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第4章:ゴブリン・スタンピード

人質①

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「王宮に居る、オブルリヒト王の側室を人質にできる人間ねぇ」

 深い息をついてエリザベス様が言った。
 多分エリザベス様の中では、本当の黒幕が誰なのか、想像できているんだろうと思う。

「まだ、アルバトスが黒幕って言うんだな」

 呆れたように言ったユリウスに、エミリオは俯いたまま、あぁ、と頷いた。
 今のエミリオは、まるで、アルバトスさんが黒幕だとしか言えないみたいにも見える。

「悪い、ちょっと席を外す……。リュシー、オリエを頼む……」

「え? あ、あぁ」

「え? ユリウス?」

 ユリウスは、行ってくる、と言うと、姿を消した。
 この建物内からテレポートの呪文を使ったんだろうけど、どこに行っちゃったの?

「オリエちゃん、あいつ、どこ行ったの?」

「わ、私にも、わからないですっ」

「この部屋から直接テレポートで消えやがって……あいつ、本当に何者なんだっ!」

 だん、と机を叩いて、アントニオさんが言った。
 建物内から直接テレポートの呪文を使うのは、かなりレベルの高い魔法なのだそうだ。
 いつもは目立たないように、街の外から使っているのに、今はよほど急いでいたってことなのかな。
 全然関係ないけど、アントニオさんって、すごくよく机を叩くよね。癖なのかな。
 パワハラで訴えられなきゃいいけど。

「あの……オリエさん、でしたか?」

「はい?」

 名前を呼ばれたから振り返ると、私に声をかけてきたのはエミリオだった。
 エミリオは私の顔をじっと見つめると、

「あの……あなたがもしも、ジュニアス兄上が言っていた方なのだとしたら……先ほどの男は、本当に一体誰なのですか?」

「おい、どういうことだ?」

 アントニオさんが反応した。なんか面倒なことになりそうな予感しかないので、余計なことを言うなという意味も兼ねてエミリオを睨みつけると、エミリオはすぐに黙り込んで俯いた。

「おい、お預けかよ! 気になるじゃねぇか!」

 アントニオさんがまた机を叩いたけど、エミリオは黙ったままだった。
 アントニオさんの必殺パワハラ机叩きよりも、私というか、今はこの場に居ないユリウスのが怖いと思ったのかもしれない。
 この子、今回ものすごいことをやらかしたけど、本当は小心者の優しい子なんじゃないかな。
 あと、アントニオさんは、やっぱりいつかパワハラで訴えられるような気がする。

「くそ、言いかけたのなら、最後まで言えってんだ」

 と、アントニオさんはしばらくぶつぶつと言っていたけれど、私もエミリオも無視していたので、そのうち諦めたようだった。
 多分エミリオは、私がジュンと共に異世界から召喚された人間なのかということを、聞きたかったんだと思う。
 そしてそれが事実なら、私の夫だというユリウスが何者なのかが気になったんだろう。
 ジュニアスがエミリオにどんな説明をしているのかはわからないけど、恐らくオリエという異世界から来た女を連れて逃げたのは、ユリアナとアルバトスということにしているだろうと思う。
 だけど、今私の隣に居るのはユリアナではなくユリウスだから、あの男は誰だってことになるし、ユリアナはどうしたんだってことになるんだろうな。
 まぁ、ユリウスとユリアナは同一人物なんだけど、みんなそれは知らないことだからね。


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