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第78話
しおりを挟む力自体は恐らく俺の方が強いが、無理にこちら側へ引き寄せると、折角の書類が無惨な姿になってしまう。
そのため、それ以上にこちら側へ引っ張ることが出来ず、委員長が他のことを済ませている間、ずっとそのままの状態で水面下での争いをしていた。
当事者である俺が言うのもなんだが…
な ん だ こ れ ??
傍から見ればカオスでしかない。
それにしても、委員長は何がしたいんだ?
もし、他の用があって俺を引き留めたいのならば、こういうような行為ではなくて言葉でやればいいだろう?
…本当、理由が分からないな。
「ねぇ委員長ぉ?こんなことしてまで俺を引き止めちゃってさぁ、他に用でもあんのぉ~?一体どうしたの~?」
電話が終わったのを見計らって声を出す。
「は…?引き留める…?」
当の委員長は“コイツ何言ってんの??”的な顔をして、タブレットの画面から視線を俺へと移した。
しかもその後に「そういえば…何故まだ此処に居るんだ?」と、心の底からの疑問といった様子で言葉を続けてくる。
いやそれはこっちの態度&セリフなんだわ。
もしかして委員長、少し天然入ってる?
…今度機会があれば、副委員長にそれとなく聞いてみるか。あの人、幼い頃から付き従っている、委員長の幼馴染兼従者って情報があるし。
とまぁ、それはどうでもいいから一旦そこら辺の端にでも置いておくとして。
「“は…?”じゃないって~!それはこっちのセリフなのっ!委員長が書類から手ぇ離してくれないんでしょぉ!」
ぐいぐいと再びソレを引っ張って、自分の手が書類を離そうとしないのを自覚させる。
すると、腕が引き寄せられるのを不思議に思ったのだろう。その方へと視線を移した委員長は、目撃した途端に切れ長な目を見開き、酷く驚いた表情をしていた。
普段はあまり見開かれることのない目が印象的で、思わずそこへと目が惹かれる。
「(あぁ…俺が羨んでやまない、綺麗な黒色だ)」
「(アレさえあれば…俺は……)」
そこまで思って、ハッと我にかえった。
そんなことあるはずがないだろ。もしそうだったとしても、どうせ結果は変わらなかった。馬鹿なのか、俺は。
「(…もう、とっくの昔に諦めたと、そう思っていたのだがな)」
未だ求める自分が、僅かに遺っていたらしい。こんなに小さかったので、今まで見逃してしまっていたようだ。
「(コレが終わってから捨てるか…)」
捨てる際に伴う、現在の俺が唯一感じられる“痛み”も、もう慣れたものだ。
ハハッ。それにしても、こんなくだらない事を人前で考えてしまうだなんてな。
どうやら俺は、ここ最近の激務で疲れているようだ。早く今日の分を終わらせて、久しぶりに4時間は眠るか。
「い、いや、違うんだ!これは無意識下での事で決して態とではなく─!」
ふと、状況を理解したらしい委員長の慌てたような声が聞こえてきた。かなり混乱した様子で、普段の委員長から感じられる威厳の破片も見当たらない。
そのことにすら、混乱している委員長は気が付いていない。
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