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第16話

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 傍から見ると、フードの者が圧倒的不利だろう。

 あちらは複数人いるばかりでなく、皆ガタイがいい。
 それに比べてフードの者は1人で、体付きが華奢だ。


 男達もそう思ってるのだろう。襲いかかるその瞬間の顔は、余裕に満ちていた。


 しかし、予想に反してその者は、男達の攻撃を最小限の動きで躱した。そして、今まさに頬を殴ろうと、男Aの伸ばされた拳を片手で受け止め、もう片方の手で腕を掴み、投げ飛ばした。

 投げられた男Aはかなり吹っ飛び、建物の壁にぶつかった後、ぴくりとも動かない。恐らく気絶したのだろう。


 その間、実に数秒程度。


 仲間がやられた事実を把握した残りの男達は、僅かな間呆然としていた。が、すぐ我に返ったかと思うと、怒りに目を染め、勢いよく襲いかかる。



 それを、フードの隙間から冷静に見る赤と碧の光があった。







 …………



 数分後、その場に立っている者はフードの者、ただ1人だった。

 周りには気絶した男達が無様に転がっている。


「……弱っ…」

 それだけを小さく呟いて、立ち去ろうと歩き出した…が。



「………ゴホッゴホッ…ハァ…」

 背後で先程転がした奴らのうち1人が、ヨロヨロと立ち上がった。


「……ゴホッ…待てヨォ…」

「…なんだ、まだ立てるのがいたのか。手加減し過ぎたかな?」

 でもなぁ、そうしないとコイツら死んでしまうし。


 そんな恐ろしい事をフードの者は独り呟く。


 その言葉が聞こえなかったのか、男Bは一度返り討ちにされたにも関わらず、懲りずに背後から襲いかかる。


「バカが」

 身体を後ろ向きに捻りながら回し蹴りをし、その脚は見事に男Bの鳩尾みぞおちにクリーンヒットした。


 再び壁に叩きつけられた男Bはしかし、次は怒りに囚われず、ただ呆然と己を蹴り飛ばした者を見つめる。

 その顔は徐々に恐怖一色へ染まってゆき、唇を戦慄わななかした。


「お、お前…いや、アンタはまさか……」

「あれ?ボクを知ってるんだ」


 目深に被っていた黒のフードは背中にいき、顔が露わとなった美少年はニヒルな笑みを浮かべながら、コテンと首をかしげる。さらりと、月光の下で輝く長い銀髪が揺れた。


「君はボクの攻撃を受けて気絶せずにいたし、自己紹介をしてあげよう。初めまして、ボクは銀蝶─ソロの族潰しけん情報屋だ」


 そう言って美少年─銀蝶はにこやかに笑って、中世の西洋貴族がするような礼をした。

 その様子は銀蝶にとても似合っていて、そして、今この場にはとても場違いだった。


「あ、アァ…ヒッ、や…」

 壊れてしまったのか、男Bは意味のない言葉しか出さない。


五月蝿うるさいなぁ…」

 銀蝶はそれを見て、面倒くさそうに顔をしかめる。
 だが、すぐに興味を失った様子で、自らの銀髪を人差し指にくるくると巻き付けもてあそび始めていた。



「じゃ、ボクはそろそろ行くね。さようなら…もうボクの前に現れるなよ、

 フードを被り直しながら一時的に壊れた男Bを嘲笑あざわらい、そう言った銀蝶は、ついでと言わんばかりに去り際、さり気なく男の首に手刀を落とした。



 意識が無くなる前に男Bが見たのは、この場から早足で遠ざかる銀蝶の後ろ姿だった。






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