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第2章・のんびりまったりスローライフ?
VS巨大熊②
しおりを挟む「ねぇ、ユリウス様、とりあえず、今は逃げましょう! あの熊、ヤバいですよ!」
ユリウスは私を抱いたまま、まだ目の前の巨大熊を睨みつけていた。
ジャンくんは必死に逃げようと言っていたけど、ユリウスは視線を巨大熊から離さないまま、首を横に振った。
「駄目だ。逃げてもこいつは追いかけて来る。それに、なんとか逃げ切れたとしても、こいつはここでまた他の動物たちを魔物化させて力をつける。だから、今ここで倒すしかない」
ユリウスは淡々とした口調でそう言った。
「でも!」
ジャンくんは尚もユリウスを説得しようとしたけれど、ユリウスはジャンくんの名前を呼ぶ事で、それを遮った。
「ジャン……オリエを頼む。絶対に奴をお前たちの方には行かせないから、逃げろ」
「やだ! 逃げないよ!」
私がユリウスの腕の中で叫ぶように言うと、わかった、と彼は小さく頷いたけれど、その間も視線は巨大熊から離す事はなかった。
「じゃあ、ここから少し離れていてくれ。ジャン、モネ、オリエを頼んだぞ」
ユリウスは私を地面に下ろした。
そっと降ろしてくれたのだけど、木に強くぶつけた体が痛み、一瞬よろめいてしまった。
「オリエ?」
ユリウスの視線が巨大熊から外れる。
そして、その瞬間を待っていたかのように、巨大熊が吠え、右腕を振り上げた。
「グォォォォ!」
右腕を振り上げた巨大熊と、目が合ったような気がした――巨大熊が狙っていたのは、私だった。
「きゃあっ」
背中を押されて、気づくと斜め後ろに居たモネちゃんを押し倒すような形で、二人して転んでいた。
「ジャン、早く連れて行け!」
ユリウスが叫び、わかりましたとジャンくんが叫び返す。
私はジャンくんに引っ張り上げられるようにして立ち上がり、同じく立ち上がったモネちゃんに肩を借りて、二人に引きずられるように歩き出す。
「さぁ、オリエさん、とりあえずここから離れますよ! モネ! わかってるな! 急げっ!」
「わかってるわよ! ほら、サーチートも行くわよ!」
「ちょっと、待って! でも、ユリウスがっ! ユリウス!」
ジャンくんとモネちゃんにがっしりと抱えられて、私は後ろを振り向く事ができなかった。
それはまるで、わざと後ろを、ユリウスの方を振り向かせないようにしているようで――。
ちょっと待て。
さっき振り上げられていたあの巨大熊の右手は、私を狙っていたはずだ。
だけど、私は背中を押されてモネちゃんの元に倒れ込んで、無事だった。
じゃあ、あの振り上げられていた右手は、どうなったのだろう?
空振りだったのか、それとも。
嫌な予感に、どくんと胸が大きく鳴った。
「ジャンくん、モネちゃん、ごめん、放して!」
私はそう言うと、精一杯暴れて二人の腕を振りほどき、振り返る。
そして私が見たものは、左肩に巨大熊の鋭い爪を食い込ませた、血だらけのユリウスの姿だった。
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