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卑怯な理
聖友誠と友達とは言えない俺
しおりを挟むそれからというもの公園に行っては少年に出会し、運動場に行っては少年に出会し、悪態をつかれては微笑み返すという奇妙な関係性が出来てしまった。それは俺がいくら無言を貫こうとも、何度回避しようとも変わらなかった。
俺のホームだった公園もチームも、少年は害獣のように土足で踏み荒らした。
先刻、自宅の庭でふさえとマカロン片手に茶を啜っていた時は流石の俺もドン引いた。あろうことか人様の大切なお母様を『ふさふさ』と呼んでいたのだ。見れば愛犬の花丸までもが、もげそうになるくらい尻尾を振り回しその少年に懐いている。どうやら花丸は少年が持って来る少し高めの餌に釣られてしまったようだった。その時の悲しみはとても言葉では言い表せない。
その時初めて俺は、少年の名前と良いとこのお坊ちゃんだという事を知った。聖友誠。俺はその日からミドルネームにうましかを付け、聖うましか友誠と心の中で呼んでいる。
あまりにも俺の家族に馴染みすぎた友誠は、順当に祖父母までをも懐柔していった。最早「実は友誠が本当の息子です」と突然言われても「あぁそうですか」としか言い返せない程には馴染んでいたと思う。全く、何度思い出しても面白くない。
ふさふさって何なんだっ、今思い出しても布団を蹴り上げたくなる。
その後、俺は内なる発狂を乗り越え友誠と共にチームの勝利を祈れるまでに成長した。当然、実際のチームは違うのでその辺になんとなく手を合わせただけだが。
ある日コマーシャルのように訪れる買い物自慢で、虚勢ではなく本物のお坊ちゃんなのだと察したが、それ以外の情報は依然として俺の耳には入ってこなかった。当然と言えば当然だ。俺はまだ一度も友誠とコミニケーションを取った事がない。ましてや友誠に向かって言葉を発した事すらなかった。いつまで経っても友誠の名前しか知らない俺を見兼ね、文義が何度か友誠や同年代の子供との試合を組んだが、その場で俺の声が響く事は決してなかった。
ただ聞けば良いだけの事だが面倒臭さとテリトリーを荒らされた不快感があまり勝ち、簡潔に言うとなんか癪に障った。僕を含め、俺は友誠に興味が無かったのだ。
しかし、そんな心情とは裏腹に俺は早々に真実を知る事になる。
翌年、クラブチームの試験に再挑戦した時の事。呼吸を整えながら試験会場に向かうコンクリートの廊下道。グレーの壁に一際異彩を放ち貼られていた宣伝ポスターを見た。
俺は本当に、いや本当に本っ当に驚いた。
「ゲホッゴホゲホッ」
圧巻のA0サイズ。
「まっ眩しいっ」
友誠が、デカデカのポスターのセンターをデカデカと飾っていたのだ。エフェクト付きで。おまけにホログラム仕様ときた。どれだけこのチームの財源は潤沢なんだ。呆気に取られすぎて、意識が四方八方に霧散した。
塞がらなかった口が、ぱくぱくと言葉を求めたが俺はその時、文字通り言葉を失ってしまったのだ。まるでお菓子のレアカードでも引き当てたような妙な気分だった。それが人様の母をふさふさと呼ぶ、見知った顔ときた。
『バスケ界のギフテッド』
お前かギフテッド。友誠は俺が不合格した年度、つまり初めて出会った時からジュニアのエースを張っていたのだ。忌まわしい緑道での珍事を思い出し下卑た笑みが溢れた。そりゃ会う度に下手と言われるわけだ。俺の顔を見るのなんて心底、不快だっただろう。
友誠こそが、俺が長年嫉妬を拗らせていた張本人だったのだ。
「よお、下手くそ。ようやく来たか」
合格発表の時、懐っこい笑顔と共に言われた言葉。正直、ちょっと憂鬱だった。俺が想像していたギフテッドと全く違う。俺のギフテッドはもっとダンディズムな紳士だ。はじめましての段階から出直して来て欲しい。
数年連れ添った今となっては『こんにちは』と同種だが『下手くそ』『チビ』友誠から言われる度に思う事があった。
小学生の頃によくある、男の子が女の子にイジワルをする話。周りの人間は甘い名言を授け、女の子を浮き足立たせる。
「あなたの事が好きだからイジワルしてしまうのよ」「あの子はあなたが大好きだからついつい、いじめてしまうの」この確信も責任も負わない軽はずみな言葉が鳥の雛の刷り込みのように、大人になっても女の子の脳に残る。
しかし現実はそうではない。ただ気に食わなかっただけ。何となく見ていると苛つくだけ。たまたま機嫌が悪い時に一緒に居てしまっただけ。それが受取手の判断を誤る元凶になってしまう。事実、俺の家族も友誠の言葉にただ微笑んでいるだけだった。祖母に関しては「なんて仲が良いのかしら」なんて言い出す始末。「ムカつく行動、理解の出来ない行動は全て好意の裏返し」脈々と伝えられるこの迷言を広めた人間は少し反省した方が良い。
