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第88話
しおりを挟む会議室前で止まった足音は、扉の解錠音へと変わる。
どうやら待ち人のうちの2人が来たらしい。
「………ぁ、こんにちは…」
ぽそりと、小さい小さい声が聞こえてきた。
パッと扉の方へ視線をやると「ヒェ…」という小さい悲鳴がした。どうやら来訪者を驚かしてしまったらしい。
「クロ、声が小さい」
いつも言ってるだろう、と呆れた声音をした人物がその後ろから顔を出す。
「……だ、だって…!」
「はいはい、分かった分かった。…あぁ、先輩方こんにちは」
精一杯の抗議の声を慣れたように受け流し、律儀に語先後礼を実行する後輩に、こちらも慣れたように挨拶をし返す。
「やっほ~、桐乃クンに生瀬クン」
「桐乃に生瀬か。こんにちは、今代図書委員は早いな」
「こんにちは、お久しぶりですね」
「シ、シロ……や、やっぱり、この人達のビジュおかしすぎるよ……圧倒的美過ぎない…?」
“シロ”と呼ばれた生瀬クンは、自らの上着を片手で掴み、黒の瞳に不安気な(?)色を宿した桐乃クンを見下ろして、大きなため息をついた。
「クロ…頼むから変なことするなよ、マジで。俺が大変なんだよ…毎回毎回言い訳するの。…もうこの先輩方はクロの奇行に慣れてしまったからいいけど…いや本当は良くないけど」
この、中々にキャラの濃い後輩達の本名はそれぞれ、桐乃黒兎、生瀬珀人という。
桐乃クンは少し長めな黒髪を1つに結んでおり、どんぐりのような瞳も同じく純粋な黒。背は157cmとかなり低めで、かなり愛らしい顔をしている少年だ。しかし長い前髪によって顔の左側は覆われており、その奥は誰も見たことがない。
生瀬クンはうなじが隠れる程度のサラサラな灰髪で、猫を連想させる瞳はサファイアブルー。背は俺と同じ172cmで、王子様というより貴族のような雰囲気のある整った顔立ちをした少年だ。実際、彼を知る者からは貴公子と呼ばれている。
因みに、彼らは幼馴染という関係らしい。
「あははっ、別に気にしなくていいよ~。というかぁ、そういう君達もかなりの美形だよねぇ~」
「ヒェ…ア、か、顔がち、近い…!」
席から立って桐乃クンに近付いてみると、赤から青に、青から赤にと忙しなく顔色を変える。
「そぉ~お?俺としてはもぉっと近くてもいいんだけど~?」
そう言って笑いながら、ずいっと顔を彼のより目の前に近付ける。すると混じり気のない黒がじわじわと見開かれ……突然後ろに倒れた。
「っと…大丈夫か、クロ」
しかし、すかさず生瀬クンが受け止めたため、桐乃クンがそのまま床に衝突するのは回避された。
「全く…やり過ぎだ、水無月」
やれやれと、呆れた様子で委員長が軽く首を振る。
「あまり桐乃君をからかってはいけませんよ」
副委員長は僅かに苦笑して、やんわりと窘めてきた。
「ははっ、桐乃クンごめんねぇ~?」
「謝らなくて大丈夫ですよ、水無月先輩。コイツ、こんな反応してるくせに内心ではめっちゃ喜んでるんで」
片手で桐乃クンを支えた生瀬クンが代わりに答える。
「(本当なのだろうか)」と思い、生瀬クンの腕の中にいる桐乃クンに視線をやる。なるほど確かに、彼の表情はそうととれる程、実に満足気なものだった。
「なるほどぉ~、そんなものかぁ…。あ、そろそろ君達も座らない?」
「そうですね、そうします……ほら、クロ行くよ」
「んむぅ~…」
「良い子だとは思うが…彼はよく理解できないな」
「しかし、例の彼よりは理解できるでしょう?」
「アレと比べるのは流石に可哀想だろう」
「ふふ、そうですねぇ」
並んで座っている風紀トップ2の2人は、俺達の様子を外野部分から眺めつつ、そんな会話をしていた。
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