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2人きりの王国
2人きりの王国
しおりを挟む「暇だ」
1人だけの静かな部屋に呟き声が落ちる。
その人物は、それはそれは綺麗な女だった。
歳は15ぐらいだろうか。色素の薄いキャラメルブラウンの髪は尻が隠れる程長く、髪と同色の瞳は猫を彷彿させる。シミ一つない肌は雪のように白く、スラッと伸びた手足は驚くほど細い。
まるで生気を感じない、人形のような少女だった。
何をするでもなく、少女はただぼーっと何も無い空間を見つめている。先程声を出したのが嘘のように、そのまま何時間も黙ってベットに座っていた。
「ただいま」
柔らかい低音の声が、死んだような部屋に響く。
玄関から入ってきたのは、端正な顔立ちの男だった。
歳は19ぐらいだろうか。ふわふわしたキャラメルブラウンの髪はうなじにかかる程度で、タレ目がちな同色の瞳は優しさを孕んでいる。少女とは反対に肌はまだ健康的な色をしており、程良く筋肉のついた手足はコチラもスラッと伸びている。
ほわほわとした空気を纏う、優しそうな青年だった。
青年が帰宅したことに気付いた途端、生気を感じられなかった少女の瞳に光が宿り、急いでベットから立ち上がる。
そして青年が部屋に入ってきた瞬間を狙い、少女が飛び付いた。
いつものことなのだろう。青年はビクともせず、己に飛び付いてきた少女を優しい眼差しで見下ろした。薄い背中に手を当て、宥めるようにぽんぽんと叩く。
「おかえりなさい、兄さん」
青年の胸元に埋めていた顔を上げ、少女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「あぁ、ただいま咲稀」
表情を柔らかく綻ばせ、青年は自然に少女─咲稀へと顔を近づける。そのまま止まることなく、咲稀の唇にひとつだけ軽い口付けを落とした。
それを驚く事なく受け入れ、なんなら離れようとする兄の首に両腕を回して「もっともっと」と続きをねだっている。
「今はだめ。先に手当てしないと」
「えー」
不満そうに不服を申し立てる咲稀を抱き上げ、青年はベットへと強制連行した。そしてそっと降ろしてベットに座らせると、頭部に軽く口付けを落とし、どこからか救急箱を持って来た。
「ほら、無茶するから足首赤くなってる」
「…兄さんに早く触れたかったし、しょうがないじゃん」
青年は咲稀の両足首に着けられた鉄製の足枷の片方のみを外し、炎症を抑える薬を患部に塗り込む。包帯を巻いた後に再び枷をしてからもう片方も外し、先程と同様のことをした。
他にも赤くなってる箇所がないかと、青年はベットの足に繋がれた首輪の内側や右太ももにはめられた枷も確かめる。
どうやら炎症を起こしていたのは足首のみだったようで、白い太ももや首には昨晩の赤い華が無数に散っているだけだった。
「うん、これで大丈夫だ」
「ならもういいよね、早くしよ」
「はいはい、僕のお姫様はせっかちだなぁ」
「わたしの王子様がゆっくりなだけ」
2人は和やかに笑い合いながら、本日二度目の口付けを交わした。そうして、求め合うままに口付けはどんどん深くなっていき、そのままベットへともつれ込んだ。
兄妹だからといって、かつて2人の仲の咎めて切り裂こうとした邪魔者はもう居ない。全て青年が消してしまった。
イビツでもいい、歪んでいても構わない。だって、これが2人の愛の形だから。自分たちは今が1番幸せなのだ。
憂いの無くなった2人だけの小さな王国で、恋人同士の兄妹は思う存分お互いに愛し合う。
青年と少女の濃密な1日は、まだ始まったばかりである。
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