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第7ステージ 私のスリップストリーム
しおりを挟む折り返し地点に近づくにつれ、緊張感が増していく。
この緊張感は去年の大会を思い出す。
あきねとキャプテンは平坦ステージでもついて行くのがやっとで、
残り10kmを切り、集団がグッとペースアップすると、2人は遅れた。
私は集団を離れ2人のアシストに下がった。
平坦は風よけの効果が高い分後ろにつきやすい。
逆に、一旦集団から離れ風よけがなくなると、一気に差がついてしまう。
タイムオーバーというルールがあるため、
私は必死に2人を引っ張った。
私達は大会を見据え、レースを想定して練習してきたつもりだったけれど、
大会後にこんな緊張感は味わえなかった。
残り10kmの折り返し地点が見えた。
一旦ペースが下がり、折り返す際、清水さんの顔がかすかに見える。
私達をちらっと横目に確認してた。
私も最後尾のあきねまでちらっと確認、
こっからだよ、皆。
その時
清水さんの決めた隊列に意味があったことに気づいた。
頭を振り払って私も走りに集中する。
折り返して再加速、一番しんどいところ、
スピードにまた乗って、スリップストリームの恩恵が来るけど、
やっぱり往路と全然違う。
清水さんが往路と同じ出力で踏んでも、5kmは速くなる。
清水さんのペースは落ちない。
20kmという距離、自分が維持出来る出力を知り尽くしてるんだと思う。
フォームもペースも一切のブレがない。
このペースは・・・
私も集中して踏んでいるけど、どうしても
音や影で隊列を確認してしまう。
影で見るシルエットが変わっていく。
少しでも風にさらされまいと、頭の位置は低くなり、
上半身に力が入り、身体がブレる。
普段はまるで機械のように脚がクルクルと回っているけれど、
もう全身を使って踏み抜いて、やっとスピードを維持できる。
もちろん呼吸はどんどん苦しくなる。
あきねは限界だと思った。
少し前のみほりとの車間が開きはじめる、
じわじわと間隔が開いていき、そして一気に距離が開く。
いわゆる「つき切れ」
スリップストリームに入っていても、ついていけなくなること。
実力差がそれだけあるということ。
一回スリップストリームの恩恵を受けられなくなると、
今までつけていたのが不思議なくらいの速度差になる。
あきねが完全に離れた。
これが意図することって・・・
「あきちゃん!」
思わず隊列を少し左にずれて、後ろを振り向いていた。
遠くのあきねと目が合った。
「ダメです!」
前から呼ばれる。
「リューヌちゃん!?」
「あきねさんは!
・・・いや、とにかく、多分、ダメなんです!」
リューヌちゃんは日本語で上手く話せないってことではなく、
自分の感情をどう言葉にしていいか迷ってるのが伝わってくる。
「フミ!」
今度は後ろからしおりの声がした。
「私も、なんとなく状況が分かってきたけど・・・
前向いて回すしかないんだよ。」
このペースの中とは思えない、
いや、普段より優しい声音だった。
リューヌちゃんの後ろに戻る。
それから私はひたすら前を見て、ペダルを回した。
そして、5人のままゴールした。
私達は別にピリピリしているとかではなく、
ただ無言であきねのゴールを待った。
10分ぐらいして、帰ってきた。
「はぁーーお疲れ様~」
あきねは自転車を降りた瞬間、一瞬フラッとした。
「あきちゃん、お疲れ様」
タオルを渡しながら、肩を支えようと思ったけど、
体が勝手に抱きしめていた。
「ありがとう。フミちゃん。
あのねー、
やっぱり今回の結果の通り、私と皆との間には凄い力の差があって・・・
元々の私がやりたかったことが、フミちゃんを支えることだから、
去年1年間一緒に走って、皆を支えたいと思ったから、
だからね、
私はマネージャーになる。
それが私にとって一番なんだ!」
もう全部あきねの言葉に詰め込まれてて・・・。
先生にはもちろん、清水さんとリューヌちゃんには話してたんだ。
とにかく、
私が今あきねに言いたいことは
「うん・・・分かった。絶対全国に行こう!」
「はい。あと1ヶ月、今まで以上に努力するね!」
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