105 / 118
第94話 (no side)
しおりを挟む
〘no side〙
コツ、コツッ
決して大きくはない床を叩く硬質な音が舞台上に響く。
その音で、騒がしかった会場が一瞬にして静まり返った。普段ならば黄色い悲鳴を上げるであろう子達も口を閉ざし、ただじっと最後に現れた人物を見上げるのみ。
当の人物は、己が現れた途端に静まり返った事に対して緊張するでもなく、通常通りの彼で振る舞っていた。
歩く度に首上で結ばれた金が微かに揺れ、上がった口角は彼の人がチャラ男と言われる所以でもある軽薄な笑みを描く。
僅かに伏せられていた瞼が持ち上がり、はっきりとした生気の宿る茶色の瞳が真っ直ぐと彼の仲間達を見据えた。
彼が口を開く。
その途端、弦のようにピンッと張られていた空気が緩み、先程までの静寂が嘘だったかように黄色い大きな悲鳴が会場を包み込んだ。
己の声が遮られた事に怒るでもなく、沸き上がる生徒達に向かって笑顔で軽く手を振る。それによって会場はより盛り上がり、その様はまるでアイドルのライブ会場のよう。
それほど、その場の空気が彼によって掌握されていた。
「はぁ~い、みんな静かしてねぇ。今から新歓始めるよ~」
「いいコだからシー…、ね?」と、人差し指を唇に当てて、おちゃらけたようにウィンクをする。
次の瞬間には、よく訓練された何処ぞの軍隊のように、皆一斉に開いていた口を噤んだ。
「うんうん、言った通りちゃぁんと黙って、みんないいコだねぇ~。…それじゃ、副会長あとお願いね~?」
ひらひらと軽く片手を振り、司会を務める副会長と入れ替えで他の役員達のいる場所へとマイペースに向かう。
その姿すら今は様になっており、全体の何割かの生徒は頬を赤らめて目線で彼を追った。
舞台の中央に副会長が行き着くと、散っていた視線が全てその人へと集まる。流石に慣れているのか、自身へ集まる視線をもろともせず、完璧ではない笑みを貼り付けながら淡々と言葉を紡ぎ出す。
「ただ今より、令和◯年度、私立華織学園、第23回、生徒会主催の新入生歓迎会を開催致します。本日の司会進行は生徒会副会長である私、相模零斗が務めさせていただきます。皆さん、クジは引かれましたでしょうか?クジを引いた後、耳と尻尾、又は首輪と腕輪のどちらかを配られたかと思います。ご察しの方がいらっしゃるでしょうが、今回の新入生歓迎会では鬼ごっこを行います。詳しい説明は庶務の永瀬兄弟、お願いします」
一度も噛まずに言い切った副会長は、僅かに安堵のため息を落とした後、手に持っていたマイクを双子に受け渡した。
生徒会の声が途切れたその間に、舞台下から「王道ktkr!!」という小さい叫び声が何箇所かで発生した。その声に混じって「まさかのSM展開hshs」と変態じみた鳴き声も聞こえる。
後半の鳴き声が残念(笑)のものだなんて事実は知らないし、その近くに居た2人が他人の振りをしただなんてことも知らない。
「僕は永瀬楓ー!」
「僕は永瀬奏ー!」
「「これから僕達が詳しいルールを説明するねー!!」」
「ちゃーんと聞いててねー?」
「後悔しても知らないよー?」
きゃらきゃらと笑いながら、1つのマイクで言っていく。前にも増して仲睦まじいその姿に癒されたのか、頬を緩める者が多数いた。
「副会ちょーの言った通り、今回するのは鬼ごっこだよー!」
「みんなには“動物”と“飼い主”に分かれてもらうねー!」
「「“動物”の人はいわゆる“逃げ”の方!!」」
「着けた尻尾が取られたら捕まったことになるからねー!」
「でも尻尾を取られない限りずっと逃げられるよー!」
「「“飼い主”の人はいわゆる“鬼”の方!!」」
「“動物”の人の尻尾を抜き取ったら捕獲したことになるよー!」
「捕獲した“動物”には所有物の印となる首輪を着けてねー!」
「「ペアが出来たら講堂に戻って来ること!あ、因みに首輪と腕輪の色は“飼い主”によって違うから、ズルは出来ないよー!!」」
その言葉を契機に“飼い主”側の生徒達が、互いの持っている首輪と腕輪を照らし合わせて色の違いを確かめ始める。
“動物”側となった生徒達は、己に配られた耳と尻尾の形状から、一体何の動物が充てられたのかを推測し出した。
「腕輪は僕達の持ってるこの鍵がないと取れないからねー!」
「新歓が終わってから取り外すから、そのまま帰らないように!」
「「鬼ごっこの舞台になるのはこの学園全体だよー!」」
「「ただし!!」」
「鍵がかかる教室とか保健室に隠れたらダメだからねー!」
「寮棟と特別校舎は入った瞬間に失格になるよー!」
「「僕達からの説明はいじょーです!!」」
ニコッと同じように笑ってからマイクを副会長に手渡した双子は、2人仲良く手を繋ぎながら、スキップをして元の場所に戻った。
コツ、コツッ
決して大きくはない床を叩く硬質な音が舞台上に響く。
