激レア職業のハズレ持ち、現代ダンジョンを無双するー地図しか作れない無能と罵られ、最難関の大迷宮に捨てられたけど、ソロで攻略できるから問題ない

【第4話】C級ダンジョン

「お～し、みんな集まれ～！」

　俺と神崎が戻ると、このパーティのリーダーの山田は、みんなを集めた。俺は地図を山田さんに渡し、大穴の件も報告して隊列に加わった。

「んっんん！　本日リーダーを務めさせていただく、三ツ星ハンターの山田だ。職業は守護者。役割はタンクだ」

　タンク役は、最前線でパーティ全体を守る役割。守護者は、戦士クラスの上位職だ。守護者まで来ると、トラックが突っ込んできても、ミサイルが飛んできても止めることが出来るくらいの能力がある。

「え～と、今日のパーティは…8人か。まず先陣は俺が切ろう。同じく二ツ星ハンターで『重戦士』タンク役の君は俺に続いてくれ」

　山田さんは、低級ダンジョンでリーダーを任されることが多く、テキパキとパーティに役割を指示していった。

「DPS役で二ツ星の2人は『騎士』かな？　君達は第二陣でタンクと連携して攻撃を頼む。じゃんじゃん倒していってくれ」

　DPS役は、攻撃がメインとなる役割だ。タンク役が敵の攻撃を止めたら、持ち前の攻撃力で敵を倒すことが求められる。

「それと……おお！　君は『聖騎士』か！」
「はい。三ツ星ハンターの神崎といいます。このギルドでは新人です」
「神崎さん。今日は君が、このパーティのメインアタッカーだ。じゃんじゃん倒していってくれ」

　コクリと頷く神崎。上位職だとは思ったが、『聖騎士』か。剣士クラスの上位職で、D級モンスターであれば一撃で倒すことができるほどに攻撃力が高い。C級モンスターでも苦戦することはないんじゃないかな。

「二ツ星のヒーラー役『聖職者』さんは、後衛で我々前衛のサポートを。残りの一ツ星諸君は、D級の雑魚モンスターの処理と、アイテム、鉱石や植物の採集を頼む」

　一ツ星ハンターの俺の役割は、雑魚の相手と採集だ。
　雑魚とは言っても一般人が戦ったらただでは済まない。なんてたって一ツ星ハンターの俺でさえ、一回のダンジョンでD級モンスターを倒せる数なんて、2、3体で精一杯。まぁそれだから経験値が全く貯まらないのだけれど。

「C級ダンジョンに三ツ星が2人もいるんだ。今日は安全だろう。みんなリラックスして臨んでくれ！」

　テキパキと全員に役割を伝えた山田が、みんなを鼓舞する。

「それでは……行こうか！！」

　タンク役の2人が先頭を切ってダンジョンを進んでいく。
　俺は最後尾。みんなの背中を見ながら進んでいく。

■■■

　道程は安全だった。

　山田は地図の通り、2階へと通ずる階段に向けて、モンスターを避けた最短ルートで進んでいった。俺は、時折探知を繰り返し、移動するモンスターの群れの位置を山田に伝えた。順調、順調。

　難なく2階へ到達すると、再び探知を発動し、地図を作成。
　特にモンスターとも遭遇することなく、5階。このダンジョンのボスの居る部屋まで辿り着いた。

　他のパーティも気が抜けたのか、雰囲気も明るい。パーティの気を引き締めるためにも山田さんが鼓舞する。

「さぁ、ボス戦だ。ここまでの道中は何もなかったが、ここからが本番。気が緩んでいると足元すくわれるぞ。俺は何度もそういった場をみてきた。末路はわかっているな？」

　パーティ内に緊張が走る。

「うむ。大丈夫なようだな。それじゃあ、行くぞ！！」

　そう言うと、山田は、勢いよくボスの居る部屋の扉を開いた。

「グオオオォォォオオォオオオオ！！」

　人型の狼。狼男を連想させるそのモンスターは、突如現れた侵入者たちに向け、身も竦むような怒気を放った。全身が灰色の毛に覆われ、ところどころに鎧のような鋼鉄を身にまとっている。

「B級モンスター、ハイグレートハウンドか」

　神崎が、冷静にそう呟いた。

　狼のような見た目のグレーハウンドの上位種。今にも燃え盛りそうな赤い目が、こちらを射抜くように睨みつけ、鋭く尖った歯を見せて威嚇している。攻撃手段である爪は、一本一本が長剣を思わせるサイズ感だ。食らったらひと溜まりもない。

　俺は、初めて見るB級モンスターに萎縮してしまった。

「ウオオオォォオオオオン！！」

　遠吠えに似た鳴き声を放つと、どこからともなく十体を超えるグレーハウンドが集まってきた。グレーハウンドは、見た目は狼のようだが、サイズ感が違う。人よりも大きい。

「陣形を組め！　手筈通りに行くぞ！」

　飛び掛かってくるグレーハウンドの攻撃をタンク役の戦士が押さえ付ける。
　すると間髪入れずにDSP役の剣士が、攻撃を加えた。

　見る見る内に、グレーハウンドの群れは数を減らしていった。
　ここまでは、作戦通りだ。

「オオオオォォォオオオオォオォオオオン！！」

　ハイグレーハウンドが再び雄叫びを上げると、今度はC級モンスター、無数のグレートハウンドが姿を現した。ハイグレーハウンドに見劣りはするが、それでも人の2、３倍はある狼男のようなモンスターだ。

「狼狽えるな！　俺が一匹も通さん！！！！」

　新たな敵の出現に少しばかりの動揺が走ったパーティを山田が、一喝！　即座にパーティの士気を取り戻した。

（つ、強い。さすが三ツ星ハンターが二人もいるパーティだ！）

　中でも『守護者』の山田は、最前線からグレートハウンドすらも一歩も通さず、自身を上回るサイズのその盾は、まさに鉄壁。
　そして、『聖騎士』の神崎。閃光の様に素早く敵の懐に飛び込み、彼女の細長い長剣は、目にも留まらぬ早さで敵を切り刻んでいる。

　無残に死にゆく同胞を見かねたのか、遂にハイグレートハウンドがこちらに突進してきた。

「ーー来るぞ！！」

　ーースキル発動、<巨人の壁>！！

　山田さんの盾が神秘的な光を放ち、オーラがパーティ全体を覆った。そのオーラは、盾の自体の強度を上げるだけでなく、パーティ全体を壁のように守る。

　迫り来るハイグレートハウンドが、<巨人の壁>にぶつかるーー次の瞬間。
　突如として、その首が跳ね上がった。
　瞬時にパーティ全体を覆っている<巨人の壁>に鮮血の雨が降り注ぐ。

「ふぅーーっ。なんて腕だ。……神崎。俺でさえ、目で追うことの出来ない剣速だったぞ」

　ボスを倒し、安堵したのか、山田さんが嘆息を漏らした。

　一瞬の出来事だった。目で追うことは叶わず。気づいたら終わっていた。
　どうやら、ハイグレートハウンドが盾にぶつかる一瞬の間に、神崎はタンクの横から抜け出し、ボスの懐に潜り込み、一撃で首をハネた。そして、いつの間にか、ハイグレートハウンドの後ろまで移動していたのである。

　俺はただ、ボスに萎縮し、突っ立てただけの木偶の坊だった。
　神崎のあまりの強さに羨望の眼差しを向けるしか出来なかったが、すぐに自己嫌悪が襲った。どうして、俺は、こんなに弱いのかと。

　こうして神崎は、敵も、味方も、全てを圧倒し、俺の初めてのC級ダンジョン攻略が完了したのだった。