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第3章・冒険者デビュー
殴られてやるよ②
しおりを挟む「てめぇっ!」
怒りで我を見失ったのか、リュシーさんはユリウスの胸倉を掴み上げると、床に叩きつけて馬乗りになり、顔を殴り続ける。
「ちょ、ちょっと、リュシーさんっ!」
確かにユリウスは自分で殴れって言ったけれど、これはやりすぎだろうと止めようとすると、
「リュシー、その人はユリウスさんです! ジュニアス王子じゃないわ! やめて!」
ガウンを羽織り、おぼつかない足取りで部屋から出てきたジルさんが、リュシーさんにしがみついた。
ジルさんに抱きつかれてリュシーさんの動きが止まった隙に、私はリュシーさんの下からユリウスを引き離した。
「すまなかった。殴りやすくなるかと思って、あの馬鹿が言いそうな事を口にしたんだ。誤解のないように言っておくが、俺自身は全くそんな事を思ってはいないからな。あんたの腕は確かだ。俺は最近いろんな森でゴブリンや他の魔物と戦っていたが、大したけがもしていない。あんたはあの馬鹿にはもったいない技量の持ち主だよ」
ユリウスの言葉を聞いたリュシーさんは俯いて、震えながら顔を覆って泣いていた。
ジルさんがそんなリュシーさんの体を、ぎゅっと抱きしめる。
「ユリウス、殴ってごめん……」
腕で乱暴に目元を拭うと、リュシーさんが言った。
「いや、殴らせたのは俺の方だから。スッキリしてもらえるかと思ったんだけど、逆効果だったみたいだな。こちらこそ、すまなかった」
互いに謝り合う二人を見て、私とジルさんは胸を撫で下ろした。
「ねぇ、ユリウス。アンタさ、なんで殴られてもいいなんて言ったのさ。さっきのセリフも、まるでアイツに言われたみたいだった。だから思わず殴っちゃったんだよ」
「俺を殴る事で、多少はあんたの気も晴れるかと思ったんだよ。俺の顔を見るたびにジュニスの馬鹿を思い出して、イライラされるのも嫌だったからな」
「まぁ、確かにアンタの顔を見てあの馬鹿王子を思い出す可能性がないとは言えないけどさぁ。アンタって、どこかあの馬鹿王子に似てるからさ」
「あぁ、そりゃ仕方ない事だ。俺は迷惑でしかないが、あのクズとは半分血が繋がっているからな」
「え?」
あっさりと爆弾発言をしたユリウスに、びっくりした。
びっくりしたのはリュシーさんとジルさんもだったみたいで、目を見開いてユリウスを見つめていた。
「え? ちょっと、どういう事? アンタ今、何て言った?」
「何って、どのあたりだ?」
俺、何か言ったっけ? みたいなノリで、ユリウスが首を傾げると、リュシーさんが声を荒げて言った。
「だから、半分血がどうのってあたりだよ! それって、誰と誰の事だよ!」
「あぁ、俺と、リュシーの嫌いな馬鹿王子の事だよ。まぁ、俺はアイツの事は、昔から大嫌いだったけどな」
「何だよそれ! 詳しく聞かせな!」
「あぁ、あんたにだったら、いいよ。教えてもいい。ただ、その前に……」
「あ?」
「とりあえず、着替えてこいよ。俺は逃げないからさ」
ユリウスはリュシーさんとジルさんを見ると、苦笑した。
二人ともガウンを羽織っているだけで、そのガウンもかなりはだけてしまっていて、素肌だけでなくいろんな跡が見えちゃっているのだ。
頷いたリュシーさんはジルさんを抱き上げると、ちょっと慌てて部屋に戻って行った。
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