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第3章・冒険者デビュー

そんな場合ではないでしょうに

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 聖水を納品した翌日、朝食を食べていると、のんびりとアルバトスさんが言った。

「そう言えば、いよいよジュニアス王子が自分こそがルリアルーク王だと、宣言するようですねぇ」

「え? 何で知ってるんですか?」

「サーチートくんが、これを見せてくれましたからね」

 ぴらりと見せられたのは、昨日商都ビジードでばらまかれていた号外だ。
 私たちが受け取った分は、子供にあげたけれど、サーチートが持って帰って来ていたようだ。

「まぁ、ジュニアス王子は、ずっと自分がルリアルーク王になりたいと思ってらっしゃったようですが……世界に向けて宣言とは、派手な事をされますねぇ」

 号外を見ながら、アルバトスさんは深いため息をつく。

「オリエちゃん、ジュニアス王子って、誰だっけ?」

 くい、と首を傾げてサーチートが言う。
 サーチートもジュニアスにはいろいろとひどい事をされたと思うんだけど、どうやら忘れちゃったらしい。
 この世界に来て、かなり経ったもんなぁ。

「でも、ぼくはユリウスくんの方が、ルリアルーク王みたいだって思うんだけどなぁ。ジュニアス王子っていう人も、ユリウスくんみたいに、ルリアルーク王みたいな人なの?」

「さぁ、どうでしょう? だけど、ジュニアス王子は誰かが自分こそがルリアルーク王だと言う前に、名乗ってしまいたいのでしょうね」

 ちらりとユリウスに視線を移し、アルバトスさんが言った。
 ユリウスは興味なさそうに、そうなんだろうね、と言う。
 ステータスに、『ルリアルーク王の父』と記載されている、現オブルリヒト王の息子であるジュニアスが、自分こそが現世のルリアルーク王であると宣言するなら、ルリアルーク王と違う色を纏っていたとしても、民衆は信じるだろうしね。
 実際、今もジュニアスがそうだと信じている人が大勢いるはずだ。これだけ派手に宣伝しているんだからね。

「まぁ、ルリアルーク王を名乗りたいなら、好きに名乗ればいいけど……。そんな事やってる場合かとは思うな」

 深いため息をつくユリウス。どうしたのかと尋ねると、ユリウスはアルバトスさんへと目を向け、言った。

「伯父上、ゴブリンって、こんなに多いものでしたっけ?」

 え? どうしてゴブリンの話?
 首を傾げると、サーチートが、ものすごーく多いよね、と、ものすごく嫌そうな表情をした。
 そりゃ、ゴブリンホイホイしてしまうサーチートは嫌だろうけど、今、どうしてゴブリンの話が出るんだろう?

「そうですね、確かに最近のゴブリンの多さは、異常だと思います。このシルヴィーク村の森付近には居ないようですけど、ネーデの森では異常発生していますからね。それに、黒魔結晶の件もある……」

「あ、そうか……」

 確か、ゴムレスさんも黒魔結晶の件は、脅威度はSクラスって言ってたな。
 それに、最近のゴブリンの多さの件……確かに一国の王子として、世界中に自分がルリアルーク王であると宣言してる場合じゃないよね。
 そんな事よりも、魔物対策に動くべきだ。

「伯父上は、どう思いますか? 今回のゴブリンの異常発生……商都ビジードのギルドでは、すでに対策を講じているようなのですが……」

「商都ビジードは、冒険者ギルドも商業ギルドも本当に優秀ですね。それに、おそらくガエールの方でも同じように動き始めているでしょう。それがいつなのかはわかりませんが、おそらく起こる可能性は高いでしょう……。本当に、自分がルリアルーク王だという宣言など、している場合ではないですよ」

 ユリウスとアルバトスさん、なんかものすごく怖い事を話しているんじゃない?
 一体何が起ころうとしているの?

「オリエちゃん、ゴブリン・スタンピードだよ」

「え? それ、何?」

「あのね、ゴブリンが大量発生してね、それが暴走して人々を襲ってくる事だよ」

 え? それって、大変じゃん!
 ジュニアス、本当に何やってるんだよ!

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