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第22話 (no side)

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 〘noside〙

 またね~とヘラヘラ笑いながら手を振り、生徒会室を出て行く真琴の後ろ姿を見送る。

 その姿は、先程までの様子が幻覚だったのだと思わされる程、彼はいつも通りなのだと、何よりも明確に表していた。

「「ねぇ…マコちゃんはさっきどうして、あんな顔をしてたのかな…?」」

「…わ、んな…でも…いつ、も、…真琴…ちがっ…」

 双子と慶は、真琴が見えなくなってすぐにそんな言葉を漏らした。その表情は3人とも、どこか暗い。

「かいちょー」

「副会長」

「「2人なら分かる?」」

 微かな不安と期待を覗かせながら、背の高い2人を見上げる。

「すいません、私には心当たりがなくて…」

 そう言って、チラリと隣に立つ人を見る。
 それに気づいた会長は嫌そうに顔をしかめ、口の中に舌打ちを溢した。

「チッ…俺にもわからん」

 真琴の様子を思い返しながら呟く。



 あの時、仕事の進捗状況を確認していたところだった。

 皆がそれぞれ言った中、普段なら真っ先に発言する真琴が何も言っていない。その状況をおかしく思い、アイツの机に目を向けると、目線はパソコンに向かっていた。

「おい真琴」

「………」

「おい、聞こえてないのか?」

「………………」

 ただただ真っ直ぐにパソコンを見て、キーボードを叩いている。

「水無月」

 副会長が静かに呟く。
 名前を呼んだだけなのにも関わらず、皆の危機察知能力が“ヤバい”と認識した。魔王様が降臨なされてしまう予兆がする。

 いつもなら真琴も反応するのだが、今は全く何もない。
 そのことに、事態の異常さを感じさせられた。

「「マ、マコちゃん…?」」

「まこ、と…?だ、じょ、ぶ…?」

 双子と慶は心配そうに真琴を見ている。


 ガタッ

 音のした方に目線をやると、会長が席から立ち、真琴の方へ歩いていた。

「おい、真琴」

「……」

 返ってきたのは沈黙。
 その目線は変わらずパソコンに向かっており、生徒会室内は真琴がキーボードを叩く音がするのみ。
 髪で隠れてしまい、顔を覗うことができない。

「おいっ!」

 グルッと椅子を回転させ、身体をこちら側へ向ける。

 それでも、何ひとつ反応しない。

 副会長と双子も、真琴の顔が見える場所に移動する。
 慶はいつの間にか会長の反対側に立っていた。

 皆、その顔を見てただ呆然とした。
 普段の真琴からは想像が出来ない表情をしていたからだ。
 と言っても、そう変な顔をしているわけではない。

 何も無いだけだ。
 表情という表情が何も浮かんでなく、無反応なのも合わせて、まるで職人が丹精込めて作った精巧な人形のようだった。


 真っ先に我に返ったのは、最初にその様子を見た会長だった。

「おいっ!!真琴!」

 ガシッと両肩を掴み、焦ったように声を出す。


「…あれぇ~?ど~したの~会長?」

 ようやく反応を返してきた真琴はいつも通り、ヘラヘラ笑っていた。

 ついさっきまでの様子が嘘かのようだった。



 それからは先程と同じだ。

 真琴に何があったのかを、彼が無表情だったことを伏せて伝え、早く寮へ帰らせた。

 そうして、冒頭に戻るというわけだ。






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