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1章

2話

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俺が後輩の春園に迫られた、次の日。

「先輩、今日も抱きしめさせてください」

また次の日。

「ハグしましょう」

俺は毎日、春園とハグをする生活が続いている。

一回だけじゃなかったのか……?!

初めてハグをしたときは確かに一回だけといってたのに……。

今日も

「先輩、ん」

両手を広げて俺を待つ春園。

かっこよくて絵になる……じゃなくて!

「一回だけじゃなかったのかよ?!」

「え……?」

「初めて俺を抱きしめたとき、お前一回だけって言ってただろ!」

俺は聞いたぞ!

「……確かに言いました。だけど、先輩を抱きしめれば抱きしめるほど、俺の気持ちはどんどん大きくなっていくんです」

春園の大きい身体で抱きしめられる俺。

ドキドキという心音が伝わってきて、顔が赤くなってしまう。

「先輩。俺は先輩のことが大好きです。」

「……知ってるから」

俺は突き放そうと春園の胸を押す。

だけど、大きすぎてびくとも動かない。

「先輩は俺のこと嫌いですか?」

好きか嫌いかと聞かれたら、俺は分からない。

俺にとって春園はただの“背が高くてうざい後輩”だから。

春園は恋愛感情で俺のことが好きなんだろう。

でも、俺は男を好きになったことは一度もないし、きっとこれからもない。

「……うざい」

俺が答えると春園はなぜかクスッと笑った。

どうしてこの状況で笑えるんだよ……?!

なんか余裕ある感じがしてムカつく。

「先輩はどうしたら俺のこと、好きになってくれますか?」

「俺は男を好きになったことはない」

「だから、これからもないんですか……?」

「あぁ」

俺はどれだけ、こいつがかっこよくても好きになるなんてありえない。

「先輩。一日一回、ハグしましょう」

「は?」

「一日一回、ハグしても先輩が俺のこと好きにならなかったら諦めます。だから、俺に先輩を抱きしめさせてください」

正直、言っている意味が分からなかった。

ハグを一日一回して好きになる?そんなことはありえない。

だから、俺は

「分かった」

この提案を受け入れた。

未練タラタラな春園がかわいそうだと思ったから。

早く元の関係に戻りたいから。

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