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卑怯な理
選択肢を切り開く
しおりを挟む「·····友誠に会いたくないって言ったら怒る?」
瞬間、顔を硬らせた文義とふさえの動揺が広がる。静まり返った空間はやけに重々しく、二人の表情からは若干の怒りを感じた。
「待って、違う違う。今、スプリッター系思い浮かべてるでしょ?」
慌てる俺を見据え、うんともすんとも言わない文義が数刻前より幼く見える。少し考えれば容易に予想はできた事だった。恐らく二人は俺が友誠に吹っ飛ばされたと思っている。過度に誇張された描写を思い描いているのかと思うと、幾らうましかな友誠にも若干の憐れみを覚えた。
俺は早々に言葉選びを間違えてしまった。不満げに首を傾げる文義に苦笑いを浮かべたふさえがそっと声を掛ける。
「後で話してあげるから」
語尾に薄らとハートマークが見え隠れするその声音は、瞬く間に文義の頬を赤く染め、俺の顔色を青白く変えた。文義のへちゃむくれな表情と泣き顔の友誠が脳内で交差すると途端、居た堪れなくなる。
「いや、友誠を嫌いになったわけじゃなくてっ」
咄嗟に溢れた言い訳じみた言葉に、思わず自問自答する俺を見守っていた文義もなんとも言えない表情で唸り出す。気の良い文義にとって他者との仲直り方法など、思い出せないほどに縁遠い事だった。また反対に、白と黒を割とハッキリさせたいふさえにとって、今回の珍事は確実に絶交案件でしかなかった。
まぁ好きなわけでもないんだけど、身も蓋もない俺の結論は恐らく三上に出会う前だったら幾分違う結果になっていただろう。友達に限りなく近い知り合いは今のところ友誠しかいない。
そのか細い糸も切れたら俺は一人ぼっちになってしまう。そんな悲観的な思考をしているのだろうと、文義とふさえを見つめ、俺は思った。
しかし今の俺の心の支えは三上だ。結局、源家の遺伝子はエロしか勝たない。
俺の動向に一喜一憂を繰り返していた文義は、怒りを微塵も見せない俺へと遠慮がちに問うた。
「怒ってないの?」
「うん?うん」
宙を滑る気の無い返事に、文義の殺伐とした心情が途端に萎んだ。一方、コーチから既にあらかたの経緯を聞いているふさえは、目尻を引き攣らせ、この後どう文義を宥めようかを熟考する。病院で暴れられても困るし、家で暴れられても勿論困る。当然、残るは一択だ。
金で解決よっ、高らかな雷声が訝しげな視線を集めた。
「文義さんっバッセン行きましょっ!」
漸く辿り着いた正解に清々しい解放感を抱きながら、ふさえは鼻息を荒げ、力強いガッツポーズで文義を夜のデートへと誘った。
「ヒューヒュー」
俺の棒読み臭い賑やかしに本気で照れてみせた文義は、友誠への怒りをすっかり何処かへ置いてきてしまったようだ。その表情はだらしなく、鼻下が伸びきったその様は、到底公園のアイドルとは思えない。
俺が爆散したあの試合は他県との練習試合だった。大きな大会ではなかった事がせめてもの救いだが、俺も不躾に大声で叫んでしまったし、少なからず観客も居た。よっぽどバスケが好きな人間か、選手の身内に限られると言っても、口止めは不可能に近いだろう。事実が誇張されて広がらない事を願うが、数日が経過してしまった今となっては希望的観測でしかない。マジカルバナナ二陣のふさえでさえ怪訝な表情を隠さないのだ。当事者でも感じ方で事実が異なってしまうのに、第三者の伝え方でそれは酷く歪んでしまうだろう。
俺が勝手にすっ転んだ。事実はそれだけで良い。
「喧嘩でもしたか?」
未だ鼻下が伸びたままの文義が問う。俺は僕らしい微笑みを捨て、ニヤリと笑った。
「してなーい、ただ今は全然会いたくないだけー」
