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第1話 チャラ会計様

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 ここは、山奥にある男子校、華織学園かしきのがくえん。名家の御曹司達が通う全寮制の学園だ。

 外部生もいるが、基本小中高と持ち上がり。学園から出られるのは特例を除き長期休暇のみ。

 そんな中で思春期を迎えるので、恋愛対象は必然的に近くにいる男子となる。学園内の内訳は、ゲイやバイが8割、ノーマルが1割、その他1割。


 そして、この学園はとある界隈の人々からはこう呼ばれている─“王道学園”と。


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 今は春。
 暖かな日差しの中、桜が舞うこの風景を目に焼き付ける。
 見るのは2度目だが、本当にこの季節は儚く綺麗だと思う。

 来年度には、新1年生が高等部にやって来る。
 また忙しくなりそうだ、と思いながらある場所を目指して早足で歩いていた。顔ににこやかな笑みを浮かべて。

水無月みなづき様だ!」

「今日もなんて美しいんだ!」

「「キャァァァァーッ、水無月様ぁぁぁぁあー!!!」」

「水無月様ぁぁー!抱いて~!」

「ウオォォオーッ!抱かせろぉぉ~!!」

 おい最後のやつ、なんて言った?
 俺は男に抱かれる趣味はないんだ。まぁ来ても構わないが、逆にねじ伏せてやるよ。……なぁんてな。大体、一応俺はノーマルだし。…とはいっても、誰にも言ったことはないが。


 閑話休題かんわきゅうだい


 目的地に向かって歩いて行くと人気ひとけがだんだん少なくなり、とある地点から喧騒すら聞こえなくなった。

 ここは特別校舎。生徒会室や風紀員室、理事長室…などなど、この華織学園の心臓部である機関が集まっているため、一般生徒や一般教師は基本立ち入りが禁止されている。
 関係者は全員が美形で家柄も高いので、別名“宮殿”とも呼ばれているようだ。

 俺は関係者であるため、日常的に出入りしている。
 というか、入り浸っている。だって、ここは静かで落ち着くし、仕事をしないといけないからだ。

 無駄にセキュリティの高い出入口を抜け、目的地である生徒会室に向かう。そこでも網膜認証とカードスキャンを2回行い、やっとの事で入室した。
 始めの頃は凄く戸惑ったが、今では慣れたものだ。

「おっはよぉ~!」

 テンション高く、マイペースに挨拶をすると、冷たい視線をもらった。

「おはようございます。あなたは朝からうるさいですね。もっと静かに出来ないのですか」

「副会長ヒッド~イ。俺泣いちゃうよぉ~」

「「アハハハー!マコちゃん怒られたー」」

 シクシクと俺が泣き真似をして見せると、ドッペルな双子がさらに笑い出す。
 副会長─相模さがみ零斗れいと先輩─は、それを見て呆れたようにため息をついた。

「ま、こと…おは、よ、」

けいおはよぉ~!!慶だけだよぉ~、俺に優し~の!」

 そう言いながら、3人がけソファーに座っていた慶にガバっと抱きつく。

「ん…だい、じょ、ぶ…?」

 よく分からない、という感じながらもヨシヨシと俺の金色の頭を撫でてくれる。
 あぁ、本当に慶だけだ!慶の優しさに思わずうるっときてしまった俺はおかしくないはずだ。


「あれぇ~?そ~いえば、会長今日はまだ来てないねぇ~」

「あぁ、龍雅りゅうがですか。龍雅なら先程までいたのですが…」

「はいはーい!僕達知ってるよ!ね、かなで

「そうだね、かえで
 
「え、何々~?」

「かいちょーはねー、理事長に呼ばれて行ってたよ!」

「多分、入学式のことについてじゃないかなー」

「あぁ~!そっかぁ。確かに卒業式の次は入学式だもんねぇ~」

 今年度の卒業式はもう終わってるし、春季休暇が終わればすぐにあるので、来年度の準備を今からするのだろう。

 書類がまた山積みになる様子が目に浮かぶな。会長いないし、早く終わらせるために、USBメモリを持って帰って寮の部屋でするか。
 ここではキャラ的に真面目に出来ないし。

「会長がいないならぁ、俺寮でしていい~?副会長~?」

「はぁぁ…、何言っているのですか貴方は。第一、私がそんなことを許すわけがな─」

「わぁ~い!ありがとぉ副会長~!じゃあ、俺はもう帰るねぇ~。バイバ~イ!」

「あ、ちょっと待ちなさい!私は許してない─」

「「アハハハー!wじゃあねーマコちゃん!!」」

「…じゃ、、ね、」

 勝手に自分の分のUSBメモリを掴んでポケットに入れ、少し怒った様子の副会長とこの状況をも楽しんでる双子、癒しポジな慶の声を背に、生徒会室を後にした。

 この様子だと、明日は副会長に今日の倍の冷気を当てられそうだな。防寒着でも用意した方がいいだろうか。



__________________




「はぁ、全くあのチャラ男会計は…」

 真琴まことが生徒会室を出た後、零斗は呆れたようにため息をついた。

「マコちゃんすごいよねー!」
 
「ね、すごいよねー」

「「れいれいの言葉無視出来るなんて!!」」

「僕なら、あの笑顔を向けられたら絶対無視出来ないよー!」

「怖いもんねー」

 何が楽しいのか、ニコニコ笑いながら双子は言う。 

「……」

 分かる、とでも言うように慶も頷く。

「私の笑顔のどこが一体怖いのですか?」

 全くワケが分からない、といった感じだ。 
 こんなときでも顔は微笑みをかたどっている。ただし目は全く笑っていないが。


 そこだよ、と3人は思った。




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