9 / 14
もっと触れたい。
しおりを挟む≪side 佐熊咲弥≫
自宅の庭で、ルシアンのボール遊びに付き合いながら、スマホに登録してある連絡先を開いては、閉じたりしている。「鈴掛清彦」 ―――ついこのあいだ、登録されたばかりのソレを。
伊坂に鈴掛とのセッティングを頼まれた時、連絡先を聞いていなかったことに気づいて、それを機に鈴掛と連絡先を交換することができた。
「ルシアン、お前も、もっと会いたいだろ?」
「あら、ムムマル君のこと?」
「…!!」
ポツリと呟つぶやいてしまったその言葉に、背後から返答があったので吃驚した。
「母さん!音もなく、背後から近づくのヤメテ!」
「あらあら、ごめんなさいね!私が夕方からでかける日に、うちに招いたらどう?鈴掛君は、私が居ない方が気兼ねしなくて良いでしょ。夕飯は2人分用意して出るから、ゆっくりしていってもらえばいいわよ。ルシアンのマブダチは大事にしたいし、鈴掛君は好青年だし、いいじゃない?」
母さん、マブダチなんて言葉をどこで覚えたんだ?それはいいとして、そんな母さんの申し出は、ルシアンにとっても、俺にとってもかなりオイシイ話だった。さっそく、鈴掛に連絡をすることにした。
「この辺って、初めて来た」
「公園のこっち側とあっち側とじゃ、生活圏が異なるからな」
鈴掛から良い返事をもらえた俺は、母さんがでかける日の夕方、K公園で待ち合わせをした鈴掛とムムさんを、ルシアンと一緒に家まで案内する。
「ルシアン、すげぇ嬉しそう!シッポ、グリングリンさせながら歩いてるし。けっこう遠いのに、うちまで来てもらって悪いな。母さんは、鈴掛とムムさんに挨拶したら、すぐにでかけるみたいだし、せっかくだから、ゆっくりしていってくれ」
「あぁ、こっちこそ悪いな」
隣で歩く、鈴掛の存在に嬉しくなる。俺にもシッポがあったら、ルシアンみたいになっているんだろうな。
「鈴掛君、ムムマル君、いらっしゃい!今日は来てくれてありがとう。夕飯を用意したから、ゆっくりしていってね」
玄関前で待っていた母さんが、ムムさんの頭を撫でながら、ふわりと笑い、鈴掛に声をかける。
「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます。お邪魔します」
鈴掛も母さんに挨拶をしながら、笑みを浮かべている。
こんなふうに笑ったところ、初めて見たかも。これは、何というか――、グッとくるな。
母さんと鈴掛が話しているので、俺は2人から少し離れて立っていた。すると、ムムさんとのじゃれ合いに夢中だったはずのルシアンが、こっちを見ていることに気がついた。――まずい!
「鈴掛!俺のそばに来い!」
「…?」
俺はそう叫ぶと、距離を詰めるべく、手を伸ばし、鈴掛の肩を引き寄せた。それを確認したルシアンは、ムムさんに視線を戻し、再びじゃれ合い始める。――あぶねぇ!また乱入されるところだった。
「あらあら、少し話していただけじゃない。大丈夫よ、取ったりしないから。お邪魔のようだし、そろそろでかけるわね。それじゃあ、鈴掛君、ムムマル君、またね。どうぞ、ごゆっくり」
母さんはそう言い、意味ありげな笑みをこちらへ向けた後、でかけていった。俺は鈴掛の肩を抱いたまま、そのうしろ姿を見送ることしかできなかった。
「なんか、誤解されたみたいで悪かったな」
「…あぁ」
時々、ルシアンの視線を感じるため、俺達はそのまま寄り添いながら、庭でじゃれ合う2匹を眺めることにした。
「引かないで、聞いてくれる?俺、鈴掛とのこの距離、安心する。ホッとするっていうか」
「……オレも」
思いがけない鈴掛からの言葉に、ドキンッと鼓動が跳ねる。顔が熱くなる。――どうしよう、すげぇ嬉しいんだけど。
「…顔、真っ赤になってんぞ」
いつもより柔らかく見える鈴掛の表情に勇気をもらい、俺はもう一歩踏み込んでみようと思った。
「俺がこれからやることに、嫌な感じがしたら教えて。その時点でやめるから」
「…困る」
――え…?やる前から、拒否られた…?!俺の中で膨らんだ勇気が、急速にしぼんでいくのを感じた。
「…きっと、嫌じゃないと思うから、…困る」
「!!!」
思わず天を仰ぎ、スゥーッ!ハァーッ!と、深呼吸をする。夜空に星が煌めいていて、いつか見た鈴掛のネイルを思い出す。―――落ち着け、俺!がっつくな、俺!
