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第103話 (書記side)
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〘書記side〙
鬼ごっこが始まった。
どうやら生徒会のみんなは鬼だと最初から決まってたみたいで、おれは生徒達がくじを引くのを近くで見ているだけだった。
そんな重要なこと、普通だったら前もって知ってたはずだけど、あの子が来てからあんまり仕事をしてないから知らなかった。
パソコンでできる日常業務分はしてたけど、それ以外の多分1番大変なやつは全部真琴に押しつけてた。
だからかな、久しぶりに外で見た真琴はいつもとなにか違った。なにがって言われたら分からないけど、でも、違うのは分かった。
あの子から、悲しいとか嫌だとか、そんな嫌なものを感じたから気になって、学園内ではずっと近くにいた。嬉しい気持ちにさせたくて、おれなりに色々してみたけど、よけいに嫌なものが増えてた。
だから、おれがいたらだめなんだって思った。
ほんとは今日、真琴にいっぱいごめんなさいして、押しつけてた分だけたくさん仕事をしようって決意してた。
でも、おれは臆病で卑怯だから。
真琴から「もういらない」って言われるのが怖くて、少し前の夕方に見せたあの目で見つめられるのが怖くて。
勇気を出して舞台裏で話しかけたけど、結局言わなきゃいけないことの1ミリも言葉にできなかった。もしかしたら、あれが「いいよ」って言ってくれる、最後のチャンスだったかもしれないのに。
怖くて、おれはまた逃げた。
鬼ごっこが始まって少しだけ時間が過ぎたころ、あの不思議な放送部部長さんの声が学園内に響いた。
それによると、どうやらルールが変わるらしい。
追いかけられるだけだった子達が、おれ達生徒会を捕まえることができるようになるみたいだ。あと、鬼の人達はたくさん逃げる子達を捕まえられるようにもなるみたい。
聞いてた始めは「そうなのかぁ」って、のんびり思ってたけど、それじゃだめだってハッとした。
だって、ルールが変わるってことは、少しでも生徒達が混乱してしまうってことだ。
それはつまり、その混乱に乗じて、風紀委員長さんが怒っちゃうような、とっても悪いことをしようとする悪い人がたくさん出てくるってことでもある。
おれが気づいたんだから、会長と副会長と真琴と楓と奏も早くそのことに気づいたに違いない。もちろん、風紀委員会の人達も。
悲しくなる子が出ないように、おれも何かした方がいいよね。
…でも、おれなんかに一体何ができる?
おれには会長みたいなリーダーシップ力なんてないし、副会長みたいに悪い人の裏をかくことなんてできない。
真琴みたいに色々考えることもできないし、楓や奏みたいに悲しくなったみんなを楽しくすることもできない。
風紀委員長さんみたいに悪い人を校則に則って裁くことも、長月副委員長さんみたいに尋問をすることもできない。
一方おれなんてただ、他の人よりも少し力が強いだけ。
それ以外は全部だめだめだ。心の中では雄弁なのに声に出したら全然話せないし、動くのもみんなよりゆっくりしてるノロマだ。
そう言ったら多分、優しいみんなに「そんなことない」なんて言わせてしまうのだろうけど。
…そうだ、いつだったか真琴が言ってた。
「慶は癒しだよぉ~!」って。
それならおれは、悪いことしたくならないように、生徒達みんなを癒そう。どうすれば癒しができるのかはよく分からないけどひとまず、人がたくさんいそうな場所に行ってみよう。耳はむだにいいから、いつもは避けるうるさい方向に向かえば大丈夫。
あとは、おれの親衛隊隊長にメールしよう。
まず先にごめんなさいって書いて、みんなに協力してほしいってお願いするんだ。強い人は、弱い子達に付いて守ってって。鬼の人は鬼の子に、逃げる人は逃げる子に。
そう思って、建物の影で隊長に送るメールを書き始めて10分ぐらい経ったとき、最近ずっと見てた特徴的な髪形が視界の端に映った。
始めは怖い感じの子と一緒にいたのに、逃げてるうちにはぐれたのかな?いつもは誰かといるハルがたった1人で歩いていた。
なんとなく息を潜めて見てると、どうやらハルはあんまり人のいない旧体育館倉庫の方を目指してるみたいだった。
どうしよう、あっちは危ない場所だ。
声をかけるか迷っている間に、ハルの小さい背中はどんどん遠くなっていく。更に“どうしよう”と意味もなく慌てていると、固く握った右手に、とてもぐしゃぐしゃになってる紙切れがあるのが見えた。
こういうのって野生の勘って言うのかな。
なんとなくだけど、とっても嫌な予感がする。
書き途中のメールを放置して、バレないようにこっそりとハルの後ろをついて行く。
全部無事に終わったら、頑張ったねっていっぱい褒めてほしいな。
