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第4章:ゴブリン・スタンピード

知合いですが?

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「ところでよ……あぁ、もう、何から突っ込めばいいか、何から聞けばいいかわかんねぇっ!」

 エミリオの傷を治したアントニオさんは、頭をガシガシと搔きむしった。
 それから私を――正確には私が抱っこしているサーチートを指さし、「とりあえず、そいつは何だ!」と叫ぶように言った。

「ぼくの名前わわっ」

「えっと、この子はっ……私の従魔ですっ」

 いつもの通り歌いだしそうになるサーチートの口を押えてそう叫ぶと、

「じゃあ、お嬢ちゃんは誰だ!」

「私はっ、えっと……」

 あれ? サーチートは私の従魔って答えることにしたけど、私のことは何て答えたらいいんだっけ?
 混乱した私の方を、ユリウスの長い腕が引き寄せる。

「彼女はオリエ。俺の妻だ」

 私はユリウスの妻……うん、そう答えれば良かったんだよね。

「そして俺は、ユリウス。彼女の夫で、最近ビジードの冒険者ギルドで世話になっている冒険者だ。それはさっきも説明したな」

「あぁ、そうだな。で、お前らは、アルバトス・フェルトンと知り合いなのか?」

 あれだけサーチートが騒いだら、そりゃ気付くよね。

「ユリウスくん、ごめんなさい……」

 目を潤ませて謝るサーチートの頭を撫でて、ユリウスは頷いた。

「あぁ、知り合いだ。それがどうした?」

「どうして黙っていた!」

 バン、とテーブルを叩いてアントニオさんが言った。
 アントニオさんはきつい眼差しでユリウスを睨みつける。

「言う必要なんてないだろう。それに、アンタはアルバトス・フェルトンを信じようとしていたんじゃないのか?」

「そう思ったが、お前が今、それをひっくり返した。理由は、お前がアルバトスとの関係を隠していたことと、エミリオ王子と似ていることだ! エミリオ王子の言うように、アルバトスが黒幕で、お前もその仲間という可能性だってあるだろう!」

「アルバトス・フェルトンは断じて黒幕などではない」

 睨みつけてくるアントニオさんの視線を真正面から受け止めて、ユリウスが言った。

「そんなこと、信じられるか! そして俺にアルバトスの無実を信じられなくさせたのは、お前らだ!」

 アントニオさんがそう怒鳴り激しく机を叩いたとき、俯いていたエミリオがゆっくりと顔を上げ、ユリウスを見た。

「その姿……お前は、一体誰だ?」

 驚き目を見開いて自分を見つめるエミリオに対し、ユリウスは何も言わずにただエミリオの顔を見つめ返していた。
 何も言わないユリウスに焦れたのか、エミリオは私に目を向け、私が抱っこしているサーチートへと目を向ける。

「さっきのおかしな生き物……城の者たちが、小さいが恐ろしい針の魔物が居ると言っていた……それから、その針の魔物と一緒に居た女……」

 サーチートを見ていた目が、再び私に向けられる。
 私はエミリオを知らないけれど、彼は私のことを知っているみたいだ。

「ジュニアス兄上が言っていた……確か名前は……」

 うわ、名前まで知ってるの?
 ここで名前を出されたら、またいろいろと面倒なことになりそうだ。
 だけど、エミリオが私の名前を言おうとした瞬間、ユリウスがエミリオに近づき、その大きな手口を塞いだ。

「ジュニアスが、何を言ってたって?」

「ん、ぐぐっ」

 エミリオを見つめ、ユリウスは唇の端を持ち上げ、冷たい笑みを浮かべた。

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