上 下
100 / 118

第89話

しおりを挟む

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。今回は相模が欠席なため、司会は生徒会会計水無月が務めさせて貰います。では早速、本題に入らせていただきます。今回の議題はs…」

 普段の間のびた口調を取っ払い、堅っ苦しい語調で会議の開始を告げる。流石に司会であの話し方はできない。せめてもの抵抗として、普段よりも薄っぺらい笑顔は浮かべたが。

「ふむ、神崎殿や花ヶ崎殿も居ないようであるが…」

 進行を遮った声の主は軽く握った白魚のような手を口元に寄せ、何かを考えるかのように僅かに瞼を伏せる。
 
 普通ならば進行が遮られることなど無いし、あったとしても誰かしらがその者を注意する。しかし、誰もそのことを咎めない辺り、彼と同じことを思っていたのだろう。

「会計殿、此れはどういう事であろうか?」

 まるで射貫くかのように、特徴的なマゼンタ色の瞳が俺へと向けられる。“心の底からの純粋な疑問です”とでも言いたげな視線を認め、表情は変えないまま内心嘲笑った。

 お前もコチラ側の人間だろうに、と。


「え~…俺に聞かれてもなぁ~…。会長と同じ学年の人の方が知ってそぉ~ですけどぉ…ねぇ、レオン先輩?」

 質問には質問で返し、皮肉には皮肉で対抗する。
 この人にはそれぐらいが丁度良い。

「言われてしまえばそうなのだがな。実はここ最近、神崎殿は前にも増して教室へやって来なくなったのであるよ」

 「不思議だなぁ?」と、態とらしく首を傾げる。それに付随して褐色かちいろの短髪が僅かに揺れた。  


「…灰塚はいづか、これ以上無駄な言い合いはやめろ。会議がいつまで経っても進まん」

「ふむ、神無月殿に言われてしまったのなら仕方あるまい…今はやめておくとしよう。会計殿、進めて良いぞ」 

 自分の不利を悟ったのか、それとも俺で遊べて満足したのか、レオン先輩保健委員長はアッサリと身を引いた。この人のことだから、まず間違えなく後者だろうが。

「偉そ~だなぁ…まっ、別にいいけどさ~。……ゴホンッ、え~っと、今回の議題は新入生歓迎会、今年度の予算案(仮)決定、部活動等についてです。始めに風紀委員会からお願いします」

 あまり1つの事にいつまでも執着してもチャラ男っぽくない。ということで、こちらも先程ほどまでのやり取りを気にする事なく司会の仕事を再開する。
 
 会話の矢印を風紀へぶん投げたので、一旦副会長の代理役司会者はお終い。今度は書記の代理役記録係に専念する。


「新歓当日の警備についてだが、が書類を届けに来なかったせいで、昨日さくじつにようやく完成した。そのため不備があるかもしれない。その場合は気兼ねなく指摘して欲しい。…では、こちらの資料の3ページを見てくれ──」

 “何処かの誰かさん”へ向けた嫌味をさらっと交えつつ、淡々とした声音で言葉を次々と紡いでゆく。所々で副委員長が注釈を加え、考え得る懸念事項を他の委員会の委員長又は副委員長が挙げると、それに対して委員長が対応策,解決策を回答する。

 対する俺はというと、ただ聞き役に徹し、分かり易いように重要な事柄や要点を纏めるものと、会議の流れを記すものとを分けて書き留めていった。


 


「…では、最終採決を取ります」

 1つ目の議題を終わらせる為そう告げ、各委員会の代表に発言をするよう促す。


「様々な懸念はあるが…それを挙げていては切りが無いからな。風紀は賛成に一票だ」

「ぼ、ぼく達も賛成に、ぃ、一票、です…」

「楽しいのが1番ッてのが、俺個人としての意見だな。っつうことで、まあ、体育側も賛成だ」

「………吾ら美化は中立を取らせてもらう」

「中央委員会も、中立を取らせて下さい」

「ふむ…面白いものが見れそうな事であるし、賛成しようか」

「賛成4、中立2…。あ、もちろん俺は賛成派だよ~」


 …まぁ、あくまで形としてこの方法を採用しているだけで、この採決に意味は無い。この会議で議題として出している時点で、その物事は既に決定したも同然のものだからだ。

 というより、完璧に整えたそういう事しか議題に出さない…と言った方が正しいかもしれない。
 
「それでは、今年度の新入生歓迎会は、この案で進めていきたいと思います。次の議題は──」


 

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

もういいや

senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...