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53.アリアの決意
しおりを挟むリカルドから、ディスタルから手紙が届き、三日後にフレルデントに一番近いウクブレストの小さな村に呼び出されたという事を聞いたアリアは、自分でも驚くほど冷静にリカルドの話を聞いていた。
話を聞いたアリアが取り乱すかもしれないと思ったのか、それは親族全員が集まった場で告げられた。
「もちろん、フレルデントはウクブレストに降伏するつもりなどない。僕は父上に代わり、ディスタルにそれを伝えに行ってくる。必ず戻ってくるから、心配しないで」
リカルドのその言葉に、アリアは、ふう、と息をついた。
心配なんてするに決まっていると思う。
それを口にすると、確かにね、とリカルドは苦笑いした。
「でも、必ず戻ってくるから、僕を信じて待っていてほしい」
「リカルド様の事は、もちろん信じてます。信じられないのは、ウクブレスト側です」
アリアはディスタルやスザンヌが、どれだけ卑怯でどれだけ残忍かということを、身をもって知っていた。
だから、戦争が始まるかもしれない今、そんな相手の元に、リカルドを行かせたくなかったのだ。
もちろん、一人ではなく、ステファンや兵士を連れていくだろう。
だけど、ディスタルとスザンヌは何をするかわからないとアリアは思っていた。
「リカルド様、お願いがあります」
「なんだい、アリア」
「私も、連れて行ってください」
「え?」
リカルドだけでなく、アリア以外の全員が驚いた。
「ちょ、ちょっと待って、アリア。君、何を言っているかわかってるの?」
「分かってます。ディスタル様と会われる時に、私も一緒に行くと言っているんです」
「危ないよ。遊びに行くわけじゃないんだ。君にもしもの事があったら、僕はおかしくなってしまうんだよ?」
「それは私も一緒です。それに、女がついていった方が、あちらも多少は油断するだろうし、おかしな事をしてこないかもしれません」
「アリア……」
リカルドは困った表情でアリアを見つめた。
リカルドを含め、誰もアリアに強く言えないのは、アリアの言葉にも一理あるからだろう。
危険な場所に大切な人を行かせたくない気持ちは、同じなのだ。
「坊、連れってっておやりよ」
そう言って助け舟を出してくれたのは、ロザリンドだった。
「でも、大ばば様……」
「アリアは引く気はないようだし……それに……」
「え?」
「アリアが居て良かったと思える事になるかもしれないだろう?」
自分が居て良かったと思える事……それがどんな状況下なのかは、アリアにはわからなかったけれど、リカルドは渋々頷いてくれた。
「絶対に僕から離れない事……約束できる?」
「はい、もちろんです。絶対に離れません」
「あともう一つ……僕についていくると、ディスタルとスザンヌに会う事になうけれど、大丈夫なのかい?」
「はい……大丈夫です」
確かにディスタルやスザンヌに会うのは気が重いが、今の自分はあの二人に以前傷つけられた自分ではないとアリアは思った。
リカルドと一緒なら、これから何があっても乗り越えていけると思うのだ。
「わかった、行こう」
「はい! ありがとうございます!」
腕を広げたリカルドに、アリアは飛び込んで抱きついた。
彼を失っては、多分自分は生きていけないだろう。
だからできるだけ傍に居て、彼と共に生き、守りかかった。
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