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37.悪女
しおりを挟む「王様と王妃様は、あの娘を、アリア・ファインズを、とても可愛がってらっしゃいましたね。それは、あの娘がディスタル様の婚約者だったからですか?」
「そんな事はない。まぁ、確かにあの娘は、こちらが望んで婚約者にしたから、それなりの対応はしていたが」
嘘だった。
ヨハンもヘレナも、本当はアリアを娘にできる日を楽しみにしていた。
「そうですか? でも、私にはとても可愛がっていたように見えたのです。だから、私の事も、可愛がってはいただけません?」
「例えば、どんなふうに?」
この娘は、ただ僻んでいるだけなのだろうか?
だが、何かとてつもない事を、企んでいるような気もする。
「私は今、ファインズの娘のせいで、大変迷惑をしておりますの」
「迷惑? どういう事だ?」
ヨハンが問うと、スザンヌは深いため息をつき、言った。
大袈裟な演技をしているようにも見える。
「私があの娘に、毒を盛ったのではないかという噂がありますの。大変、迷惑をしております」
ヨハンは顔には出さなかったが、息子の婚約者であるこの娘に、内心苛立った。
実際に毒を盛ったくせに何を言っているのだと思いながら、ヨハンはスザンヌの話を聞く。
「噂のせいで、私はとても傷つきました。だから、噂の元を罰してほしいのです。王であるあなたになら、それができるはずです」
「遠回しに言うな。お前は私に、どうせよと、言うのだ」
ため息をついてそう言うと、はい、と頷いたスザンヌは、信じられないような事を口にした。
「では、ファインズ公爵から爵位を剥奪し、家族共々国外追放とし、ファインズの屋敷を、私たちマッコール男爵家にいただけませんか?」
「お、お前は、何を言っているのだ! そんな事ができるはずないだろう!」
この娘は、やはり頭がおかしいと思った。
嫌悪感を顕にしてスザンヌを見ると、彼女は、ニタリ、と不気味な笑みを浮かべた。
「そう言えば、今日はお妃様は、どうされたのですか?」
「と、突然、何なのだ。妻は、今日は体調が悪く、部屋で休んでいる」
「あら、どうなされたのかしら?」
スザンヌは首を傾げると、開いた胸元から小さな瓶を取り出して、ちらつかせる。
スザンヌがアリアに毒を盛った事を知っているヨハンは、その小さな瓶の中に毒が入っているのではないかと連想した。
その時、
「国王陛下! お妃様が、突然胸を押さえて苦しまれてっ!」
と叫びながら、妃の侍女が部屋に飛び込んで来た。
すぐに向かうと伝えると、侍女は再び妃の部屋へと戻っていく。
「おい……もしかして、ヘレナに何かしたのか?」
「さぁ、どうでしょう?」
ニタリと笑ったまま、スザンヌは首を傾げる。
「おい、ディスタル、お前、自分の母親がどうなってもいいのか?」
「父上が、スザンヌの願いを叶えてくれれば、大事には至らないのではないでしょうか?」
「なん、だと?」
ヨハンは耳を疑った。
今のこの息子の発言は、自分の婚約者が母親に何かをした事を肯定しているも同然の発言だったからだ。
「それに、父上だって、婚約破棄の事では、ファインズとは気まずいのではありませんか? あちらもこちらに対し、思うところもあるでしょうし、これを機に距離を置かれてはどうでしょうか?」
「これを飲めば、すぐに落ち着かれると思いますわ」
「ディスタル……貴様っ……」
妃の命と親友を天秤にかけられ、ウクブレスト王は妃を選び取った。
心の中で何度も親友である、エランド・ファインズに謝りながら。
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