その音で、騒がしかった会場が一瞬にして静まり返った。普段ならば黄色い悲鳴を上げるであろう子達も口を閉ざし、ただじっと最後に現れた人物を見上げるのみ。
当の人物は、己が現れた途端に静まり返った事に対して緊張するでもなく、通常通りの彼で振る舞っていた。
歩く度に首上で結ばれた金が微かに揺れ、上がった口角は彼の人がチャラ男と言われる所以でもある軽薄な笑みを描く。
僅かに伏せられていた瞼が持ち上がり、はっきりとした生気の宿る茶色の瞳が真っ直ぐと彼の仲間達を見据えた。
彼が口を開く。
その途端、弦のようにピンッと張られていた空気が緩み、先程までの静寂が嘘だったかように黄色い大きな悲鳴が会場を包み込んだ。
己の声が遮られた事に怒るでもなく、沸き上がる生徒達に向かって笑顔で軽く手を振る。それによって会場はより盛り上がり、その様はまるでアイドルのライブ会場のよう。
それほど、その場の空気が彼によって掌握されていた。
「はぁ~い、みんな静かしてねぇ。今から新歓始めるよ~」
「いいコだからシー…、ね?」と、人差し指を唇に当てて、おちゃらけたようにウィンクをする。
次の瞬間には、よく訓練された何処ぞの軍隊のように、皆一斉に開いていた口を噤んだ。
「うんうん、言った通りちゃぁんと黙って、みんないいコだねぇ~。…それじゃ、副会長あとお願いね~?」
ひらひらと軽く片手を振り、司会を務める副会長と入れ替えで他の役員達のいる場所へとマイペースに向かう。
その姿すら今は様になっており、全体の何割かの生徒は頬を赤らめて目線で彼を追った。
舞台の中央に副会長が行き着くと、散っていた視線が全てその人へと集まる。流石に慣れているのか、自身へ集まる視線をもろともせず、完璧ではない笑みを貼り付けながら淡々と言葉を紡ぎ出す。
「ただ今より、令和◯年度、私立華織学園、第23回、生徒会主催の新入生歓迎会を開催致します。本日の司会進行は生徒会副会長である私、相模零斗が務めさせていただきます。皆さん、クジは引かれましたでしょうか?クジを引いた後、耳と尻尾、又は首輪と腕輪のどちらかを配られたかと思います。ご察しの方がいらっしゃるでしょうが、今回の新入生歓迎会では鬼ごっこを行います。詳しい説明は庶務の永瀬兄弟、お願いします」
一度も噛まずに言い切った副会長は、僅かに安堵のため息を落とした後、手に持っていたマイクを双子に受け渡した。
生徒会の声が途切れたその間に、舞台下から「王道ktkr!!」という小さい叫び声が何箇所かで発生した。その声に混じって「まさかのSM展開hshs」と変態じみた鳴き声も聞こえる。
後半の鳴き声が残念(笑)のものだなんて事実は知らないし、その近くに居た2人が他人の振りをしただなんてことも知らない。
「僕は永瀬楓ー!」
「僕は永瀬奏ー!」
「「これから僕達が詳しいルールを説明するねー!!」」
「ちゃーんと聞いててねー?」
「後悔しても知らないよー?」
きゃらきゃらと笑いながら、1つのマイクで言っていく。前にも増して仲睦まじいその姿に癒されたのか、頬を緩める者が多数いた。
「副会ちょーの言った通り、今回するのは鬼ごっこだよー!」
「みんなには“動物”と“飼い主”に分かれてもらうねー!」
「「“動物”の人はいわゆる“逃げ”の方!!」」
「着けた尻尾が取られたら捕まったことになるからねー!」
「でも尻尾を取られない限りずっと逃げられるよー!」
「「“飼い主”の人はいわゆる“鬼”の方!!」」
「“動物”の人の尻尾を抜き取ったら捕獲したことになるよー!」
「捕獲した“動物”には所有物の印となる首輪を着けてねー!」
「「ペアが出来たら講堂に戻って来ること!あ、因みに首輪と腕輪の色は“飼い主”によって違うから、ズルは出来ないよー!!」」
その言葉を契機に“飼い主”側の生徒達が、互いの持っている首輪と腕輪を照らし合わせて色の違いを確かめ始める。
“動物”側となった生徒達は、己に配られた耳と尻尾の形状から、一体何の動物が充てられたのかを推測し出した。
「腕輪は僕達の持ってるこの鍵がないと取れないからねー!」
「新歓が終わってから取り外すから、そのまま帰らないように!」
「「鬼ごっこの舞台になるのはこの学園全体だよー!」」
「「ただし!!」」
「鍵がかかる教室とか保健室に隠れたらダメだからねー!」
「寮棟と特別校舎は入った瞬間に失格になるよー!」
「「僕達からの説明はいじょーです!!」」
ニコッと同じように笑ってからマイクを副会長に手渡した双子は、2人仲良く手を繋ぎながら、スキップをして元の場所に戻った。
94
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
もういいや
senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる