王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい

緋影 ナヅキ

文字の大きさ
39 / 48
幼少期

カミングアウト➁

しおりを挟む

「前世の記憶を…?」

 困惑気味な表情をし、思わずといった様子でシュメルク様が繰り返して小さく呟く。

 やはり、いくらなんでも荒唐無稽こうとうむけいすぎる話だから、すぐには信じられないよね…。もし私がその立場だったらそうだもの。

 膝部分のドレスの生地を両手で握りしめ、少しだけ顔を伏せた。あぁ、このままだとシワになってしまうな…なんて、頭の片隅でぼんやりと思う。


「到底信じられない…が、もしそれが本当なら、今までの出来事に納得がいく。カトリシアは他の令息令嬢と比べて、年齢のわりに大人びすぎているからな」

「僕も同様です。アンジュは属性確定の時でしか外に出たことがないので、本当ならカトリシア嬢と知り合いだったということすら起こり得ませんから」

 そんな声が聞こえて、バッと伏せていた顔を正面に向ける。そこには、両者共に、いたって真面目な顔をして会話をしている兄様達がいた。

 否定しないでくれた…

 その事実に、嬉しくなって涙が出そうになる。

 しかし、それはそうとしてザライド兄様や。
 私が教会以外の時に屋敷の外へ出たことがなかったのは本当のことだけどさ、そんな真面目くさった顔で言うことじゃなくないですか??私が引きニート生活を謳歌していたことが桜にバレたんだけど。

 他の判断基準はなかったのか…。

 あぁほら、桜が「えっ、引きニートしてたん??うわぁマジか。折角のファンタジー世界なのに勿体ない」って言いたげな顔をしてるよ。私だって楽しみたかったけど、仕方ないじゃないか。お父様達に屋敷から出してもらえなかったんだから。

 
「そもそも、カトリシア達が揃って同じデタラメを吐くメリットが存在しない。よって、前世の記憶云々は恐らく、本当のことだろう」

「そうですね。それに、アンジュは利益を得ない嘘や人を傷付ける嘘をつかない。シュメルク様の話を聞くに、それはカトリシア嬢も同じ」

 私達がそんなことをしている間にも、兄様達は会話考察をどんどん進めてゆく。メリットやデメリットの有無で考えるその姿は、ひどく貴族らしいと思った。


 そろそろ、いいだろう。
 桜に一瞬視線をやり、普段より重く感じる口を無理やり開く。

「兄様、シュメルク様。私達の言ったことは、普通なら到底信じられない荒唐無稽なものです。…それでも、信じていただけるでしょうか」 

「あぁ、当たり前だ」
「うん、勿論だよ」

 重なった異口同音の返答に、会話を聞いていて予想できていたとはいえ、かなりホッとした。無意識の内に身体に入っていた余分な力を安堵の息と共に抜く。

 隣を見やると、桜も似たようなことをしていた。
 同じタイミングでこちらを見てきた桜と顔を見合わせて、フッと微笑をもらす。その微笑は、それこそ年齢と幼い顔立ちに不釣り合いな大人びたものだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。 水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。 と、思っていたらなんか可笑しいぞ? なんか視線の先には、男性ばかり。 そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。 人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。 料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。 お、美味しいご飯が食べたい…! え、そんなことより、恋でもして子ども産め? うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...