激レア職業のハズレ持ち、現代ダンジョンを無双するー地図しか作れない無能と罵られ、最難関の大迷宮に捨てられたけど、ソロで攻略できるから問題ない

安田 渉

文字の大きさ
上 下
21 / 43

【第21話】契約

しおりを挟む
「妾の胸に、短剣を突き刺すのじゃ」

 銀髪の悪魔との交渉により、契約を行なうことになったのだが、心臓に短剣を突き刺せと要求してくる。

「えっ!そんなことしたら死ぬんじゃ……」
「死ぬのぉ」
「やっぱり!!」

 あっさりと死ぬと宣言する悪魔に困惑する。契約して早速死なれたら困る。能天気に返答する悪魔が、理由を説明する。

「実はの。妾は魔界の者であるから、本来であればこのダンジョン、つまり虚界には顕現できないんじゃ。もちろん現界にもじゃ」
「えぇ~~……」

 頭の中が、はてなで埋め尽くされる。共に行こう等と言っておいて、魔界でしか生きられないってことだよな? 虚界にも現界にも行けないと。でも実際に虚界であるこのダンジョンには存在しているわけだし、どゆこと?

「まぁ、小難しい話は後じゃ。さっさと妾のこの胸に短剣を突き立てよ」
「ふぅ~~……」

 何が何やらさっぱりではあるが、今は悪魔の言うことを聞くしかなさそうだ。悪魔も自分が破滅するようなことを俺に求めるなんてことはしないだろう。意を決して、真紅のダガーを取り出す。

「……どうなっても知らないからな」
「うむ。手早く頼むぞ」

 黒いゴスロリのような服に身を包んだ悪魔の、その控えめな胸に、ダガーを突き立てる。ずぶりと、胸にダガーを刺すと、手に肉を抉る生々しい感覚が残る。刃を伝って、ぽたりと、血が流れ落ちる。

「んっ……!もっとぉ奥まで……!」

 ぐぐぐっと奥の方までダガーをねじ込むと、銀髪の悪魔の顔が紅潮し、燃え盛るような金眼の火が、徐々に、生気を失っていく。ーーそして、絶命した。
 ダガーを引き抜くと、その場にばたりと倒れ、血溜まりが出来ていく。

「マジで、死んじゃったのか」

 呆然とその場に立ち尽くしていると、悪魔の亡骸が、ジジジと音を立て書き換わっていく。大きい。大きい何かに書き換わり始めた。

「!! なんだ! 一体何が起こってる……うおわあああああ!!」

 あまりにも大きな何かが出現しようとしている。ジジジと書き換わり始め、すぐに俺を超える大きさになった。まだ全体像がつかめない。
 咄嗟のことに動揺するが、距離をとって戦闘態勢に移る。

 驚くことにそこに現れたのは、数多の頭を持つドラゴン。
 S級モンスター、ヒュドラだった。

 まずい、こんな状態でヒュドラと相対するなんて……!

「……ん?」

 雑居ビルに引けを取らないサイズ感のヒュドラが、その場に出現する。が、よく見ると、生気なく項垂れていて、どうやら絶命している。

「あれ? 死んでる?」
「死んでおるの」
「うおわっああ!!」

 さっきヒュドラに書き換わっていったはずの銀髪の悪魔が俺の隣に立っていた。それと同時に俺は白い光に包まれて溢れんばかりの経験値を獲得する。
 え、これ、経験値がもらえるの?
 ありがたいけど、なんか達成感とか何もない。過去最大の経験値獲得記録を遥かに更新するのが、これになると思うと少しだけ複雑な気持ちになった。

「ん? おお、凪。ご苦労であった」
「いや、おまっ! え? 死んだんじゃ……っていうか、お前の正体はヒュドラだったのか!?」
「何を言うか馬鹿者。この蛇畜生は、妾が虚界に顕現しておるための受肉体にすぎぬ」
「ヒュドラを蛇畜生呼ばわりかよ。でも納得。通りでとんでもない魔力だったわけだ」
「まぁ、こやつの体を持ってしても本来の妾の力のほんの一部しか発揮できんがの!」

 フフンと得意げにする銀髪の悪魔が、さらっと凄いことを言ってのけた。ヒュドラは、S級モンスターだぞ……それを持ってしてもほんの一部の力しか発揮できないって、こいつが本気出したらどんだけヤバいんだ……。
 もしかして五ツ星ハンターをも上回るのではないか?

