97 / 118
第86話 その後
しおりを挟むあれから何か好転した…なんて都合の良い事などなく、俺は相変わらず独り、通常業務に加えて、約2週間後にある新歓の準備にも追われていた。
こちらの方からも彼らを拒絶したようなものなので、別に問題無いが。強いていうのなら、忙しすぎて睡眠時間が平均2時間程度になったことぐらいだろうか。…まぁ、寝ることができるだけマシか。
そんなクソ程どうでもいいことを考えながら、両手の指は絶えずキーボードを叩いて文字や数式たちを打ち込んでゆく。
合間にくる風紀や教師達からの催促のメールにも対応しつつ、一般生徒達の嘆願書にも目を通す。
近頃の嘆願書は転入生関連が多い。
彼が人気生徒を侍らせているから注意して欲しいだの、ジェット機並みにうるさいからどうにかしてくれだの、今すぐ停学にしてくれだの……それはもう色々ある。
中には、アンチ王道かよぉぉ!!という意味不明なものもあった。こんなものを嘆願書として出すなと言いたい。
彼は物理的被害さえ出してないが、この学園全体に混乱を招いているのは確かな事実だ。その証拠がこれら嘆願書なのだろうし、過激派親衛隊が動きかけていることなのだろう。
そう、今まで水面下に潜んでいた親衛隊は動きかけている。
親衛対象が突然現れた転入生に侍り、これまでの彼らでなくなっていることを、これまで以上に自分達を無視するようになったことを、憂い、哀しみ、落胆し……。
必死に留めていたそれら感情がグツグツと煮詰められ、ついに限界を迎えてしまったのだ。
純粋な感情は全て蒸発してしまい、残ったのは黒く焦げて鍋底にこびり着いた転入生への妬みや恨み、憎しみといった醜いモノ。
自身を破滅へと導くと分かっていてもなお、彼らにはもうどうすることも出来ない。ただ、異分子の排斥を目指して動くのみ。まるで舞台上で操られているマリオットのよう。
「(憐れだとは思うが…、ただそれだけだ)」
ずっと生徒会室に籠もっている俺が何故、そのような事を知っているのか。それはただ偏に、前回までの経験を反省した結果に過ぎない。
何も知らないという状態は、ぬるま湯に浸かっているようで、その一時をやり過ごす分には丁度良いだろう。しかしそれが過ぎてしまえば、あるのは目の前に横たわる現実のみ。
突然現れたように思えるソレに対し、無様に狼狽えることしかできない。事実、前回の俺がそうだった。
だから二度とそうならぬよう、情報収集を徹底しただけだ。
ピコンッと、静かな室内に場違い感のあるどこか抜けた感じの音が響く。パソコンの隣に放置していたスマホのロック画面を見ると、通知が2件程着ていた。
うち1つは実にありきたりなスパムメールで、“電話料金が未払いになってます。今すぐ払ってください”というもの。毎月引き落としにしているので勿論あり得ない。すぐさまブロックした。
残る1つは、カレンダーの予定30分前であることを知らせるもの。そこには“生徒会・委員会合同会議 17:00~19:00”と記されていた。
通常会議の際は副会長が司会を務めていたが、今回は恐らく生徒会側は俺1人。必然的に俺が司会もする事になるだろう。
その上同時並行で会議で出た主張や意見をまとめて、こちら側の提示する新歓のスケジュール(改)や増え続ける嘆願書について発言しなければならない。
「…ハハッ、流石にオーバーワーク過ぎないか?」
自分を嘲笑うような口調で、苦笑気味に漏らしてみる。
久しぶりに出した声は普段より低く、僅かに霞んでいた気がした。
99
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
もういいや
senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
最弱伝説俺
京香
BL
元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!
有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる