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第77話
しおりを挟む「はい、どぉ~ぞ」
湯気をあげたカップを机の空いたスペースにコトリと置く。ついでに隣部屋の戸棚で見つけた豆菓子を入れた皿を添えた。誰が持ってきた物かは分からないが…まぁいいだろう。
「あぁ、ありがとう」
いつの間にかに掛けていたメガネのレンズ越しに、こちらをチラッと見やりながら軽く会釈してきた。
その際僅かに見えたパソコンの画面上には、読む気が無くなる程の文字や数字、記号等が羅列していた。
人によっては拒絶反応が起こりそうだ。例えば双子とか。
「ど~いたしましてぇ~。じゃ、こっちで待っとくねぇ」
「そうしておいてくれ」
それから十数分間は双方共黙ってまま過ぎた。
室内に響くのは、指がキーボード上で跳ねる音やカップを置く際にたつ音、書類を捲る掠れたような音のみ。
しかしその空間は気まずいものでなく、どちらかといえば穏やかなものだった。
「…承認した」
ふいに、委員長がそう言った。すぐに俺の持ってきた用件のことだと理解した。
スマホの画面に落としていた視線を声の発生源へ向けると、風紀委員長にしか使えない印鑑を、丁度元のケースへ仕舞っているところだった。
メガネはまだ、掛けたままだ。
「お、意外と早かったね~」
作業をしていたスマホの電源を落とし、ポケットに戻しながら立ち上がる。空になったテーブル上のカップを見下ろし、そのままふらりと委員長の元へ向かった。
「残り僅かで終わると言っただろう。お前は一体どれほどかかると思っていたんだ?」
「え~?委員長基準の残り僅かだからぁ…1時間ぐらい?」
「何故疑問形なんだ…。しかもそれでは僅かではないだろう」
「まぁまぁ、委員長だししょうがないってぇ~」
「全く意味が分からない…」
頭が痛いとでも言いたげな様子で机に肘を付いた方の手で頭を支え、「はぁぁぁ…」とため息をつく。
その姿すら絵になるだなんて、流石は学園一のイケメンと言われている委員長だ。
「そんなことよりもさぁ、終わったんなら早くそれチョ~ダイ」
「ほらほらぁ~」と声を出しながら、“それを寄越せ”と片手を動かす。この仕草をする時のポイントは、態とらしい程のチャラ男らしい満面の笑みを浮かべることだ。
こうすることでよりそれらしくなると、最近10分だけ観たドラマから学んだ。
「…あぁ、そうだな。ほら」
そう言って委員長は、印鑑の押された書類数枚を差し出してきたのだが。
「……ねぇ委員長ぉ?なぁんで、書類から手を離してくれないのかなぁ?俺早く戻りたいんだけど~」
ぐいぐいと軽く引っ張っても、委員長の手を剥がそうとしてみても、何故か頑なに委員長は書類から手を離そうとしないし離れない。
しかも空いているもう片方の手で、何処から取り出したのか分からない委員長私物のタブレット端末を操作しながら、いつの間に取り出したスマホで誰かと連絡を取り合っていた。
いや器用だなおい。
というか、どうやってるのそれ。
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