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第76話
しおりを挟む颯クン達と別れた後、書類を手渡しに十数箇所を回った。この学園は校舎も無駄に広いので1時間以上かかった。
そしてやっと、今目の前にある部屋で今日は最後だ。
19時を過ぎてしまっているが、まぁ目的の人物なら余裕でまだ此処にいるだろう。軽くワーカーホリックだし。
コンコン、コッココンッ
「委員長いる~?」
ノックに遊び心を持たせてみたりしながら、普段通りその人物を肩書きで呼ぶ。
「…誰だ」
「あ、生徒会会計の水無月で~す。というかぁ、委員長なら声で分かるでしょぉ?」
「…早く入れ」
「しっつれいしまぁすッ」
遠慮なく(気分的に)ガラガラと扉をスライドさせて内へ突入した。
久しぶりに見た風紀員室内は、副委員長のおかげで相変わらず清潔に保たれており、各委員の卓上に低めの書類等の束が積み重なっていた。
本当、今の生徒会室とは天と地な程違うな。色々な意味で。
「へぇ~、委員長だけなんだねぇ」
「最終下校時刻はとっくに過ぎているからな。俺はちょっとした残業だ。しかしどうした、お前が来るなんて珍しいな。しかもこんな時間に」
キーボード上で跳ねる指と画面へ向けた視線をそのままに、委員長は声のみを投げかけてくる。どうやら手の離せない作業中に訪ねてしまったらしい、かなり申し訳ない。
ならばより早く用を終わらせなければと、世間話もそこそこに切って今回の本題に入った。
「あはは~、今日の俺はお使いに駆り出されてるんだよ~。今の時期は特に忙しいからねぇ。ということで、はい、これにサクッと印鑑チョ~ダイ☆」
手元に残っていた本日最後の書類数枚をヘラヘラ笑顔と共に委員長に差し出す。
委員長はチラッとそれに視線をやると、視線の先を元に戻して指示を出してきた。
「…残り僅かでこれが終わる。それは此処に置いておけ。そしてお前はソファーにでも座って待っていろ。恐らくそう待たせないはずだ」
「ふぅ~ん…?じゃっ、オコトバに甘えてそうしとく~」
多少積み重なった書類の1番上へ目立つようにそれを置き、今までに何度か座ったことのある馴染みのソファーへ向かう。
「あ、そ~だ!隣部屋のを勝手に使って良かったらさぁ、委員長にコーヒー淹れたげよっかぁ~?俺が淹れるのは何でも美味しいってぇ、会長達のお墨付きなんだよねぇ~」
「そうか、ならば頼もうか」
「何か注文ある~?ミルク多めがいいとかぁ、ホットがいいとかぁ、シロップなしとかさぁ」
「そうだな…あぁ、お前は何が好みだ?」
「え、好みぃ?俺はホットのブラックが好きだけど~…」
何故なのかは分からない。その発言を耳にした瞬間の委員長の瞳には、優しさや安堵等の色が宿っていた。
今日は分からないことが沢山だ。それだけ人間と関わったということなのだろうか。
「なら、それで」
「おっけぇ~!」
新たな疑問をそのままに、一先ずいつも遅くまで頑張っている委員長ために美味しいコーヒーを淹れに行った。
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