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第93話
しおりを挟む「いやぁそのですねー……ぁ、やめてこっち見な…ギャァァァァアア!!!」
どこからともなく、そんな悲鳴が聞こえてきた。
幕の隙間から外を覗くと、ロイヤル3人組と呼ばれているうちの1人である福野時雨と、その目の前に立つ双子の姿があった。
どうやら悲鳴の発生源は彼だったらしい。
普段生徒達から“王子様”なんて言われている彼もあんな声を出すんだな…と呑気に考える。
あの後、双子と書記は新歓を行う上での最後の仕上げをしに表へ行った。会長と副会長は教師達と表で流れを確認しており、傍からすれば俺だけが仕事をしていないように見える。
そう見えることぐらい、俺だって分かっている。
だが、ここ最近無理をし過ぎたのか貧血気味で、歩く度に若干フラつく気がするし、頭もかなり重く感じる。この状態でずっと表に出るなんて、“俺倒れますね”と言っているのと同義だ。
正直自分がブッ壊れる事に抵抗はないが、人前で意識を失うなどという醜態は犯したくないし、他人に自分の不調を悟られたくない。
だって弱みを見せてしまえば最後、この世界では生きていけないのだから。搾取されるだけのモノに再び成り下がるなんて御免だ。
そのため今は、あまり動かなくて良い裏方に徹している。
表より肉体労働はないがその分面倒なものばかりで、しかも仕事量がえげつない。まぁ、最近の生徒会事情のおかげで慣れたものだが。
…あ、そろそろ時間だ。
舞台上には既に俺以外の生徒会役員の姿があった。
つい先程まで福野クンに構っていた双子もいつの間にかその場におり、書記と副会長に絡みに行っている。
何かおかしなことでもあったのか、僅かに不貞腐れたような会長を囲った他の役員達がクスクスと笑みをこぼす。そうして、それを見ていた会長も微かに笑った。
目撃したらしい生徒達の黄色い悲鳴が上がる。会計がその場に居ない事に対して、疑問を抱くような者は誰もいない。
本当、こうして見ると俺の居場所なんてまるでないな。
こっちから切り捨てた気になって、未だ依存している。そんな矛盾した自分の思考回路に嗤う。
「…よし、行くか」
軽く頬を叩いて思考を切り替える。
俺は水無月真琴、華織学園生徒会会計。
─だから、笑え。
─悟らせるな、演じろ。
─喜劇の道化師となれ。
思いっきり幕を開け、舞台上に足を踏み出した。
波乱の新入生歓迎会が、始まる。
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