「と、まぁそんなわけで、死ぬと言ったのは、ヒュドラが生きたまま出てきてしまうからだったわけじゃな。それにヴーデゴウルとの契約上、ダンジョンキーパーとしての務めも果たさねばならんかった。死ぬことで契約は終了。奴ともこのダンジョンともおさらばじゃ」

 説明をひと通り聞いて「なるほど~」と相づちを打つものの、何が「なるほど」なのか1mmも理解できなかったのは、致し方ないと思う。確かに今この場にヒュドラなんか出てきたら終わりだったしな。

「それで、受肉体がなくなって、どうしてお前が目の前にいるんだよ」
「今の妾は、霊体じゃ。霊体であれば、現界にも顕現することができるからの。でもまぁ、このままの姿じゃと、ほとんどの力が失われておるがの」

 なるほど、そういう事ね。思わず俺は「はぁ」と嘆息する。まぁほとんどの力が失われている件は、後々なんとかしよう。早速、先が思いやられる。色んなものを背負いすぎている気がしてきた。

「凪よ。契約の儀を始めようかの」

 そう言った銀髪の悪魔は、スッと小さな手をこちらに差し出してくる。
 俺は、迷わずその手を握って握手するのようなかたちになる。

 悪魔との契約。迷いはない。全て目的を達成するためであり、未来のためだ。それが悪魔と契約することになろうとも、俺は一歩も引かない。この小さな銀髪の悪魔の力が俺には必要だ。

「妾は、一条凪の望みを叶えるために、この命に変えても遵守すると誓おう」
「俺は、ヴーデゴウルを討つために、共に歩むと誓う」

――契約成立

 金色の光が二人を包みこんだ。二人の誓いが魂に刻まれ、固い絆で結ばれたような、そんな感覚を覚えた。

「それでは、お前様よ。妾に新たな名を与えておくれ」

 新たな名前。そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。いや、あえて名乗らなかったのか。憎んでいる敵であるヴーデゴウルが名付けたものなのだろう。

 正直なところ、あまりこういうのはセンスがない。名前か。
 考えを巡らせていると、ふと、妹の海未の姿が思い浮かんだ。

「決めた。お前の名は、『アクア』だ」
「『アクア』か、いい響きじゃの。気に入った」

■■■

「さて、契約も無事に締結できたわけじゃし。地上に行こうかの。ダンジョンキーパーを倒したことで、転移ポートが出現しているはずじゃ」

 転移ポート。ダンジョンを攻略すると現れるもので、転移ポートを使えば、外の入口まで転移できる。普段であれば、帰路に採集や発掘等を行なうため、あまり使わないものだ。ただ、この地下大迷宮をまた上へと戻ろうとしたら1ヶ月は彷徨い続けることになる。ありがたく使わせてもらおう。

「帰れるのか。地上に……」

 この1ヶ月と少しの間を振り返り、感慨深くなる。
 C級ダンジョンで山田に殺されかけ、大穴に落ちた。
 地下大迷宮に入った当初は、死を覚悟していた。
 それでも自分の可能性を信じ、数多の死線を乗り越えて、最下層であるこの50階層まできたのだ。

 S級モンスター、ヒュドラの亡骸をちらりと見た。
 まだ、この大迷宮を攻略したという実感が沸かない。
 まさか最後のダンジョンキーパーを倒すどころか、契約してお持ち帰りすることになるなんて。

 でも、これで地上に戻ることが出来る。
 ここはゴールではない、スタート地点。これからが本番だ。

 俺は別人に生まれ変わったように強くなっている。
 この大迷宮での経験は、自分にとって大きな財産になるだろう。

「おお、そうじゃった! お前様よ!」

 アクアが、思い出したように振り返る。満面の笑みを浮かべてこちらを見ているが、目が笑っていないので、嫌な予感がする。

「この先にヴーデゴウルの秘蔵コレクションが眠っておる。このダンジョン最大の秘宝。『アーティファクト』がの!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

始めのダンジョンをループし続けた俺が、いずれ世界最強へと至るまで~固有スキル「次元転移」のせいでレベルアップのインフレが止まらない~

Rough ranch
ファンタジー
 人生のどん底にいたこの物語の主人公こと清原祥佑。  しかしある日、突然ステータスやスキルの存在するファンタスティックな異世界に召喚されてしまう。  清原は固有スキル「次元転移」というスキルを手に入れ、文字通り世界の何処へでも行ける様になった!  始めに挑んだダンジョンで、地球でのクラスメートに殺されかけたことで、清原は地球での自分の生き方との決別を誓う!  空間を転移して仲間の元へ、世界をループして過去の自分にメッセージを、別の世界線の自分と協力してどんどん最強に!  勇者として召喚された地球のいじめっ子、自分を召喚して洗脳こようとする国王や宰相、世界を統べる管理者達と戦え! 「待ってろよ、世界の何処にお前が居たって、俺が必ず飛んで行くからな!」

処理中です...