これは、昨年まで俺が陥ってしまっていた症状によく似ている。言葉をとっ散らかった方向に受け取ってしまうと、本当にえらい事になる。俺は学んだ。もう安易に言葉を受け取る事はない。
友誠の言葉をざっくり翻訳すると『下手くそ』は『とっとと辞めろ』『チビ』は『どうせその身長じゃプロにはなれない』そんなところだろう。
全くもって糞食らえだ。そもそも俺は男だからイジワル云々の話は当てはまらないが、本人はただの憂さ晴らしのつもりでも、受け取る当事者としてはやはり心中穏やかではない。友誠にとっては蟻の巣穴を土で塞ぐのと大差無いのだろうが、蟻にだって感情はある。どうしても靴紐解けて転けろくらいは思ってしまう。
「えんがちょだぜ全く」
無垢な女の子が、友誠のあの馴れ馴れしさで意地の悪い言葉を言われてしまったら、代行で俺が波を撃ってやろうと思った。その決意もあって、同じ空間に居る時は必ず視界の端に友誠を入れるようにしていたが、残念ながら俺以外に悪態をつかれている場面に出会すことはなかった。きっと面と向かって言われてしまえば女の子はコロりと勘違いしてしまうだろう。なんせ負の感情を掻き消してしまうくらいには友誠の顔面が良い。そしてなんと言っても足が速いのだ。
選手の姉妹や父母が多く訪れる大会でも監視強化を一人粛々と行っていたが、肩しかしのように何も起きなかった。それどころか俺の視線に気付いたのか、何故か余計に友誠が俺に纏わりつくようになったしまった。いつも被るのは俺だけだ。
日に下手くそを両手両足の指の数だけ言われたいつかの帰り道、俺は流石にひっそり泣いた。
「そんなに嫌なら離れてくれれば良いのに」
誰にも届く事のない言葉が、曇り空に消えてゆく。この言葉を言うと友誠は酷く傷つくだろう。虐めている側にはその自覚が無いのが相場だ。自分より弱いと思っている俺に言い負かされる事なんて友誠はきっと想像もしていない。友誠の中の俺は一生バスケが下手だし、一生チビだ。
何かしらを抱えているのだろうとは思った。友誠の家族を遠目で一度だけ見た事がある。固く無機質な感じ。この言葉以上に適した表現を俺には見つけられない。心情的には、自分よりあからさまに劣った人間が近くに居ると落ち着くといったところか。そもそも、他人を見下して勝ろうとする人間なんて大概はそんなもんだ。
チームの練習が始まってからというもの、俺は積もるモヤモヤを発散する場を見つけられず、増える練習量に比例するかのように溜息が、日々増えるばかりだった。
ベッドの中、友誠の顔を思い浮かべる。
あの憎たらしい9才のうましかな友誠の顔ではない。俺しか知らないプロフィール画面に描かれた将来の姿とも言える聖友誠の姿だ。
「攻略対象·······」
そう。と、言いたくはないが、友達もとい腐れ縁の友誠は、恋と青春のアフロディア16+の攻略対象だ。
プロフィール画面の聖友誠は豪快な笑顔を浮かべ、男らしく腕を組みとても堂々としている。その漢を感じさせる風貌は男女問わず絶大な人気があった。シャツの隙間から覗かせる褐色の肌が堅いの良い身体によく似合っていた。今の友誠がそのまま背伸びして何処か悪戯を目論んでいるかのような、良い意味でガキっぽい笑みを浮かべている。
ゲーム内での聖友誠は、簡潔に言えば兄貴的存在を担う。
高校一年のヒロインにとってふたつ上の先輩。スポーツ一家の三男坊。
曇りを晴れにしてしまう程の清々しく豪快な笑顔は、向けられただけで精神的な壁を容易く壊し、一瞬で誰とでもすぐに仲良くなってしまう。いつも聖友誠の周囲は人で溢れていて、楽しそうな笑い声に包まれていた。そこに居るだけで周りを明るく照らし、導いてくれるようなリーダーシップ。太陽のようなカリスマ性を持った人間。
陽の塊でいて、典型的なスポーツ馬鹿。誰にでも打算なく接する為、老若男女問わず万人に愛され、その好意を意図せず倍にして返してしまう根っからの良い奴。キャラクタ一人気では3位だが、俺は恋と青春のアフロディア16+の登場人物で聖友誠が一番好きだった。
背中一杯に溢れる艶やかな青光りの黒髪は、そこだけを見ると一瞬女性に見間違う程に美しい。しかしそれとは対照的な高い身長と無駄のない肉体が、聖友誠を男だと告げる。トレードマークでもある魅惑的な琥珀色の三白眼は見つめただけで、たちまち万人の心の琴線に触れ途端、惑わす。その美しさとは対照的に、笑った時のみ見える左八重歯が、聖友誠の懐っこい豪胆さを象徴していた。
しかしプロフィール画面、攻略対象の中でただ一人だけユニフォームを着ていない。聖友誠だけが、皇学院の制服姿なのだ。
「友誠········」
そう。本編の友誠は既にバスケを辞めていた。
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