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第27話

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「ぁ…これ、庭園…?」

 宮殿近くの森の中を歩いて歩いて、兎に角歩いて。そこを抜けた先では、様々な種類・色の薔薇や名前の知らない花々が咲き誇っていた。

 その様子はとても綺麗で美しく、しかしどこか穏やかで。気がつけばふらふらと、引き込まれるかのようにそこへ足を踏み入れていた。


 何故校舎からかなり離れた場所にあるのか、とか。何故生徒手帳の地図に記されていないのか、だとか。そんなことを考える余裕など全くなくて。


「(この学園にこんな場所があったんだ…)」

 歩を進めながら漠然ばくぜんと、ただそれだけを思った。



 今なら分かる。

 実はこの庭園、つい十数年前にできた場所らしく、造るとなった時、空いている場所で庭園にふさわしかったのが宮殿近くの森を抜けた先にあるここだけだったらしい。

 そして、何故地図に記されていないのかというと、先代理事長の「地図に記されていない、秘密の庭園ってなんかいいよね」というおちゃめ(?)な発言のせいなようだ。

 なので今のところ、現在学園に居る中でこの庭園を知っている者は先代・当代理事長と俺、風紀委員長、ここを偶然発見した4人の生徒、庭園の管理者。合計9人だけだ。





「フワァ…」

 軽い昼食を終え、思考を過去に飛ばしていると、だんだん眠たくなってきてしまった。

 右腕の腕時計を見ると、昼休憩時間が終わるまであと1時間半は残っている。


 …よし、寝るか。

 本来この学園で、1人無防備に外で寝るだなんて危険極まりないが、存在自体を知る者が数少ないこの庭園は例外だと思っている。
 その数少ない者達も理事長曰く、“全員安心していいメンツ”とのことなので心配ない。

 今問題なのは、午後の授業中に寝てしまう可能性があることなのだ。そうなったら、授業に出る意味がまるで無い。

 しかも5時間目は、俺の天敵である数学だ。寝てしまえば、ほぼ確実に死亡フラグが立ってしまうだろう。

 あ、会計なのに数学が苦手なんだ…って思っただろ?
 計算はいいんだよ、計算は。問題なのは証明と図形、ついでに2次関数なんだ。

 そもそも、なんで△ABCが二等辺三角形であることを証明しないといけないんだ?別にどんな三角形だったっていいだろうが。
 2次関数に至っては意味が分からない。何故点P動く?動かなくていいだろ、というか動くな。


 …まぁよって、残り時間全てを仮眠にてることが現在の最適解だ。


 ベンチはそこそこ大きいので、横になって眠ることができる。
 しかしそうした場合、気配に気付いて起きてもバレないよう、すぐに退散するのは難しいだろう。

 銀蝶と黒狐ならできるのだろうが、今の俺は水無月真琴だ。多少不安は残ってしまう。


 〘確かにボクは簡単にこなせるよ〙

 〘………コクッ〙

 おい、突然出てきてどうした?俺に対する嫌味か?

 〘そんなわけないって、主人格サマ。ねっ、黒狐〙

 〘…………別に…オレはどうでも…〙

 なら何故出てきたんだ黒狐……まぁいいか。
 俺は今から寝るから銀蝶、人の気配がしたら起こして。

 〘オーケー〙

 その言葉を聞いてから、散らかしたのをさっさと片付ける。
 ゴミの入った袋を腕にかけ、スマホのアラームを1時間後にセットし、それから多少背もたれに体重を預けた。



 じゃ、おやすみなさい……








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