俺はゆっくりと鈴掛の両手を取ると、鈴掛を見つめながら、指先、手の甲へと、左右交互に唇を這わせていく。
鈴掛はそんな俺をジッと見つめ返してくる。
「嫌じゃない?」
俺の問いかけに、鈴掛がやんわりと頷く。
それから、鈴掛の両瞼に、人差し指で撫でるようにして優しく触れ、右瞼から左瞼へと順番に口付けを落とす。目を閉じると強調される、鈴掛の長い睫毛が愛おしい。
「嫌だったんだ。鈴掛の手や両瞼を、谷本や伊坂にベタベタ触られるのが。あの時、ウェットティッシュでゴシゴシ拭いてくれてたけど、こうしないと、気が済まなかった。最後までやらせてくれて、ありがとう」
「…これだけでいいのか?」
「え?」
「…オレはアンタに、もっと触れたい」
「!!!と、り、あ、え、ず、とりあえず、速やかに2匹を繋いでから、急いで家の中へ入ろう!!はい、迅速に!!あ!えさ!餌も早急に用意してだな!!はい、駆け足!!」
逸る気持ちをググッと抑えながら、ルシアンとムムさんを犬小屋へ繋いだ。そして、“お手!”、“おかわり!”、“待て!”を適当にした後、2匹の前に、それぞれの餌が入った皿を置き、“よしっ!”と言い放ってから、鈴掛の手を引いてそそくさと家の中へ入った。
素直に手を引かれる鈴掛がかわいくて、玄関を入ってすぐに暴走しそうになったが、時間はたっぷりとあるんだと何度も自分に言い聞かせる。焦るな、俺!紳士であれ、俺!
再度、深呼吸を繰り返し、徐々に平静を取り戻した俺は、まずは、母さんが用意してくれた夕飯を勧めることにした。
「どう?口に合う?」
「あぁ、うまい」
「よかった。母さん、喜ぶよ」
「手土産、直に渡しそびれたけど、おふくろさんによろしく」
「ありがとうな。甘いもの好きだから、きっと喜ぶわ」
鈴掛は、ムムさんの餌などを入れた袋とは別にして、うちへの手土産も持って来てくれていた。玄関前での俺の行動のせいで、母さんへ渡すタイミングを逃したようだ。
ほっこりとした時間が過ぎていき、夕飯を食べ終えた俺達は、食後のお茶をしようと、ソファへ移動する。鈴掛と並んで腰を下ろし、しばし、無言でコーヒーを飲む。沈黙も心地よいなんて、もう、どうかしてる。
「鈴掛、さっきの続きをしてもいい?俺から触れていい?それとも、鈴掛から触れてくれる?」
「佐熊から触れてくれ。…オレは、それをアンタに返すから」
「わかった」
俺が鈴掛の頬をソッと撫でると、鈴掛も俺の頬をソッと撫で返す。
俺が鈴掛の唇をスッとなぞれば、鈴掛も俺の唇をスッとなぞり返す。
顔中のすべてのパーツを撫で、なぞると、そのように、撫で返され、なぞり返される。
鏡を見ているかのような、その所作に不思議な気持ちになり、そして、心が満たされていく。
「嫌じゃない?」
問いかけに、鈴掛がやんわりと頷く。
「…もっと。…もっと触れてくれ」
鈴掛がそう言うから、ついさっき念入りに撫で、なぞったそこへキスを降らせていく。
それを1つずつ丁寧に、鈴掛が返してくれる。
「もっと触れていい?」
「あぁ」
その返事に背中を押され、鈴掛の上唇を自分の唇で柔らかくはむ。2回、3回と繰り返した後、下唇も同じようにして2度、3度と味わう。
鈴掛もそれをじっくりと慎重に返してくれるから、途中から、俺からとか、そういう順序もわからなくなった。
―――互いの口腔内に舌を這わせ入れたのは、俺からなのか、鈴掛からなのか…。
擦れ合う互いの粘膜が熱い。舌を吸い上げ、湧き出る唾液を啜り合う。一瞬でも唇を離したくなくて、唇を押し付け合い、舌と舌とを絡み付ける。
鈴掛が俺の首元に両腕を巻きつけてくるから、俺は鈴掛の背中に両腕を回し、ギュッと抱きしめる。むこうの方が俺より少し体格がいいから、鈴掛が俺に覆いかぶさるような形になった。
その体勢のまま、息苦しさを気にする余裕もなく、行為に没頭する。俺の喉も、鈴掛の喉も、俺の胸も、鈴掛の胸も、慌ただしく上下に動き続ける。
ハアハア…、ジュル…、ゴクッ…、ハアハア…、ピチャッ…、ゴクッ……。
絶えず漏れ響く、激しい息遣いと滴り落ちそうなその音とで、ますます高揚する。
―――どうしよう、どうしよう…。止まらない、止められない…。
ガタッ!ガタガタッ!!カシャッ!カシャンッ!!
