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【第2話】悪夢のはじまり

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 2年前、高校を卒業した俺は、微かな希望を抱いて、高給取りであるハンターになるために、ギルド連盟のハンター適性試験を受けにいった。

『!! 局長! 魔導器が見たことのない職業を表示しています!』

 ハンター適性試験では、職業測定魔導器に触れることで、一般人がハンターに覚醒する。一般人がハンターに覚醒する確率は1万人に1人。それでも高給取りであるハンターになるべく、小さな希望にかけて、多くの人がハンター適性試験に駆けつける。
 そして、運良くハンターに覚醒した人は、魔導器から自身の職業を知ることができる。

『職業……案内人……!!』

 最初は希望に胸が踊った。日本初の一ツ星、固有職業。マスコミにも大きく取り扱われ、俺は一躍時の人となった。
 しかし、それは悪夢の始まりだった。

『是非、我が黄昏騎士団トワイライトギルドへ』

 ハンターとなった者は、ギルドへ所属する。言わばダンジョンに人を派遣する会社のようなものだ。たった一人でダンジョンを攻略するのは難しいため、複数の職業でパーティを組むことで、より安全に、より効率良くダンジョンを攻略する。戦利品ビジネスから新米ハンターの育成まで、ハンターがダンジョンに専念できるように支援する。それがギルドだ。

『契約金は3億円でいかがかな?』

 そして、固有職業を獲得した俺は、日本三大ギルドの1つである、黄昏騎士団に勧誘されたのだ。
 有頂天だった。
 お金の心配どころか豪勢な生活ができる! そう思っていた。

『ダンジョンの構造を把握するだと…!? 凄いじゃないか!!!!』

 始めは良かった。

 職業・案内人の唯一のスキル<探知>は、ダンジョンの構造を把握することができる。
 このスキルへの周りからの期待値は大きかった。もし、ダンジョンに入る前にダンジョンの構造を予め把握することができれば、より安全に、より効率良くダンジョンを探索することが可能となる。

 しかし――

『え? スキルで、把握できるのは自分の周りだけ?』

 スキルの効果は熟練度に応じて上がっていく。最初は自分の周りだけしか探知することは出来なかったが、熟練度が上がっていけばより広く探知できるようになるはずだったから。それだけなら、まだいい。

『はぁ? 攻撃スキルが皆無?』

 致命的なのは、攻撃手段がないため、経験値を稼げないことだ。
 敵を倒すことで得られる経験値。スキル熟練度と経験値が溜まっていけば、より上位の職業に昇格が可能となる。職業の昇格と同時に、ハンターとしての星も増え、見習いである一ツ星ハンターから一人前の二ツ星ハンターになれる。

 が、ヒーラー役の幻術士よりも攻撃手段のない職業、案内人。
 経験値を積むためには、装備品に頼るしかないのだが――

『とんだクソスキルだな』
『申し訳ないが、契約を解除させてほしい』

 早々に契約を解除されてしまった。
 さらに、契約解除金で契約金3億円のほとんどを持っていかれてしまった。

 装備品は非常に高価で、D級武器でさえ数十万円する。
 当然、日々の生活で一杯一杯の俺が、高価な装備品を買うことなんて出来るはずない。

『一条さん、黄昏騎士団からの除名について一言お願いします!』
『全く使い物にならない固有職業だったのは本当でしょうか!一言お願いします!』

 一躍時の人となった俺が、転落するまであまりにも早すぎた。マスコミの格好の餌食となり、家の前まで連日取材陣が訪れた。
 俺は日本中の笑いものになった。

『お兄ちゃん、いつでもハンター辞めてもいいんだからね……無理しないで』

 唯一の家族。妹の海未だけは俺の味方だった。
 それでも俺は知っていた。海未が、俺のせいで学校でいじめにあっていることを。海未は、それでも俺を庇い、励ましてくれた。

 海未のためにもハンターを辞めるわけにはいかない。
 そうして、ハンターになって2年経過するも以前として見習い一ツ星ハンターのままというわけだ。

■■■

「頑張れナビくん! 応援してるぞ!」
「頼むぞナビくん! 我らパーティの命運は君に懸かっている!」

 先遣隊として一人、ダンジョンの入口に向かう俺の後ろから賑やかな歓声が聞こえてくる。
 「ぎゃはははーっ」と、後ろ指さされ笑われている。いつものことだ。黄昏騎士団の契約を解除された時のマスコミに比べれば大したことはない。あれは思い出すだけでトラウマレベルだ。俺も意地でハンターを続けているところがあるけれど、ふとした瞬間にプツンと切れそうになる。

「はぁ……ハンターなんて、本当は辞めたいんだよ……」

 むさ苦しい男共の歓声を背に、俯きながら、とぼとぼとダンジョンの入口へと向かう。

「あなたが、一条 凪?」

 蒸し暑さを切り裂くような凛とした声が、俺の名前を呼んだ。
 顔を上げると、俺の目の前には赤い鎧に身を包んだ美しい女性立っていた。
 え、外人……さん?

「あなた……は?」
「私は、神崎。このパーティでは新人。山田リーダーから頼まれて、私も先遣隊に加わる」

 金髪ポニーテール。刺すような栗色の瞳がこちらを見据えている。見事に引き締まった筋肉もさながら、その端正な顔立ちはモデル顔負けだった。

 ヤバい。緊張する。こんな美人に声を掛けられたのは生まれて初めてだ。
 生活するだけで一杯一杯の俺が女性経験豊富なわけがあるはずもなく、美女に話しかけられただけで赤面してしまう始末。
 え、恥ずかしい!!!!

「え、あ、あの、えっと……俺一人で、大丈夫でしゅ」

 混乱した俺は、同行を丁重にお断りしてしまった上に噛み噛みだった。

 ううっ……もう、地面にでも埋めてくれ。
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