幽艶の恋心

沖町 ウタ

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第一章 麗らかな翻弄

第6話 真相を探る 4

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 商店街までやってくると、早速二人は歩きながらいろんな場所をめぐる。商店街のメイン通りを歩きつつ、脇道に入り、古そうな家や店が無いかを探してみる。
 途中途中、美咲が犬の散歩をしている人がいれば足を止め、猫がいれば写真を撮ったり、「なにこれエモい!」なんて目を輝かせて写真を撮ったり、気になるものを見つけては足を止めるので、なかなか商店街散策は進まなかった。
「ん~なかなか得られるものないなぁ……」
商店街の道を歩きながら、顎に手を当て難しい顔をしながら美咲は言った。
「お前が足とられすぎるからだろ……」
 捜査の進みが悪いことに文句を言う美咲に、橡は思わず突っ込んだ。
「そんなことないよ。それより……ちょっと疲れちゃったね」
「あちこち歩き回ったからな。もう3時間ぐらい経ってるし、休憩するか」
「じゃあ……あ! あそこいいんじゃない!?」
 そういって意気揚々と美咲が指さしたのは、少し年季の入ったネットカフェだった。
「ネカフェって、なにすんだ?」
「なにって、休憩」
「漫画でも読むのか?」
「それもいいけど、やっぱり足での捜索は難航するし、パソコン使って調べましょ?」
「結局調べるのかよ……」
「何事も経験なの! やってみて気が変わることだって多いんだから!」
「まぁな……つか、調べるならスマホでいいんじゃねぇの?」
「いいじゃない、休憩なんだし。それに、一つの画面二人で見たほうが共有出来て楽しそうじゃない?」
「どうなんだろうか……」
 疑問はありつつも、二人はネットカフェに入っていった。