「…!!?」
突然、庭の方から物音が聞こえた。
2人同時に我に返り、庭に面した窓のカーテンをシャッと開けて外の様子をうかがうと、犬小屋の前のスペースで、ルシアンがワサワサと腰を振っているのが見えた。
この角度からはよく確認できないが、ムムさんが見えないことや、2匹の鎖がぶつかり合う音が聞こえることから、多分、ルシアンがムムさんに覆いかぶさって、交尾の真似事をしているのだろう。
「…あっちも盛んだな」
「……」
「本能のまま行動できるのって、いいよな」
さっきまでの自分達の行動を棚に上げ、2匹のそれを羨む。
「…確かに」
真面目な声で、鈴掛が返答するから、俺はおかしくなり、フッと笑ってしまった。
そんな俺を見て、鈴掛も笑う。
―――もっと触れたい。
本能のままに、俺はどこまで、鈴掛に触れてもいい?
次の機会があれば、その問いかけに、鈴掛は、どこまで答えてくれるだろうか…?
自宅の庭で、ルシアンのボール遊びに付き合いながら、スマホに登録してある連絡先を開いては、閉じたりしている。「鈴掛清彦」 ―――ついこのあいだ、登録されたばかりのソレを。
伊坂に鈴掛とのセッティングを頼まれた時、連絡先を聞いていなかったことに気づいて、それを機に鈴掛と連絡先を交換することができた。
「ルシアン、お前も、もっと会いたいだろ?」
「あら、ムムマル君のこと?」
「…!!」
ポツリと呟つぶやいてしまったその言葉に、背後から返答があったので吃驚した。
「母さん!音もなく、背後から近づくのヤメテ!」
「あらあら、ごめんなさいね!私が夕方からでかける日に、うちに招いたらどう?鈴掛君は、私が居ない方が気兼ねしなくて良いでしょ。夕飯は2人分用意して出るから、ゆっくりしていってもらえばいいわよ。ルシアンのマブダチは大事にしたいし、鈴掛君は好青年だし、いいじゃない?」
母さん、マブダチなんて言葉をどこで覚えたんだ?それはいいとして、そんな母さんの申し出は、ルシアンにとっても、俺にとってもかなりオイシイ話だった。さっそく、鈴掛に連絡をすることにした。
「この辺って、初めて来た」
「公園のこっち側とあっち側とじゃ、生活圏が異なるからな」
鈴掛から良い返事をもらえた俺は、母さんがでかける日の夕方、K公園で待ち合わせをした鈴掛とムムさんを、ルシアンと一緒に家まで案内する。
「ルシアン、すげぇ嬉しそう!シッポ、グリングリンさせながら歩いてるし。けっこう遠いのに、うちまで来てもらって悪いな。母さんは、鈴掛とムムさんに挨拶したら、すぐにでかけるみたいだし、せっかくだから、ゆっくりしていってくれ」
「あぁ、こっちこそ悪いな」
隣で歩く、鈴掛の存在に嬉しくなる。俺にもシッポがあったら、ルシアンみたいになっているんだろうな。
「鈴掛君、ムムマル君、いらっしゃい!今日は来てくれてありがとう。夕飯を用意したから、ゆっくりしていってね」
玄関前で待っていた母さんが、ムムさんの頭を撫でながら、ふわりと笑い、鈴掛に声をかける。
「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます。お邪魔します」
鈴掛も母さんに挨拶をしながら、笑みを浮かべている。
こんなふうに笑ったところ、初めて見たかも。これは、何というか――、グッとくるな。
母さんと鈴掛が話しているので、俺は2人から少し離れて立っていた。すると、ムムさんとのじゃれ合いに夢中だったはずのルシアンが、こっちを見ていることに気がついた。――まずい!
