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第3章・冒険者デビュー
明日からは別行動
しおりを挟む王都オブリールへと旅立つローレンスさんを見送った後、私たちは人気のないあたりまで歩いて移動し、テレポートの呪文でシルヴィーク村に帰ってきた。
工務店のおじさんたちの護衛任務の間は、ずっとビジードの宿屋に泊まっていたから、家に帰ってくるのは久しぶりだった。
「アルバトス先生、ただいまー!」
と、元気いっぱいに走り込んだサーチートを、アルバトスさんは穏やかな表情で受け止める。
「護衛任務、お疲れ様でした。大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫です。無事に終わりました。必要以上の木材を用意する事ができたそうです」
「そうですか、それは良かったですね」
「でもね、アルバトス先生、ぼくたち、また新しい依頼を受ける事になったんだ!」
「そうなのですか? では、お茶でも飲みながら、ゆっくりと聞かせてください」
「うん!」
みんなでリビングへと移動して、お茶は私が淹れた。
ビジードに居た時の空き時間に、美味しい紅茶とクッキーを買ってきたんだよね。
お茶とお菓子を楽しみながら、サーチートは嬉しそうにアルバトスさんに報告する。
「あのね、先生、新しい依頼っていうのはね、オリエちゃんがキヨラ草からたくさん聖水を作る事と、ぼくとユリウスくんで、たくさんキヨラ草を集める事だよ」
「では、サーチートくんは、頑張らなくてはいけませんね。どのあたりを探すのですか? ネーデの森を探すのですか?」
「えーと……」
サーチートはユリウスを、ユリウスはサーチートを見つめる。
「サーチート、ネーデの森には、キヨラ草、あったんだよな?」
「うん。でも、あそこはゴブリン、たくさん居るよねぇ。ぼく、ゴブリン嫌だなぁ」
サーチートは、ゴブリンを呼び寄せるゴブリンホイホイという残念なスキルのせいで、ゴブリン恐怖症みたいになっているのかもしれない。
そりゃあ、ゴブリンに追いかけられるの、嫌だよねぇ。
サーチートには、体当たりする事くらいしか、ゴブリンに攻撃できないだろうし、それも通用するとは到底思えない。
ユリウスはゴブリンキラーってスキルを会得しているけれど……やっぱりサーチートはネーデの森に行くのは嫌そうだ。
「俺もリカバー使えるから、かけてあげられるけど……」
「でも、他の森でも見つかるか、探してみたいなぁって思うんだ。シルヴィーク村の周りの森も、隅から隅までちゃんと調べたわけじゃないし、あの大きな熊が居たゴヤの森にもあるかもしれないし」
「確実にありそうなのはネーデの森なんだろうけど……他の場所も探してみようか」
「うん、そうしよう!」
ネーデの森に向かわずに済んで、サーチートが安心した表情をする。
よほど行きたくなかったみたいだ。
「ねぇ、オリエちゃん、ぼく、オリエちゃんのために頑張るから、明日はお弁当作ってね!」
「うん、わかった。美味しいの作るね!」
「わーい、楽しみ~」
無邪気に喜ぶサーチートを見て、ちょっと心配になった。
ユリウスが居るから大丈夫だとは思うけれど……サーチートはお調子者だから、気になるなぁ。
明日、ゆっくりとお弁当を食べられるような状態だったらいいんだけどね。
サーチートをアルバトスさんに任せて自室に戻ると、背後から長い腕が体に巻き付いた。
「明日から別行動だね」
と言うユリウスに、そうだねと頷くと、彼は私に一つだけ約束をしてほしいと言った。
「約束って、何?」
「俺が君のそばに居ない間……俺が戻ってくるまでの間、このシルヴィーク村から外に出ない事……。ここは、結界のおかげで安全だから」
「うん、わかった……」
ユリウスがサーチートと共にキヨラ草を探している間、私にも聖水を作るという役目がある。
だから村の外に出るつもりはないけれど……ユリウスはものすごく私を心配しているようだった。
「ねぇ、ユリウス。何かあった?」
「いや、離れている間、寂しいし、心配なだけだよ」
「そう?」
なんとなくそれだけが理由じゃないような気がするんだけど……私の首筋に唇を落としたユリウスは、それ以上答えてくれなかった。
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