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25.歌
しおりを挟む「あの……私の声が出るようになったのは、先程、何かをしてくださったのですか?」
声が出る前に、アリアは喉にリカルドの口付けを受けた。
それから口移しで何かを飲まされて……顔を赤くしてリカルドを見上げると、彼も同じように顔を赤くして、あぁ、と頷いた。
「少し前に、大ばば様から、喉の呪いを解く方法を聞いたんだ。喉にまじないと、それから術者がすぐに薬を飲ませればいいとね。だからその……驚かせてすまなかった……」
「は、はい……」
「本当は、すぐにしてあげようかとも思ったのだけど、好きでもない男に触れられるのは嫌かもしれないと思ってしまって……すまない……」
「あの、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」
確かに喉を治すためとはいえ、リカルド以外に口付けられたくなかった。
アリアは自分を気遣うリカルドに感動した。
彼は素晴らしい男性だと思う。
彼に相応しい女性になりたいと思った。
そして、彼のために自分にできる事はないだろうかと考え、声が出るようになったら彼のために歌おうと思っていた事を思い出す。
「あの、リカルド様……」
「なんだい、アリア」
「あの、歌を……歌ってもいいですか?」
「もちろん、もちろんさ!」
リカルドは嬉しそうに笑った。
まるで子供のように笑う彼を愛しげに見つめ、アリアは頷く。
そして思いきり息を吸い込み、高らかに歌った。
それはあの日歌うはずだった歌で、この世界の者なら誰でも知っているであろう、全ての命を祝福する愛の歌――『祝福の歌』だった。
その『祝福の歌』を、アリアはリカルドへの想いを胸に、心を込めて歌い上げる。
歌っている間、彼女はいつもよりも声が伸び、歌いやすい事を感じていた。
このフレルデントの自然が、優しく背中を押してくれているのかもしれない。
この優しい国に祝福を。
そんな想いも込めて、アリアは歌った。
歌い終わると、拍手の音が聞こえた。
拍手の主はリカルドだったが、彼女の観客はいつの間にかリカルドだけでなく、森の動物や鳥たちがアリアとリカルドを囲んでいた。
そして。
「え?」
アリアは自分とリカルドの周りを、淡い光が飛び回っている事に気がついた。
目を凝らして淡い光を見つめると、羽のある小さな人型が見える。
これは何だろうと驚くアリアに、
「見えたようだね」
とリカルドの声がかかる。
「精霊たちだよ。君が歌ってくれたのが、とても嬉しいようだ。素晴らしかったからね」
「精霊? これが?」
「あぁ、いつも君のそばにいて、守ってくれていた精霊たちだ」
「そうなの? 今まで見えなくてごめんなさいね。それから、ずっとそばに居てくれてありがとう……」
謝罪と礼を言うと、淡い光の中に見える人型は、みんな笑顔で頷いてくれ、アリアは自分が本当に精霊たちに愛され、守られていた事を実感した。
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