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第67話 目に見えぬ綻び (no side)
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〘noside〙
ここは学園内にある、とある1室。教室と同等の広さを持つこの場所は、ただ1人のためだけに造られた部屋だった。
高い天井では西洋のお城にありそうなシャンデリアが光輝いており、大理石の床の上には、毛が長くてふわふわとした深紅の絨毯が扉から奥の重厚な机まで一直線に敷かれている。
真珠色の壁には、有名な画家が描いたらしい風景画や肖像画、部屋の主がかつて取った賞状やタペストリー等が整然と掛けられていた。
さて、その部屋の奥に置いてある、やけに豪華なモカブラウン色のキャスター付きリクライニングチェア。そこには現在、柔らかな背もたれに身体を預け、ゆったりと座っている30代半ばぐらいの身綺麗な男がいた。
その男はどうやら誰かと電話をしているようで、途切れ途切れに驚いた相手の声も聞こえてくる。
「…うんそう、君に任せたいんだよ」
『いえ……た…は、で…るだけ……か……りた…な…』
『…れに…永…弟…転にゅ…せ……き…いった……で…』
「それは昨夜報告があったから知っているよ。だからこそ、メールで送った例の件は、君が適任だと判断したんだ」
『しかし…』
「君に拒否権はない。これは“ ”命令だよ」
『……』
電話の相手は何か気に食わない事があったようで、色々と反論や説得をしていたが、男のその言葉によって最終的に黙ってしまった。つまり、渋々ながらも従うということだ。
しかし、内心では完全に納得出来ないのか、頑なにその旨を自らの口からは告げようとしない。
「うんうん、君が引き受けてくれて良かったよ」
まぁそんな些細な抵抗など、この男には通用しなかったが。伊達に相手の倍は生きていない。
「それじゃあ、よろしくね“ ”くん」
『…了承しました』
事が比較的スムーズに己の思い通りに運び、非常に機嫌が良さそうにどこか弾んだ声で言う男。それに対して、姿の見えぬ相手の声はため息でもつきそうな程ヒドく疲れたものだった。
「具体的に何をすればいいのかは、後からメールで送るから」
ヒトを食ったような笑みをしながらそう言うと、男は相手の返事も聞かず一方的に電話を切ってしまった。
ツー、ツー、ツー…
鳴った音を気にすることなく、机にスマホを伏せて置く。そうして徐に立ち上がり、この部屋にある唯一の窓へと近づいた。
硬く閉じられていたその窓を、男は数日ぶりに開く。その途端、ぶわりと桜まじが肌を擽り、短めな前髪を弄んだ。
「…あぁ、これから学園内が荒れそうだな。彼らがそれにどう対処のか、今から見るのが愉しみだよ」
「堕ちるか、それとも糧とするか…。果たして、どっちになるんだろうねえ」
雄大に広がる冴えわたった青を、細めた群青色の瞳に映しながら、近い未来に起こるであろう騒動とそれによる被害を思い、男は悠然と微笑んだ。
─────────────────
これで物語の準備はほとんど整った。
演者も小道具も聴衆も、その全てが最上級品。
今は傷一つとしてない。
あとはただ、幕が開くのを待つのみ。
終わるまで結末は誰にも分からないのだから。
始まりの時まで、もう僅か。
ここは学園内にある、とある1室。教室と同等の広さを持つこの場所は、ただ1人のためだけに造られた部屋だった。
高い天井では西洋のお城にありそうなシャンデリアが光輝いており、大理石の床の上には、毛が長くてふわふわとした深紅の絨毯が扉から奥の重厚な机まで一直線に敷かれている。
真珠色の壁には、有名な画家が描いたらしい風景画や肖像画、部屋の主がかつて取った賞状やタペストリー等が整然と掛けられていた。
さて、その部屋の奥に置いてある、やけに豪華なモカブラウン色のキャスター付きリクライニングチェア。そこには現在、柔らかな背もたれに身体を預け、ゆったりと座っている30代半ばぐらいの身綺麗な男がいた。
その男はどうやら誰かと電話をしているようで、途切れ途切れに驚いた相手の声も聞こえてくる。
「…うんそう、君に任せたいんだよ」
『いえ……た…は、で…るだけ……か……りた…な…』
『…れに…永…弟…転にゅ…せ……き…いった……で…』
「それは昨夜報告があったから知っているよ。だからこそ、メールで送った例の件は、君が適任だと判断したんだ」
『しかし…』
「君に拒否権はない。これは“ ”命令だよ」
『……』
電話の相手は何か気に食わない事があったようで、色々と反論や説得をしていたが、男のその言葉によって最終的に黙ってしまった。つまり、渋々ながらも従うということだ。
しかし、内心では完全に納得出来ないのか、頑なにその旨を自らの口からは告げようとしない。
「うんうん、君が引き受けてくれて良かったよ」
まぁそんな些細な抵抗など、この男には通用しなかったが。伊達に相手の倍は生きていない。
「それじゃあ、よろしくね“ ”くん」
『…了承しました』
事が比較的スムーズに己の思い通りに運び、非常に機嫌が良さそうにどこか弾んだ声で言う男。それに対して、姿の見えぬ相手の声はため息でもつきそうな程ヒドく疲れたものだった。
「具体的に何をすればいいのかは、後からメールで送るから」
ヒトを食ったような笑みをしながらそう言うと、男は相手の返事も聞かず一方的に電話を切ってしまった。
ツー、ツー、ツー…
鳴った音を気にすることなく、机にスマホを伏せて置く。そうして徐に立ち上がり、この部屋にある唯一の窓へと近づいた。
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「…あぁ、これから学園内が荒れそうだな。彼らがそれにどう対処のか、今から見るのが愉しみだよ」
「堕ちるか、それとも糧とするか…。果たして、どっちになるんだろうねえ」
雄大に広がる冴えわたった青を、細めた群青色の瞳に映しながら、近い未来に起こるであろう騒動とそれによる被害を思い、男は悠然と微笑んだ。
─────────────────
これで物語の準備はほとんど整った。
演者も小道具も聴衆も、その全てが最上級品。
今は傷一つとしてない。
あとはただ、幕が開くのを待つのみ。
終わるまで結末は誰にも分からないのだから。
始まりの時まで、もう僅か。
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