たどり着いた旧体育館倉庫裏で、ハルがおれぐらい大きな人達と、楓と奏より小さい子達に二重で囲まれてるのを見つけたとき、ふとそんなことを思った。
鬼ごっこが始まった。
どうやら生徒会のみんなは鬼だと最初から決まってたみたいで、おれは生徒達がくじを引くのを近くで見ているだけだった。
そんな重要なこと、普通だったら前もって知ってたはずだけど、あの子が来てからあんまり仕事をしてないから知らなかった。
パソコンでできる日常業務分はしてたけど、それ以外の多分1番大変なやつは全部真琴に押しつけてた。
だからかな、久しぶりに外で見た真琴はいつもとなにか違った。なにがって言われたら分からないけど、でも、違うのは分かった。
あの子から、悲しいとか嫌だとか、そんな嫌なものを感じたから気になって、学園内ではずっと近くにいた。嬉しい気持ちにさせたくて、おれなりに色々してみたけど、よけいに嫌なものが増えてた。
だから、おれがいたらだめなんだって思った。
ほんとは今日、真琴にいっぱいごめんなさいして、押しつけてた分だけたくさん仕事をしようって決意してた。
でも、おれは臆病で卑怯だから。
真琴から「もういらない」って言われるのが怖くて、少し前の夕方に見せたあの目で見つめられるのが怖くて。
勇気を出して舞台裏で話しかけたけど、結局言わなきゃいけないことの1ミリも言葉にできなかった。もしかしたら、あれが「いいよ」って言ってくれる、最後のチャンスだったかもしれないのに。
怖くて、おれはまた逃げた。
鬼ごっこが始まって少しだけ時間が過ぎたころ、あの不思議な放送部部長さんの声が学園内に響いた。
それによると、どうやらルールが変わるらしい。
追いかけられるだけだった子達が、おれ達生徒会を捕まえることができるようになるみたいだ。あと、鬼の人達はたくさん逃げる子達を捕まえられるようにもなるみたい。
聞いてた始めは「そうなのかぁ」って、のんびり思ってたけど、それじゃだめだってハッとした。
だって、ルールが変わるってことは、少しでも生徒達が混乱してしまうってことだ。
それはつまり、その混乱に乗じて、風紀委員長さんが怒っちゃうような、とっても悪いことをしようとする悪い人がたくさん出てくるってことでもある。
おれが気づいたんだから、会長と副会長と真琴と楓と奏も早くそのことに気づいたに違いない。もちろん、風紀委員会の人達も。
悲しくなる子が出ないように、おれも何かした方がいいよね。
…でも、おれなんかに一体何ができる?
おれには会長みたいなリーダーシップ力なんてないし、副会長みたいに悪い人の裏をかくことなんてできない。
真琴みたいに色々考えることもできないし、楓や奏みたいに悲しくなったみんなを楽しくすることもできない。
風紀委員長さんみたいに悪い人を校則に則って裁くことも、長月副委員長さんみたいに尋問をすることもできない。
一方おれなんてただ、他の人よりも少し力が強いだけ。
それ以外は全部だめだめだ。心の中では雄弁なのに声に出したら全然話せないし、動くのもみんなよりゆっくりしてるノロマだ。
そう言ったら多分、優しいみんなに「そんなことない」なんて言わせてしまうのだろうけど。
…そうだ、いつだったか真琴が言ってた。
「慶は癒しだよぉ~!」って。
それならおれは、悪いことしたくならないように、生徒達みんなを癒そう。どうすれば癒しができるのかはよく分からないけどひとまず、人がたくさんいそうな場所に行ってみよう。耳はむだにいいから、いつもは避けるうるさい方向に向かえば大丈夫。
あとは、おれの親衛隊隊長にメールしよう。
まず先にごめんなさいって書いて、みんなに協力してほしいってお願いするんだ。強い人は、弱い子達に付いて守ってって。鬼の人は鬼の子に、逃げる人は逃げる子に。
そう思って、建物の影で隊長に送るメールを書き始めて10分ぐらい経ったとき、最近ずっと見てた特徴的な髪形が視界の端に映った。
始めは怖い感じの子と一緒にいたのに、逃げてるうちにはぐれたのかな?いつもは誰かといるハルがたった1人で歩いていた。
なんとなく息を潜めて見てると、どうやらハルはあんまり人のいない旧体育館倉庫の方を目指してるみたいだった。
どうしよう、あっちは危ない場所だ。
声をかけるか迷っている間に、ハルの小さい背中はどんどん遠くなっていく。更に“どうしよう”と意味もなく慌てていると、固く握った右手に、とてもぐしゃぐしゃになってる紙切れがあるのが見えた。
こういうのって野生の勘って言うのかな。
なんとなくだけど、とっても嫌な予感がする。
書き途中のメールを放置して、バレないようにこっそりとハルの後ろをついて行く。
全部無事に終わったら、頑張ったねっていっぱい褒めてほしいな。
たどり着いた旧体育館倉庫裏で、ハルがおれぐらい大きな人達と、楓と奏より小さい子達に二重で囲まれてるのを見つけたとき、ふとそんなことを思った。
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