上 下
104 / 118

第93話

しおりを挟む


「いやぁそのですねー……ぁ、やめてこっち見な…ギャァァァァアア!!!」


 どこからともなく、そんな悲鳴が聞こえてきた。

 幕の隙間から外を覗くと、ロイヤル3人組と呼ばれているうちの1人である福野時雨と、その目の前に立つ双子の姿があった。

 どうやら悲鳴の発生源は彼だったらしい。
 普段生徒達から“王子様”なんて言われている彼もあんな声を出すんだな…と呑気に考える。 



 あの後、双子と書記は新歓を行う上での最後の仕上げをしに表へ行った。会長と副会長は教師達と表で流れを確認しており、傍からすれば俺だけが仕事をしていないように見える。


 そう見えることぐらい、俺だって分かっている。


 だが、ここ最近無理をし過ぎたのか貧血気味で、歩く度に若干フラつく気がするし、頭もかなり重く感じる。この状態でずっと表に出るなんて、“俺倒れますね”と言っているのと同義だ。

 正直自分がブッ壊れる事に抵抗はないが、人前で意識を失うなどという醜態は犯したくないし、他人に自分の不調を悟られたくない。

 だって弱みを見せてしまえば最後、この世界では生きていけないのだから。搾取されるだけのモノに再び成り下がるなんて御免だ。


 そのため今は、あまり動かなくて良い裏方に徹している。
 表より肉体労働はないがその分面倒なものばかりで、しかも仕事量がえげつない。まぁ、最近の生徒会事情のおかげで慣れたものだが。

 


 …あ、そろそろ時間だ。

 舞台上には既に俺以外の生徒会役員の姿があった。
 つい先程まで福野クンに構っていた双子もいつの間にかその場におり、書記と副会長に絡みに行っている。

 何かおかしなことでもあったのか、僅かに不貞腐れたような会長を囲った他の役員達がクスクスと笑みをこぼす。そうして、それを見ていた会長も微かに笑った。

 目撃したらしい生徒達の黄色い悲鳴が上がる。会計がその場に居ない事に対して、疑問を抱くような者は誰もいない。


 本当、こうして見ると俺の居場所なんてまるでないな。

 こっちから切り捨てた気になって、未だ依存している。そんな矛盾した自分の思考回路に嗤う。



「…よし、行くか」

 軽く頬を叩いて思考を切り替える。
 俺は水無月真琴、華織学園生徒会会計。



 ─だから、笑え。


 ─悟らせるな、演じろ。


 ─喜劇の道化師ピエロとなれ。




 思いっきり幕を開け、舞台上に足を踏み出した。

 波乱の新入生歓迎会が、始まる。





しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

もういいや

senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

最弱伝説俺

京香
BL
 元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!  有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

処理中です...