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没話集
仮面を棄てたとき
しおりを挟む「はぁぁぁあ…」
ベットに背を預けたまま瞼を閉じ、大きくため息をつく。
嫌な夢をみてしまった。
俺が、まだ僕だった頃の夢。
愚かで弱かった、馬鹿な頃の自分の夢。
「本っ当…最悪…チッ」
目元を右腕で覆い、普段より低い、地を這うような声で独り言を漏らす。
夢であったことに安堵し、それと同時に未だ、あんなことを思い出しただけで思考が歪まされる自分に吐き気がした。
「ハハッ…どんなに努力したって、所詮俺は化け物だってことかよ……くっだらねぇなァ」
今までの努力が。
上っ面の仮面が。
こんな事考える自分が。
全部全部くだらない。
空気に晒された唇が歪に歪むのを自覚する。
でも、やめようとは思わなかった。
だって、俺は化け物だから。
よりそれっぽくなってお似合いだろ?
「…あ゙ぁ゙―…そういや今日も学校か…」
普段の起床時間通りに鳴ったアラームを耳にして思い出す。
今の思考回路のままで到底行けるはずない。さっさと切り替えなくては。そうして普段通り、“何も考えてなさそうなチャラ男会計である水無月真琴”という人物にならなくては。
あぁでも。
やっぱもういいか、演技止めても。
だってもう、疲れてしまったんだ。
偽りの笑みを浮かべることも、心無い言葉を発するのも。自分で始めたことなのに、本当情けないよな。
それに、生徒会室にあの人達はもう来ない。
転入生の柳瀬クンに皆んな夢中だ。
にこにこ笑って抱き着いてきていた双子から、蛆虫を見るような蔑んだ目で見られた。
幻覚の尻尾をブンブン振って懐いてきた慶は、俺を目にした途端に温度の宿らない目をして離れる。
2人きりになっても毒を吐かなくなっていた副会長は、冷ややかな目で再び毒を吐くようになった。
生徒会に入った俺を最初に受け入れてくれた会長から、存在を拒絶する言葉を投げ付けられた。
嫌われないよう演じていた外側でこんな始末だ。これじゃ傍から見れば俺はただの滑稽な道化師だ。
もう演じるのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
だから、もう、いいや。
俺は要らない。
1度決めてしまうと、一気に気分が凄く楽になった。
だから早速、廃棄物になった“チャラ男の俺”を滅多刺しにして殺す。跡形も無く、二度と蘇らないように。
そうすると更に気分は良くなり、そのままのテンションでベットから起き上がる。寝起きとは思えぬ軽い足取りで、今となっては遺物である、金色の頭髪スプレーと茶色のカラコンのある洗面所へと向かう。
洗面台の棚に隠し置いていたそれらを取り出し、雑にゴミ箱へと叩き入れた。ガシャンッと、遺物がゴミ箱の底に激突した音がする。
あ、カラコンまで捨てたけど、これじゃキモチワルイ自分の眼を見る羽目になんじゃん。………ま、いっか。
顔を上げた先にある鏡に写った銀髪の青年は無表情無感情で。赤と碧の眼のハイライトは跡形もなく消えていた。
これが俺。
仮面を外した水無月真琴の素顔。
なんの面白み一つとしてない、人間の形をした化け物。
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