上 下
16 / 80

16.ウクブレスト王の苦悩

しおりを挟む
 現ウクブレスト王である、ヨハン・ウクブレストの伸ばした手の指先に、小鳥がとまる。
 ヨハンは小鳥に魔法をかけ、息子であるディスタルと、婚約者となったスザンヌを探らせていたのだ。
 彼は小鳥が見聞きしてきた事を確認すると、はぁ、と深いため息をついた。
 役目を終えた小鳥は、ヨハンの指先から飛び立っていく。

「あなた……アリアの件は……」

 ヨハンに声をかけたのは、彼の妻であるヘレナだった。

「あぁ、やはりディスタルとスザンヌが原因のようだった」

 ヨハンは頷くと、また深いため息をついた。

「ディスタル……なんて事を……」
「あぁ……あの精霊に愛されている娘を傷つけるなど……」

 アリア・ファインズはヨハンにとって親友である、エランド・ファインズ公爵の次女だった。
 アリアが精霊に愛されている娘だという事に、ヨハンが気が付いたのは、十年以上も前の事で、彼がヘレナと共にファインズ公爵家に招かれてた時の事だった。
 庭から愛らしい歌声が聴こえ、ヘレナと共にそちらへと目を向けた彼は驚いた。
 歌う少女の周りを、精霊たちが嬉しそうに飛び回っていたからだ。
 ヨハンには、昔から精霊が見えていた。
 だから一目でわかったのだ。
 この少女は精霊たちに愛されており、癒し守る事ができる力を持っている事を。
 そして、少女が精霊たちに愛され続ける限り、精霊たちは少女を守り、少女の願いを叶えるために、力を貸し続けるのだろうと。

 ウクブレスト王国は、近代化が進んだ王国だった。
 最新の兵器を開発し、他国を攻め、領土を広げてきた。
 だが、それと同時に、ウグブレスト王国は信仰と伝統を失っていった国でもあった。
 信仰と伝統を失うという事は、魔力の衰退を意味しており、現にウクブレスト王家の魔力は少しずつ失われていき、ヨハンの父親は魔力を持たずに生まれていた。
 その息子であるヨハンは魔術師であった母の血と考え方の影響で、精霊が見えるほどの魔力を持って生まれたが、後継であるディスタルの魔力は、ささやか過ぎるものだった。
 だから、ヨハンは次代の王となるディスタルのために、この王国のために、精霊に愛されているアリアを求めたのだ。
 だがディスタルは反発し、別の女性を妻にするために、精霊に愛されるアリアを陥れ、傷つけた。

「この国は、精霊たちの怒りを買ってしまったかもしれないな」

 うなだれるヨハンに、ヘレナが寄り添う。
 魔力が衰退したウグブレストは、今後更なる近代化の道を進み、他国を侵略し、恨みを買っていくのだろう。
 近い未来、周りに味方はなく、敵ばかりになってしまうのかもしれない。
 だから、ヨハンはあの娘が欲しかった。
 癒し守る力を持つに、この国を愛し守ってもらいたかったのだ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

聖人な婚約者は、困っている女性達を側室にするようです。人助けは結構ですが、私は嫌なので婚約破棄してください

香木あかり
恋愛
私の婚約者であるフィリップ・シルゲンは、聖人と称されるほど優しく親切で慈悲深いお方です。 ある日、フィリップは五人の女性を引き連れてこう言いました。 「彼女達は、様々な理由で自分の家で暮らせなくなった娘達でね。落ち着くまで僕の家で居候しているんだ」 「でも、もうすぐ僕は君と結婚するだろう?だから、彼女達を正式に側室として迎え入れようと思うんだ。君にも伝えておこうと思ってね」 いくら聖人のように優しいからって、困っている女性を側室に置きまくるのは……どう考えてもおかしいでしょう? え?おかしいって思っているのは、私だけなのですか? 周囲の人が彼の行動を絶賛しても、私には受け入れられません。 何としても逃げ出さなくては。 入籍まであと一ヶ月。それまでに婚約破棄してみせましょう! ※ゆる設定、コメディ色強めです ※複数サイトで掲載中

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...