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第34話
しおりを挟む「う、うぅ…ごめんなさい副会長ぉ~…」
魔王様が御降臨なされてから、静かに怒られること実に30分。
俺と会長は、その間ずっと床に正座してそれを聞いていた。
そうして今俺は、もう足が痺れてきて痛いし、なんだか普段よりも副会長は怖く感じるし、というダブルパンチのせいで、泣きそうになりながら謝っていた。というか、少しは泣いてるかもしれない。
いや、やっぱ泣いてない泣いてない!
ちょっとだけ涙が出そうになってるぐらいだしぃ!!←
これぐらいじゃどうってことないもんっ!!
…なんか、自分のテンションおかしくなってる気がする。気分下がったと思ったら急に上がってるし。情緒不安定すぎない?大丈夫か、俺。
「……煩くしたのはすまねぇ…と思ってる。だが、少し怒り過ぎやしねぇか?コイツ泣きかけてるぞ」
「え……わ、私は別に泣かそうとした訳では…っ!…それに、今日はあんなことがあったので、普段よりも柔らかく言うように心がけてました。」
「おぉ、お前でも狼狽えることがあんのか。…まぁ、確かにいつもと違って、倍以上は言葉の鋭さと冷酷な威圧感がなかったな。あれのせいだったのか」
「貴方は私をなんだと思っているのですか……」
「あ?そんなの冷酷冷徹まおu…」
「ん???何ですか?((圧)」
「ヤッパナンデモナイ(棒)」
何やら会長と副会長が言い合っている。近くにいるのに内容は頭の中に入ってこず、何を言っているのか分からない。
あれ?そういえば、なんだか意識がはっきりしない。どうして泣きかけたのかも、こんな状況になったのかも、ついさっきのことなのに記憶があやふやだ。というか、俺が泣きかけたなんて、普通なら全くあり得ない。だって、俺には涙なんてどう足掻いたって流せやしないのだから。
それなのに、そんなことも含めて全部ぜんぶ、他人事みたいに思える。
そんな中、今までの惨状を静かに見ていたらしい慶は、俺の近くに寄ってきてしゃがんできた。
ボーッとそれを眺めていると、何故か自分のより大きい両手が近付いてくる。
俺は咄嗟に目を瞑って体を小さく縮こませた。まるで、何からか自分を守るように。無意識のうちに。
ポスッ
突然目の前が真っ暗になり、温かいナニカに包まれる。
え……何、なにこれナニコレ。こんな温かいのなんて知らない。狭くて暗くて少し息苦しいのに、どこか優しさを感じることなんて知らない。
オレハ…ボクハ、シッテハイケナイ。
じゃないと、保てなくなる、壊れてしまう。
何が?
自分が。
何で?
知る前に戻れなくなるから。
どうしてそれがいけないの?
僕は手に入れられないものだから。1度知ってしまえば、1人の寒さに耐えられなくなってしまう。麻痺したはずの感覚が、心が、痛みを主張し始めてしまう。そうなったら、きっと今度こそ、僕は耐えられなくて壊れてしまうだろう。
だからこんなの駄目だ、駄目だ駄めだだ目だだめダだメだダめダダメダダメダダメダダメダダメダダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ……
「だ、じょうぶ…だい、じょうぶ……。おれ…怖い、こと…何、も…しない…」
良く知っている声は、誰かに言い聞かせるかのように優しい声音でそう言う。
何もしない?そんなのウソだよ。今僕にやってるじゃないか、僕が何よりも恐れる事象を引き起こす怖いことを。
「これ…怖、ない…へ、き……。真琴…い、子…いい、子…」
ぽんぽんと、痛いほど優しく背中を大きな手が撫でる。
怖く、ない、の…?でも僕にとってこれは怖くてダメなことで……。
ん?ま、こと…?
その一言で、何故か混濁していた自分の意識がはっきりと戻り、すっかり我に返った。
あぁそうだ。
今はあの僕じゃない。
ここにいるのは、華織学園生徒会会計水無月真琴である俺だ。
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