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第85話
しおりを挟む「真琴ってイヤなヤツだったんだな!!!!!!慶をいじめるなんてシツボウしたぞッ!!!!!でもオレは優しいからな!!!!!!!!!慶にごめんなさいしたら仲良くしてやるよ!!!!!!!なっ!!!!!だから今すぐ謝れよ!!!」
柳瀬クンがマシンガンのように、次々と言葉を紡ぐ。それは俺への非難と、自身の賛美、書記に対する謝罪要求だった。
精一杯否定していた書記の声は遮られ、それですら、彼の中ではなかった事にされていた。
嬉々として囃し立てる双子の甲高い声と、圧倒するように責め立てる柳瀬クンの大声が俺の中を通り過ぎる。
会長はその様子を腕を組んだまま見ており、副会長は苦笑いをするだけで止めようとしない。
渦中の1人でもある書記は口をつぐみ、何かに怯えたように周囲を見回すだけになった。
どうやら人間は信用したらいけなかったらしい。
まあ、俺の見る目がなかった、というのもあるだろうが。そうだったとしても、このことは俺にとって定められた不変なものだ。
そんな、極々当たり前の事を再認識する。
先程まで女々しく考えていたのが嘘のように、思考がどんどん冷めてゆく。彼らへの興味も“ナカマ”として積んでいた信頼も、一切合切消えてゆく。
跡に残るは、ほんの少しの情と、たった今消え失せたモノたちがあったはずの何も無い場所だけ。
それでも尚、俺に貼り付いた笑顔を剥がす事はできない。
「ん~、イジメてはないんだけどなぁ~。ただぁ、最近何をしていたのかを聞いてただけだよ~?」
「じゃあなんで慶が泣きそうになってたんだよッ!!!!!!」
「それこそ俺の方が知りたいんだよねぇ」
コテン、と軽く首を横に傾けて続ける。いかにも“不思議で堪らない”と言わんばかりに。
「…春人、お前ら、行くぞ」
唐突に会長が口を開いた。顔を扉の方へと一瞬やり、副会長達と柳瀬クンにこの場から出る旨を告げる。
「机はどうするのです?私達はそれを綺麗にするために再び訪れたはずですが」
「そんなもの、アイツにやらしとけばいい」
書記の近くに立っていた俺を一瞥した後にそう吐き捨てた彼は、もうコチラを振り返ることなく、一足先に扉をくぐった。
「あ、かいちょー待ってよー!」
「僕らを置いてかないでよー!」
「龍雅待てって!!!!!!!」
「……………っ!」
双子はいつの間に握っていたゲームを片手に抱えて、柳瀬クンは焦ったような声を出して、書記はコチラとアチラを見て逡巡してから、それぞれ会長の後に続く。
「…………」
「…………」
何故かまだ後に続かない副会長との間には当然の如く会話は生まれず、重い沈黙が静かになった空間に落ちる。どちらも笑顔を維持したままなので、傍から見ればただのホラー映像だろう。
早くこの人もどっか行ってくれないだろうか。
そんなことを思いつつ、何も考えてないようなヘラヘラとした笑みを浮かべ続ける。
というか、彼を待つ義理なんてあるのだろうか?…無いな。
即思い直し、彼らが侵入してくる前まで行っていた後片付けを再開する。えーと、どこまで終わらせたんだったっけ。
それにしても、何故俺はこんなにも時間を無駄にしていたのか。あの間に全て片付いたかもしれないというのに。
「…すみません」
小さな声が、ほぼ無音だった空間に落ちる。その方向へ視線のみを向けると、僅かに歪んだ笑顔が見えた。
「…なぁにぃ?」
返した言葉に対する声は無く、扉の施錠音と共に最後の侵入者もいなくなった。
「はぁ…意味、分っかんねぇ……」
独りきりになった密室で、しゃがみ込みながらぽつりと零す。
時刻は丁度、21:00を示していた。
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