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第72話

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 人っ子一人居ない宮殿内の廊下を黙々と進む。
 大きくとられた窓から春らしい暖かな光が射し込んでおり、白漆喰壁には薄い俺の影が映っていた。

「(まずは顧問の所に行って次は─)」 

 何となく抱えた書類の端を弄りながら、効率的な周る順番を淡々と決めてゆく。

 顧問である東先生の準備室は宮殿内のと一般校舎のとの2箇所ある。今の時間だと、恐らく一般校舎の方に居るだろう。
 
 
「(あー……なんで俺、こんな事してんだろうな)」

 ふと、そんなどうでもいいことを思った。脳内が暇過ぎるとヒトは変な方向へと思考が飛ぶらしい。

 更にどうでもいい事を勝手に学びながら、2つの校舎を隔てるオートロックの扉を開けて外に面した渡り廊下を歩く。

 ここまで来ると、授業から解放された生徒達の賑やかな声が聞こえてきだした。

 部活に遅刻しそうになっているのだろうか、数人分の慌ただしい足音が近付き遠ざかってく。…あ、コケた。
 コケた相手に掛けているらしい、ここまで鮮明に聞こえる怒鳴り声のようなものは、両方ともどこか楽しげだった。

  
 それを聞くだけで、自分のしている事は意味があるのだと思え、先程の疑問が浄化される。そんな自身の単純さに呆れて、思わず小さく苦笑した。


 そうこうしつつ、あっという間にもう一つの扉が目前に迫ってきた。備えあれば憂いなしという事なのか、こちらの方もオートロックだ。許可されたカードでしか開けられない。

 念の為笑顔を浮かべ直し、カードをかざしてから心して扉を開いた。心境としては食堂の扉を開ける前と同等である。

 
「「「「き…キャァァァァァァァァァアアッ!!!!」」」」

「久しぶりの水無月様だ!!嬉しい!」

「スゥゥゥ…ハァァァ、水無月様と同じ空気を吸えるとか最高過ぎる…今日まで生きてて良かった…!」

「6日と17時間23分48秒33ぶりの会計様だ……あぁ、後光が差して見える…」


 …なんか、普段よりもおかしなのがあるな。最後のはもう細か過ぎて、恐怖を通り越していっそ感心する。


「はぁ~い、みんな相変わらずかわいいねぇ。俺今ちょぉっと忙しいからぁ、道開けて欲しいな~」

 瞼をそっと伏せつつさり気なく流し目をすると、砂糖にむらがる蟻のように集まりつつあった生徒達が、トマトも真っ青になる程に頬を赤く染めた。

 中には耐えきれなかったのか、親指を立てて「アイル・ビー・バック」と倒れて逝ってる生徒も居た。その最期の表情は、実に幸せそうだった。

「「「ももももも、勿論です!!」」」 

 そうして、キュウリを見て跳び上がる猫のようにさっと後ろに下がる。倒れた生徒は雑に引きずられていた。

  
 自身が一般的にいう“美形”に該当するのは理解しているが、これは少し過剰ではないかと思う。まぁおかげで楽だし、使えるモノは一つでも多い方が有利だから別に良いけど。


「ありがとぉ~」

 仕上げにとびっきりの笑顔でウインクをかますと、「ゔッ!」と心臓あたりを押さえながら大半の生徒がバタバタ後向きに倒れていった。


 なんて壮観な景色なんだ。

 少々やり過ぎた気はするが…まぁいいか。

 
 自称ギリギリで耐えたという生き残り達が倒れた生徒の対処をしてくれると言うので素直に甘える事にした。
 そもそも俺にはこんな所で油を売っている暇などないしな。

 では何故こんな事をしたのかというと…ただの気分転換だ。これぐらいしておかなくては1日中仕事なんてやってられない。
 
 
「じゃぁ~ねぇ」

「「はい!!お仕事頑張って下さい!!」」

「「~~ッ~…!」」

「「(この場の処理について)後は我らにお任せ下さい」」

 チワワ達は満面の笑みで手を振ってくれていた。
 スポーツマンな青年達は何故か微妙に前屈みになっていた。
 そして多分最後のは俺の親衛隊員だろう。たまにああいうタイプのが紛れ込んでいる。


 うん、チワワ達はかわいいな(現実逃避)。






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