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第102話
しおりを挟むポケットに入れていたスマホを取り出し、先程考えた案を風紀委員長と生徒会顧問、放送部部長と新聞部部長にメールで一斉送信する。
もちろん新聞部部長宛のには、この案を受け入れた場合に与える報酬についても加えた。
「…さぁて、彼らが納得してくれるとい~けど……ど~かなぁ」
歩きながらスマホをポケットに仕舞い、何となく空を見上げる。それはいつかの日に見たのと似たような、忌々しい程の快晴だった。
だからこれ以上見ていたくなくて、その清々しいまでの青からそっと視線を逸らした。
──────────────
ザクザクと音をたて、狩るだけで済んだ頃と同じような感じで、これまた無駄に広い中庭を進む。目指すは人が多いであろう一般校舎とその周辺だ。
今のところ驚く程に自分以外の人と遭遇していないため、本当に全学年で鬼ごっこをしているのか疑問に思えてくる。
その上、あの放送前までは耳に入ってきていた生徒達の賑やかな声すらも聞こえなくなっている。ただ、鳥の鳴き声や風の吹く音、自分のたてる足音がするだけだ。
「(…いくらこの学園が広大だとしても、見回りの風紀員でさえも見当たらないだなんて……明らかにおかしい。もしかして、何かが起こった…?それも、全員が持ち場を離れなくてはいけなくなる程のことが)」
ただの杞憂だったら良いと、そう考えながら少しだけ歩く足の回転を早める。
先程仕舞ったスマホを再び取り出してメールの既読確認をするが、風紀委員長に宛てたものには付いていなかった。
他の人間に宛てたものも、既読は付いているが返信は無い状態で、意味も無く焦ってしまう。
あの人選ならばそれが通常だと、普段ならそう分かってるのでたったコレだけのことで心配する事などない。
しかし、今は──
「(いっそのこと、監視カメラを全てハッキングしてしまおうか)」
手中の電子機器を見下ろしながら、そんなことを思ってしまう程に冷静さを欠けていた。
だから、平常と変わらぬその人の姿を目にした瞬間、いつの間にか肩に入っていたらしい力が一気に抜ける感覚がした。
それと同時に一瞬だけ目の前がブラックアウトした気がしたが…、すぐ視界は正常に戻ったし、まぁ大丈夫だろう。
驚かせる為に足を忍ばせ、しかし気配はそのままで、狩り対象でも、同種の人間でもない黒髪のその人の元へと勢いよく駆ける。
あと少しで手が届くというぐらいまで近づいた頃、「わぁっ!」と背後から思いっきり声をかけた。
「…水無月か、丁度良い時に来た。先程の放送された内容の件で少し、話し合いたい事がある」
「やっぱこれぐらいじゃぁ委員長は驚かないかぁ~…まぁいいけど~。で、ルール変更についてだよねぇ?俺もその話詰めたくてさぁ、委員長にメールしたんだけど~……その様子じゃあ気付いてなかったっぽいねぇ」
「そうだったのか…すまない、気が付かなかった」
僅かに驚いたような表情をした後、申し訳無さそうに少し眉を下げる。
その様子がらしいなと思いながら、何故か自分の意思に反してダラシなく緩みそうになる頬を意識して上げた。
その上から、にへらッとした対委員長用の軽薄な笑みを貼り付ける。
「そんな気にしなくてい~のに」
「だが……いや、これ以上の謝罪は不快にさせるだけだな。それに時間の無駄か。……話をするのにこの場は不向きだろう。水無月、一旦場所を変えてからにしよう、着いてきてくれ」
「ラジャぁ~!」
ゆるく巫山戯た敬礼ポーズをとった俺を見て柔らかく眦を下げた後、委員長の視線の先にある道を歩き出した。
ということはおそらく、今から向かう目的地は、当初俺が行こうと画策していたあの場所なのだろう。
あの場所の存在を知っている人の数は少ないし、ルールに反さず静かに話し合うのには最適だ。
だが、僅かの時間とはいえ委員長が見回りから抜ける事による影響は大きいはず。大丈夫だろうか。
恐らく当の本人は無意識であろう表情を一瞬でも向けられた事により、軽く混乱した頭でそんなことを思いながら彼の後ろをついて行った。
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