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第94話 (no side)

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〘no side〙


 コツ、コツッ

 決して大きくはない床を叩く硬質な音が舞台上に響く。

 
 その音で、騒がしかった会場が一瞬にして静まり返った。普段ならば黄色い悲鳴を上げるであろう子達も口を閉ざし、ただじっと最後に現れた人物を見上げるのみ。

 当の人物は、己が現れた途端に静まり返った事に対して緊張するでもなく、通常通りの彼で振る舞っていた。

 歩く度に首上で結ばれた金が微かに揺れ、上がった口角はひとがチャラ男と言われる所以ゆえんでもある軽薄な笑みをえがく。
 僅かに伏せられていた瞼が持ち上がり、はっきりとした生気の宿る茶色の瞳が真っ直ぐと彼の仲間達を見据えた。


 彼が口を開く。

 
 その途端、弦のようにピンッと張られていた空気が緩み、先程までの静寂が嘘だったかように黄色い大きな悲鳴が会場を包み込んだ。

 己の声が遮られた事に怒るでもなく、沸き上がる生徒達に向かって笑顔で軽く手を振る。それによって会場はより盛り上がり、その様はまるでアイドルのライブ会場のよう。

 それほど、その場の空気が彼によって掌握されていた。


「はぁ~い、みんな静かしてねぇ。今から新歓始めるよ~」

 「いいコだからシー…、ね?」と、人差し指を唇に当てて、おちゃらけたようにウィンクをする。
 次の瞬間には、よく訓練された何処どこぞの軍隊のように、皆一斉に開いていた口をつぐんだ。
 
「うんうん、言った通りちゃぁんと黙って、みんないいコだねぇ~。…それじゃ、副会長あとお願いね~?」

 ひらひらと軽く片手を振り、司会を務める副会長と入れ替えで他の役員達のいる場所へとマイペースに向かう。
 その姿すら今は様になっており、全体の何割かの生徒は頬を赤らめて目線で彼を追った。
 
 
 舞台の中央に副会長が行き着くと、散っていた視線が全てその人へと集まる。流石に慣れているのか、自身へ集まる視線をもろともせず、完璧ではない笑みを貼り付けながら淡々と言葉を紡ぎ出す。

「ただ今より、令和◯年度、私立華織学園、第23回、生徒会主催の新入生歓迎会を開催致します。本日の司会進行は生徒会副会長である私、相模零斗が務めさせていただきます。皆さん、クジは引かれましたでしょうか?クジを引いた後、耳と尻尾、又は首輪と腕輪のどちらかを配られたかと思います。ご察しの方がいらっしゃるでしょうが、今回の新入生歓迎会では鬼ごっこを行います。詳しい説明は庶務の永瀬兄弟、お願いします」

 一度も噛まずに言い切った副会長は、僅かに安堵のため息を落とした後、手に持っていたマイクを双子に受け渡した。

 生徒会の声が途切れたその間に、舞台下から「王道ktkr!!」という小さい叫び声が何箇所かで発生した。その声に混じって「まさかのSM展開hshs」と変態じみた鳴き声も聞こえる。

 後半の鳴き声が残念(笑)のものだなんて事実は知らないし、その近くに居た2人が他人の振りをしただなんてことも知らない。


「僕は永瀬楓ー!」

「僕は永瀬奏ー!」

「「これから僕達が詳しいルールを説明するねー!!」」

「ちゃーんと聞いててねー?」

「後悔しても知らないよー?」

 きゃらきゃらと笑いながら、1つのマイクで言っていく。前にも増して仲睦まじいその姿に癒されたのか、頬を緩める者が多数いた。

「副会ちょーの言った通り、今回するのは鬼ごっこだよー!」

「みんなには“動物”と“飼い主”に分かれてもらうねー!」

「「“動物”の人はいわゆる“逃げ”の方!!」」

「着けた尻尾が取られたら捕まったことになるからねー!」

「でも尻尾を取られない限りずっと逃げられるよー!」

「「“飼い主”の人はいわゆる“鬼”の方!!」」

「“動物”の人の尻尾を抜き取ったら捕獲したことになるよー!」

「捕獲した“動物”には所有物の印となる首輪を着けてねー!」

「「ペアが出来たら講堂ここに戻って来ること!あ、因みに首輪と腕輪の色は“飼い主”によって違うから、ズルは出来ないよー!!」」

 その言葉を契機に“飼い主”側の生徒達が、互いの持っている首輪と腕輪を照らし合わせて色の違いを確かめ始める。

 “動物”側となった生徒達は、己に配られた耳と尻尾の形状から、一体何の動物がてられたのかを推測し出した。

「腕輪は僕達の持ってるこの鍵がないと取れないからねー!」

「新歓が終わってから取り外すから、そのまま帰らないように!」

「「鬼ごっこの舞台になるのはこの学園全体だよー!」」

「「ただし!!」」

「鍵がかかる教室とか保健室に隠れたらダメだからねー!」

「寮棟と特別校舎は入った瞬間に失格になるよー!」

「「僕達からの説明はいじょーです!!」」


 ニコッと同じように笑ってからマイクを副会長に手渡した双子は、2人仲良く手を繋ぎながら、スキップをして元の場所に戻った。






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