「鈴掛!俺のそばに来い!」
「…?」
俺はそう叫ぶと、距離を詰めるべく、手を伸ばし、鈴掛の肩を引き寄せた。それを確認したルシアンは、ムムさんに視線を戻し、再びじゃれ合い始める。――あぶねぇ!また乱入されるところだった。
「あらあら、少し話していただけじゃない。大丈夫よ、取ったりしないから。お邪魔のようだし、そろそろでかけるわね。それじゃあ、鈴掛君、ムムマル君、またね。どうぞ、ごゆっくり」
母さんはそう言い、意味ありげな笑みをこちらへ向けた後、でかけていった。俺は鈴掛の肩を抱いたまま、そのうしろ姿を見送ることしかできなかった。
「なんか、誤解されたみたいで悪かったな」
「…あぁ」
時々、ルシアンの視線を感じるため、俺達はそのまま寄り添いながら、庭でじゃれ合う2匹を眺めることにした。
「引かないで、聞いてくれる?俺、鈴掛とのこの距離、安心する。ホッとするっていうか」
「……オレも」
思いがけない鈴掛からの言葉に、ドキンッと鼓動が跳ねる。顔が熱くなる。――どうしよう、すげぇ嬉しいんだけど。
「…顔、真っ赤になってんぞ」
いつもより柔らかく見える鈴掛の表情に勇気をもらい、俺はもう一歩踏み込んでみようと思った。
「俺がこれからやることに、嫌な感じがしたら教えて。その時点でやめるから」
「…困る」
――え…?やる前から、拒否られた…?!俺の中で膨らんだ勇気が、急速にしぼんでいくのを感じた。
「…きっと、嫌じゃないと思うから、…困る」
「!!!」
思わず天を仰ぎ、スゥーッ!ハァーッ!と、深呼吸をする。夜空に星が煌めいていて、いつか見た鈴掛のネイルを思い出す。―――落ち着け、俺!がっつくな、俺!
俺はゆっくりと鈴掛の両手を取ると、鈴掛を見つめながら、指先、手の甲へと、左右交互に唇を這わせていく。
鈴掛はそんな俺をジッと見つめ返してくる。
「嫌じゃない?」
俺の問いかけに、鈴掛がやんわりと頷く。
それから、鈴掛の両瞼に、人差し指で撫でるようにして優しく触れ、右瞼から左瞼へと順番に口付けを落とす。目を閉じると強調される、鈴掛の長い睫毛が愛おしい。
「嫌だったんだ。鈴掛の手や両瞼を、谷本や伊坂にベタベタ触られるのが。あの時、ウェットティッシュでゴシゴシ拭いてくれてたけど、こうしないと、気が済まなかった。最後までやらせてくれて、ありがとう」
「…これだけでいいのか?」
「え?」
「…オレはアンタに、もっと触れたい」
「!!!と、り、あ、え、ず、とりあえず、速やかに2匹を繋いでから、急いで家の中へ入ろう!!はい、迅速に!!あ!えさ!餌も早急に用意してだな!!はい、駆け足!!」
逸る気持ちをググッと抑えながら、ルシアンとムムさんを犬小屋へ繋いだ。そして、“お手!”、“おかわり!”、“待て!”を適当にした後、2匹の前に、それぞれの餌が入った皿を置き、“よしっ!”と言い放ってから、鈴掛の手を引いてそそくさと家の中へ入った。
素直に手を引かれる鈴掛がかわいくて、玄関を入ってすぐに暴走しそうになったが、時間はたっぷりとあるんだと何度も自分に言い聞かせる。焦るな、俺!紳士であれ、俺!
再度、深呼吸を繰り返し、徐々に平静を取り戻した俺は、まずは、母さんが用意してくれた夕飯を勧めることにした。
「どう?口に合う?」
「あぁ、うまい」
「よかった。母さん、喜ぶよ」
「手土産、直に渡しそびれたけど、おふくろさんによろしく」
「ありがとうな。甘いもの好きだから、きっと喜ぶわ」
鈴掛は、ムムさんの餌などを入れた袋とは別にして、うちへの手土産も持って来てくれていた。玄関前での俺の行動のせいで、母さんへ渡すタイミングを逃したようだ。
ほっこりとした時間が過ぎていき、夕飯を食べ終えた俺達は、食後のお茶をしようと、ソファへ移動する。鈴掛と並んで腰を下ろし、しばし、無言でコーヒーを飲む。沈黙も心地よいなんて、もう、どうかしてる。
「鈴掛、さっきの続きをしてもいい?俺から触れていい?それとも、鈴掛から触れてくれる?」
「佐熊から触れてくれ。…オレは、それをアンタに返すから」
「わかった」
俺が鈴掛の頬をソッと撫でると、鈴掛も俺の頬をソッと撫で返す。
俺が鈴掛の唇をスッとなぞれば、鈴掛も俺の唇をスッとなぞり返す。
顔中のすべてのパーツを撫で、なぞると、そのように、撫で返され、なぞり返される。
鏡を見ているかのような、その所作に不思議な気持ちになり、そして、心が満たされていく。
「嫌じゃない?」
問いかけに、鈴掛がやんわりと頷く。
「…もっと。…もっと触れてくれ」
鈴掛がそう言うから、ついさっき念入りに撫で、なぞったそこへキスを降らせていく。
それを1つずつ丁寧に、鈴掛が返してくれる。
「もっと触れていい?」
「あぁ」
その返事に背中を押され、鈴掛の上唇を自分の唇で柔らかくはむ。2回、3回と繰り返した後、下唇も同じようにして2度、3度と味わう。
鈴掛もそれをじっくりと慎重に返してくれるから、途中から、俺からとか、そういう順序もわからなくなった。
―――互いの口腔内に舌を這わせ入れたのは、俺からなのか、鈴掛からなのか…。
擦れ合う互いの粘膜が熱い。舌を吸い上げ、湧き出る唾液を啜り合う。一瞬でも唇を離したくなくて、唇を押し付け合い、舌と舌とを絡み付ける。
鈴掛が俺の首元に両腕を巻きつけてくるから、俺は鈴掛の背中に両腕を回し、ギュッと抱きしめる。むこうの方が俺より少し体格がいいから、鈴掛が俺に覆いかぶさるような形になった。
その体勢のまま、息苦しさを気にする余裕もなく、行為に没頭する。俺の喉も、鈴掛の喉も、俺の胸も、鈴掛の胸も、慌ただしく上下に動き続ける。
ハアハア…、ジュル…、ゴクッ…、ハアハア…、ピチャッ…、ゴクッ……。
絶えず漏れ響く、激しい息遣いと滴り落ちそうなその音とで、ますます高揚する。
―――どうしよう、どうしよう…。止まらない、止められない…。
ガタッ!ガタガタッ!!カシャッ!カシャンッ!!
「…!!?」
突然、庭の方から物音が聞こえた。
2人同時に我に返り、庭に面した窓のカーテンをシャッと開けて外の様子をうかがうと、犬小屋の前のスペースで、ルシアンがワサワサと腰を振っているのが見えた。
この角度からはよく確認できないが、ムムさんが見えないことや、2匹の鎖がぶつかり合う音が聞こえることから、多分、ルシアンがムムさんに覆いかぶさって、交尾の真似事をしているのだろう。
「…あっちも盛んだな」
「……」
「本能のまま行動できるのって、いいよな」
さっきまでの自分達の行動を棚に上げ、2匹のそれを羨む。
「…確かに」
真面目な声で、鈴掛が返答するから、俺はおかしくなり、フッと笑ってしまった。
そんな俺を見て、鈴掛も笑う。
―――もっと触れたい。
本能のままに、俺はどこまで、鈴掛に触れてもいい?
次の機会があれば、その問いかけに、鈴掛は、どこまで答えてくれるだろうか…?
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる