孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ

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第99話

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『─“飼い主”の人たち準備はできてるー!?じゃ、いっくよーッ!スタートまで5秒前ー、4、3、2ぃー、1…ゼロー!!!!さあ恐怖の鬼ごっこの始まりだぁぁあ!!!!』

「「「うぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!!」」」

「「腐ォッチングしてやんよー!!」」

「「「いぇぇぇぇぇぇええいっ!!!」」」

「絶対捕まえてやるーッ!!!」


 あれから更に5分後、放送部部長の合図をもとに、逃げ出した“動物”を捕まえるべく“飼い主”が学園内中に放出された。

 “飼い主”の群れガチ勢共の先頭を走るのは、勿論我らが生徒会長サマである。彼が腕を振るたび、右手首に嵌まった金色の腕輪が陽の光を反射し、腰に着けた同色の首輪が金属音をたてて揺れる。 

 捕まえたい“動物”がいるのか、紅色の瞳は一途に前だけを見据えおり、獲物を定めた気高い獣を連想させた。口元はニヤリとした不敵な笑みを描き、この狩りの瞬間を心の底から愉しんでいる事が窺える。


 
 それらの後ろから行くのが残りの“飼い主”達やる気ゼロ集団だ。因みに俺はこの集団の比較的後方にいる。

 チャラ男会計キャラ的にも、俺的にも何かにガッツくとか、一途に熱心に取り組むとかはしょうに合わない。
 そのため、時に目があった子達に軽く手を振ったりファンサをしたり、腰から下げた赤色の首輪を弄ったりしながら、のんびり気ままに歩いていた。


「(今から2時間30分か…。無駄に体力使いたくないし…最初のうちは適当に歩いて、後はあの場所で過ごすか)」

 出遅れたのか、後方から凄い形相で走り去っていく生徒を何名か見送りつつ、再び混雑している会場の出入口…ではなく、緑で溢れている森の中を通る方の脇にある細い抜け道を目指す。



〘主人格サマさァ、めっちゃ疲れてんじゃん。ボクが代わったげよっか?〙 
 
 唐突に、基本内側に銀蝶の声がした。
 コイツが出てくるってことはつまり、現在の俺は相当疲労が溜まっているのだろう。だがまぁ─


「(必要無い。もしお前に代わったところで、この体に蓄積された疲労は変わらない。やるだけ無駄だ)」


 無事集団の流れからはぐれ、周囲は鮮やかな緑で溢れてきた。木々の葉の隙間からは眩しい程の光が射し込む。

 それに目を細めながら、一先ひとまずあの場所からも近い特別校舎周辺を目指して足を進めた。侵入禁止なのはあくまで特別校舎なので、その周辺は全く問題無いのだ。まぁ、これはかなりルールすれすれ過ぎる抜け穴なのだが。

 そう改めてわざと作ったルールの抜け穴を確認しながら、脳裏に現在地と此処から目的地までの道筋を思い浮かべる。


〘そーいうことじゃないんだけどォー…ま、いいか。気付かないふりしてる主人格サマにボクからチューコクしたげる〙

 〘ボクってやっさしィー!〙と、変なテンションで自画自賛したのち、まるで耳元で言っているかのようにそっと呟く。

〘限界を見間違えないよーにねェ。いつか壊れちゃっテも知らないカラ〙

「(は?限界って何だよ。それに、壊れるって一体何が……。おい銀蝶…!って、チッ、もう隠れた沈んだか)」 

 肝心の事は言わないで消える銀蝶に内心舌打ちを零し、これ以上気にしても仕方無いと思考を分散させた。


 
 一般校舎のある方角から、賑やかな音地響きのような足音愉しそうな声“飼い主”に追い詰められた“動物”の悲鳴が風に乗って聞こえてくる。

 それをBGMに、何事も無く終わればいいとらしくなく願った。



 
 
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