「……で、なんでフラットシートなんだ?」
 橡は通された部屋に入り、受付からわかっていた疑問を美咲にぶつけた。
「一番ゆっくりできそうだったから。は~ラク~!」
 美咲はバックを置き、足を伸ばして軽く足を揉んで歩いた疲れをほぐす。
「でもお前……こういうのってカップルとかで来るものだろ……」
 橡は落ち着かない様子を見せる。
「普通はそうなのかな?」
「そうだろ……まぁ、美咲がいいなら別にいいけどさ……」
「じゃあいいでしょ。それより、早く調べましょ」
「はいはい……」
 寛げる空間に女子と二人でいることにどうしてもそわそわしてしまう橡だったが、幽霊もいるし、美咲があまりにも気にしないので、橡も意識しないようにしてパソコンを操作する。
「なんて調べたらいいんだ?」
 ブラウザを開くと、美咲に問いかける。
「半樹商店街、老舗……とか?」
 美咲が言った通りの検索を掛ける。
 検索結果が出てくる。色々とサイトを見てみるが、まとめサイトなどで情報を見る。
 先ほどの散策で見つけた店もあったが、色々な店が乗っている。
 実際に見るよりも綺麗に掲載されていたり、大体が新しい店が多く、古い店はそれほど多くはなかった。
 ひとまず探して見つけた店の画像をスマホで撮影する美咲。
 その行動にやはりスマホの方が楽なのではと疑問を抱くが、橡は触れないでいた。
 その後もいろんな検索方法を試したが、それほどパソコンの知識もない二人はそれほど深く調べることもできず、15分ほどで調べ終わってしまった。
「……まだ時間まで1時間15分あるわね」
 スマホの時計を見ながら美咲が呟いた。
 ネットカフェに入るときに時間を尋ねられ、美咲は迷いなく90分にしていた。
「だから言っただろ。90分もいるか? って」
「もっと色々出てくると思ったの! ゆっくりもしたかったし、もっと時間かかるものだと思って……」
「どうする? もう出るか?」
「え~もうちょっとゆっくりしたい。それに勿体ないよ。先払いだったし」
「じゃあ……漫画でも読むか」
 せっかくネカフェにいるということで、美咲も首を縦に振り、二人は互いに漫画を持ってきて読み始める。
 美咲はよく漫画を読むのか、気になった漫画の1巻をたくさん持ってきて、橡は雪平に借りたことのある本の続きなどを探して、適当な本を持ってくる。
 二人は互いに漫画に没頭し、幽霊は飽きたのかシートに横になり眠りについていた。
 橡は幽霊も寝るのか……と初めて見た寝姿にそんなことを思いつつ、漫画に没頭する。
 しかし、30分ほど経つと、橡は一通り持ってきた漫画を読み終え、腕を高く上げ伸びをすると、飽きたのか、漫画に集中する美咲に目を向ける。
 食い入るように漫画を読む美咲。橡が見ていることなど気づいている様子もなく。
 朝の図書館と言い、美咲は集中すると周りが見えなくなるタイプなんだな、なんて思っていると、美咲が集中しすぎているせいか、背もたれに身をゆだね、膝を立てて漫画を読んでいることに気が付き、スカートを履いているせいで、下着が見えそうになっていることに気が付いた。
「…………」
 橡は頬を赤くして顔を背ける。
 油断しすぎだろと心の中で突っ込みつつ、見たくなる気持ちを抑えるため、とりあえず橡は目の前にあるパソコンを弄ることにした。
 煩悩を忘れようと、わざと頭の中で色々考える。
 ブラウザ検索ではなく、そういえば最近はマップに店のレビューが載っていたりすることを思い出す。橡はマップを開き、半樹商店街を見る。
 何気なくマップを眺めていると、大半が新しい店の情報がある中、『喫茶Maki』という店名が目に留まる。なんとなく、名前が古臭いという橡の感覚だった。
 店をクリックすると、中には数件のレビューが書いてあった。
『古くから常連です。変わらない味がいい。20年前ぐらいからずっと来てます』
 と、昔からやっている情報を見つける。
「お」
 橡が思わず声に出すと、美咲もその声に気が付いたのか
「どしたの? なにかみつけた?」
 と言いながら背後で動く音が聞こえる。
 橡は振り返っても大丈夫だろうと思って振り返る。
「ああ……なんか古そうなって―――」
 しゃべりながら振り返り、隣まで来た美咲の方を振り返ると、前かがみでシートに手を着いたまま四つん這いでパソコンを覗き込んで来ていたせいで胸元の服が緩まり、着けているブラと谷間が見える。
 これは男の嵯峨といえるだろう。数秒間、思わず橡はあからさまに胸元に視線が下がる。
 パソコンの画面を見ていた美咲は、言葉が詰まった橡を見ると、視線が胸元に来ているのに気が付き、反射的に片腕で胸元を隠し、頬を紅潮させる。
「あ……」
 美咲の動作により思わず橡はそんな声が漏れ、誤魔化す様にパソコンの画面を見て言葉を続ける。
「な、なんか、この店結構古くからやってるみたいだぞ。喫茶店だし、当時学生も利用してた可能性はあるんじゃないか?」
 画面を凝視しながら顔を赤くしたまま美咲に尋ねる。しかし返事が返ってこない。
 美咲の方を見たいが、気まずくて見ることもできず、沈黙が続く中、小さく美咲が橡に問い掛ける。
「…………み、みた?」
 誤魔化そうとした事を聞かれてしまった橡は全身に冷や汗を感じる。
 聞かれた上に、見ていたのは確実にバレている。聞かれたからに誤魔化すことは出来ないだろうと悟ると、橡は素直に伝える事にした。
「…………みえた」
 そう言いながら振り返ると、美咲は四つん這いの姿勢を戻し、ペタンとシートに座って片腕はまだ胸元を抑えながら、頬が少し赤くなっていた。
「…………」
「…………」
 静寂。二人とも、初めての出来事にどう言葉をかけたらいいのかわからなくなっていた。
「あ、あははは……油断しすぎたね……ごめん」
「い、嫌…俺のほうこそわるい……は、はははは……」
 謎の遠慮し合う乾いた笑いが空間を包んだ。これ以上触れない様に触れない様にとした結果、謎の空気が生まれてしまった。
「で……なんだっけ? 何かみつけたんだっけ?」
 まだ少し顔が赤いまま、美咲の方から話を濁す様に話を戻す。流れに乗る様に橡はもう一度説明する。
「あ、ああ! この店の口コミ見てみろ。どうやら20年ぐらい前からやってるらしい」
「……ホントだ。なら、もしかしたら何か知ってる人がいるかも!」
「どうする? 今から行くか?」
「もちろん! さ、さっそくいこ!」
 2人はこの場にいるのが耐えきれなくなったのか、時間がまだ残っているが、そんなことに触れることなく、そそくさとネットカフェを後にした。
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