんの学生に自分の好きな事を教えたい」
大学の教員は立派な仕事だ。宵の大学の教員は皆素晴らしい知識を持ってそれを学生に熱心に教えている。宵のゼミの司馬教授も、かつて宵の祖父の三国志の講義を聴き学者の道を目指したらしい。
祖父も教える事の楽しさを大学教授を引退してからも忘れられなかったから宵に三国志を教えてくれたのだと思っている。
そんな魅力的な仕事ならどんなに辛くても頑張って目指そうと思っていた。
しかし、その道はやはり厳しい。そもそも、大学院に入れない宵にとってはほぼ絶たれた道となった。
よくよく考えれば、家の経済状況は大学入学の時に分かっていたではないか。その時に気付き諦めていれば……
「あとね、一度でいいから、実際に私の兵法を使って策を立てて軍隊を指揮して戦ってみたい……なんちゃって……ゲームでもやってろって感じだよね」
自分の言ってる事が現実離れした事だと言う事は分かっている。現に大学のゼミの仲間達にも笑われた。宵も笑った。だって馬鹿げた事なのだから。1人だけ笑わなかった変わった人もいたが……。
「はぁ……いつまでも落ち込んでても仕方ないよね。また明日も就活頑張るね。おじいちゃん」
宵が立ち上がろうとすると、部屋の押し入れの中からカタンと物音がした。
不思議に思った宵は、その物音の正体を確かめる為、ゆっくりと押し入れの襖を開く。
そこには、宵と祖父の思い出である古めかしい書物が大量に押し込められていた。
祖父が亡くなってからは三国志の資料はほとんど見なくなったので埃が凄いことになっている。
その懐かしい書物の山の中に一部崩れた箇所があり、何か巻物のような物があるのが見えた。
「何これ……竹簡じゃん! こんなのあったんだ」
初めて見るその竹簡を手に取り、宵は中に何が書いてあるのかと、心躍らせながらも丁寧に紐を解いていく。とても古いもので、少し手を滑らせれば簡単に瓦解しそうな程脆く腐食が酷い。
竹簡を開くとそこには筆で漢文が認められていた。
「んー……凄く古いなぁ……『……進退窮まれし時……声……発し唱え……』」
宵はその漢文を訳しながら呟く。今の宵なら要約など朝飯前だ。
「『今宵、兵が集う戦乱の国に……誘わん』」
長い文章の最後の一文を口ずさんだ時、突然竹簡が青白く光り、そこに記された文字が目の前にふわふわと浮かび上がった。
「(え……なに? なに!?)」
声が出ない。喋っているはずなのに何故かその声は宵自身の耳に入らない。
身体が動かない。まるで金縛りに遭った時のように意識はあるのに動けない感覚。
座った状態のまま、宵は数秒間その奇妙な感覚に襲われた。
「(お母さん……! 助けて……!)」
母を呼ぶ声はやはりこの空間には聞こえていない。
次第に視界がぼやけてくる。白い靄がかかったようになり、宙にふわふわ浮いていた文字達が宵の後ろの方に凄まじいスピードで吸い込まれるように消えた。身体は硬直しているのに浮遊感に襲われ息も出来ない。
──怖い、助けて!!
心の中にだけ宵の声は響き、やがて完全に意識を失った。
1人の部屋で遺影に語り掛ける宵。もちろん、返事はない。
「もっと兵法を勉強したい。そして、おじいちゃんみたいに大学でたくさんの学生に自分の好きな事を教えたい」
大学の教員は立派な仕事だ。宵の大学の教員は皆素晴らしい知識を持ってそれを学生に熱心に教えている。宵のゼミの司馬教授も、かつて宵の祖父の三国志の講義を聴き学者の道を目指したらしい。
祖父も教える事の楽しさを大学教授を引退してからも忘れられなかったから宵に三国志を教えてくれたのだと思っている。
そんな魅力的な仕事ならどんなに辛くても頑張って目指そうと思っていた。
しかし、その道はやはり厳しい。そもそも、大学院に入れない宵にとってはほぼ絶たれた道となった。
よくよく考えれば、家の経済状況は大学入学の時に分かっていたではないか。その時に気付き諦めていれば……
「あとね、一度でいいから、実際に私の兵法を使って策を立てて軍隊を指揮して戦ってみたい……なんちゃって……ゲームでもやってろって感じだよね」
自分の言ってる事が現実離れした事だと言う事は分かっている。現に大学のゼミの仲間達にも笑われた。宵も笑った。だって馬鹿げた事なのだから。1人だけ笑わなかった変わった人もいたが……。
「はぁ……いつまでも落ち込んでても仕方ないよね。また明日も就活頑張るね。おじいちゃん」
宵が立ち上がろうとすると、部屋の押し入れの中からカタンと物音がした。
不思議に思った宵は、その物音の正体を確かめる為、ゆっくりと押し入れの襖を開く。
そこには、宵と祖父の思い出である古めかしい書物が大量に押し込められていた。
祖父が亡くなってからは三国志の資料はほとんど見なくなったので埃が凄いことになっている。
その懐かしい書物の山の中に一部崩れた箇所があり、何か巻物のような物があるのが見えた。
「何これ……竹簡じゃん! こんなのあったんだ」
初めて見るその竹簡を手に取り、宵は中に何が書いてあるのかと、心躍らせながらも丁寧に紐を解いていく。とても古いもので、少し手を滑らせれば簡単に瓦解しそうな程脆く腐食が酷い。
竹簡を開くとそこには筆で漢文が認められていた。
「んー……凄く古いなぁ……『……進退窮まれし時……声……発し唱え……』」
宵はその漢文を訳しながら呟く。今の宵なら要約など朝飯前だ。
「『今宵、兵が集う戦乱の国に……誘わん』」
長い文章の最後の一文を口ずさんだ時、突然竹簡が青白く光り、そこに記された文字が目の前にふわふわと浮かび上がった。
「(え……なに? なに!?)」
声が出ない。喋っているはずなのに何故かその声は宵自身の耳に入らない。
身体が動かない。まるで金縛りに遭った時のように意識はあるのに動けない感覚。
座った状態のまま、宵は数秒間その奇妙な感覚に襲われた。
「(お母さん……! 助けて……!)」
母を呼ぶ声はやはりこの空間には聞こえていない。
次第に視界がぼやけてくる。白い靄がかかったようになり、宙にふわふわ浮いていた文字達が宵の後ろの方に凄まじいスピードで吸い込まれるように消えた。身体は硬直しているのに浮遊感に襲われ息も出来ない。
──怖い、助けて!!
心の中にだけ宵の声は響き、やがて完全に意識を失った。
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