故意に奔放さを漂わせた声音は何処か意地の悪さを孕み、俺の影を濃くした。我が子の明らかな変容に、ふさえが戸惑いながらも俺を凝視する。正確に言えば、思い出す時間が欲しだけの演出は、その後ふさえを迷宮へと陥れた。
『頼む、死んでくれ。俺を開放してくれよ』
瞳を閉じると、悲痛な叫びが木霊した。
聖友誠のハッピーエンド以外のルートで源愛へと放たれる言葉。随分な言われようだが、友誠の人と形を知ってしまった今となっては『らしい』で片付けられてしまう。友誠は口は悪くて性格も悪いが、馬鹿正直で真っ直ぐだ。嘘も冗談も上手くないうえ、取り繕った言葉も言えないとんだうましか野郎だった。
本編では、僕でも俺でもない源愛が何度も立ち直ろうとした友誠を精神的に追い込んだ。自覚のない源愛への罪悪や後悔が、友誠の底にどす黒く溜まった結果がこの言葉になってしまったのだ。友誠は本気で源愛に死んで欲しかったのだと思う。
源愛が庇ってしまったばっかりに、友誠を罪悪に捕らえてしまった。
皮肉な事に俺は、聖友誠ルートの鍵となる出来事をきっかけに前世の記憶を取り戻したのだ。
「あんだけ吹っ飛べば、そりゃ何か起きるわな」
回想の静止画で記憶していたそれは、打ち上げ花火を彷彿とさせる描写で、思い出しただけでも横腹が痛くなってしまう。
既に、本編へと続くストーリは始まっているのだ。だからと言って庇った事に対しての後悔は微塵もない。そもそも俺は勝手に転けて勝手に爆散しただけなのだ。
とは言っても、これから俺は約一年半バスケが出来なくなる。数週間後から始まるリハビリに手こずったのだ。そしてこの怪我が原因で一度は獲得した皇学院大学の推薦枠も取り消される事になる。確か、高等部2年の時だ。そんな怪我、ギフテッドに負わせられるわけがない。友誠は俺以上にバスケが大好きで、誰よりも努力してきた奴なんだ。
しかし回想に浸っていた俺はふと、気がついてしまった。
「······························っていうか、友誠があのまま受けててもあの運動神経なら余裕で避けれたんじゃね??」
今更な事実に気がつき、俺は大きく項垂れる。真っ当な事実が俺の視界の色を見る見るうちに奪うと、途端全身から血の気が引いた。
「いや、絶対避けれたじゃん。だってあいつギフテッドだよ??」
先刻、自身がヒーローにでもなったかのような錯覚に酔っていた俺は、取り返しのつかない事実に直面した。
「悪いの全部俺じゃん··················」
思い返せば思い返すほど、俺が庇わなければ良かっただけの話に思えてくる。
「いやでも、あんなの不可抗力だし~」
頭を掻くほどに、ミルクブラウンの髪がふわりと乱れる。文義とふさえは、ぶつぶつと独り言を口元に溜める俺をうろんだ目で見つめた。
「お、怒られたら謝ろうかな~」
恋と青春のアフロディア16+をやり込んだ俺は知っている。スポーツ推薦で入学した聖友誠は賢くないし、今のうましかな友誠も将来的に賢くはなれないという残念な事実を。
「この間も七の段間違えてたし~」
僕の記憶が俺を慰める。
友誠だったら一生気づかない可能性も大いにある。ストーリー通り、当人は完全な健康体だし、今までの態度を改めれば、きっと本編ほど恨まれる事態には陥らないだろう。と思いたい。
「うましか様さまだな。俺は多分皇学院には行かないし、このまましれっとフェードアウトすれば皆ハッピーエンドじゃん·············うましかで居てくれてありがと~」
ものの3分で万事解決した。今日一、下卑た笑みが口元から溢れる。不思議と今の俺には明るい未来しか見えなかった。
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