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第26話

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 なんだかんだあった古典の授業も無事終了し、昼休憩時間になった。

 華織学園の昼休憩時間は、日によっては2時間もある。どのような基準でそうなっているのかは、生徒会会計となった今でも謎のままだ。

 さて、何故それを言ったのかというと、今日がまさにその日だからだ。とはいっても、普段と特に変わったことは無いが。


 丁度いい天気なので、購買で手に入れたサンドイッチとブラックコーヒー(生徒会役員は購買・食堂の費用が無料である)を持って1人で庭園へ来た。

 この庭園には様々な種類の薔薇やその他花、木々等が植えられていて、かなり自然豊かで落ち着く場所だ。
 しかし、宮殿からも少し離れた所にある為か、普段からここを訪れる人は俺以外全くいない。まぁそのおかげで、今こうして寮の部屋以外で1人になれるのだが。


 アンティークな雰囲気のある噴水を通り過ぎ、緑に囲まれたいつものベンチに座る。
 ここは丁度、植えられた植物でコチラ側が隠れて見えなくなるベストポジだ。しかも、コチラからはやって来るあちらが普通に見えるので、気付かれる前にこの場から退散することができる。


「ん~~…」

 両腕を思いっきり伸ばし背伸びをした。
 こうすると、固まった身体がほぐれるような気がする。
                              
 あぁ、それにしてもここは相変わらず静かだな。
 風が吹く音と鳥の鳴き声ぐらいしかしない。                               
                                          
 黙々とサンドイッチを食べながら、そう考える。                              

 いつ誰が来るかが分からないので部屋にいる時みたいに表情は消せない。が、周りを囲っている植物に守られている感じがするので、かなり気を抜くことができる。                              
                                
「(一年前にここを見つけられて良かった)」   



  

                         
 あれは、この学園に入学してから3週間程経った頃。                              

 ほぼ独りでいる事が当たり前だった俺は、常に周りに人がいるという環境に慣れていなかった。それでもどうにか頑張っていたが、やっぱり学園内でも1人になれる場所と時間が欲しくて。だから昼休憩時間に探索としょうして1人、学園内を彷徨さまよっていた。                               
 

「あ、水無月さんだ!」

「キャァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

「本日も相変わらずお美しいです!」

「今夜だけでもいい、慈悲をくれ!」

「やっほ~」
「アハハ~、褒めてくれてありがとぉ」
「あ、ごめんねぇ。今夜はもう約束があるんだぁ」


 まだ生徒会会計になっていなかった俺は、歩き回るたびに必ず誰かしらに話しかけられ、その度に笑いながら一々対応して。どんどん笑みは引きつっていって。取り繕えなくなりそうになった。

 もう限界だと思い始め、それでも俺が俺である為にも辞めるつもりはなくて。そのためにも、変わらず昼休憩時間には学園内を彷徨った。                             

 そうして見つけたのが、この庭園だったのだ。




                              
                                 
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